第50話 恋の矢② 夜々の邑珠姫Side
あの男はっ!
あの綺麗な男は、あの部屋を利用した!
あの男は宮廷内部の今の状況をよく把握していたわ!
今日は天蝶節!
私が鷹宮さまを狙う法術をかけられたとして……?
よく考えるのよ、
自分だけ助かったとほっとしている場合ではないわ。
今日のこの日、御咲の国は皇帝陛下のお誕生日を祝う天蝶節で都も宮中も浮かれている。
この日を狙って、激奈龍の
つまり敵は、鷹宮さまを法術で殺めることができると知ったのだ。
そして花蓮姫は先ほど都の方に飛翔して行った。
もしかして、宮中から外に赤い竜はおびき寄せられた?
福仙竜は煌めく美しい鱗を持ち、空を自由に飛び、万霊を掌握すると言う。特に赤と白の鱗を持つ竜は最上格とされ、赤い煌めく竜、正式には
いまや
鷹宮さまをお守りするはずの五色の兵には敵が混ざっていた。
極華禁城には天蝶節で先の皇帝である時鷹さまと現皇帝である永鷹さまがお揃いになっている。
秦野谷国の
この日、隣国の2つが極華禁城の中にいることになる。
激奈龍から助けてくれたように見える
もしや?
どういうことかしら?
冥々の家の
窓から雪を被る庭の木が見える。
この部屋で、
不意に込み上げた涙を私は指ではらった。
「敵がすぐ近くまで、
私の後を追ってきてがらんとした冥々の家の
私はそのまま
法術を使ってでも、すぐに皇帝にお知らせしなければっ!
そこで、頭巾を被った透き通るような瞳をした若君にぶつかったのだ。
「鷹宮さまっ?」
ふっと笑った美しい若君は、低い声で私に囁いた。
「鷹宮に見えるだろ?この姿のおかげでここまで誰も私を止めなかった。また会えた、
雪の残る前宮で、私の熱くなった心は、信じがたいほどのときめきに押し倒されそうだった。目の前の若君は明らかに鷹宮さまとは違った。声と目線が異なる。
鷹宮さまはこれほど愛おしげな瞳で私を見つめたりは決してしない。これほど優しい瞳で私を見たりはしない。
私を見つめる目が明らかに違う。
そして声が全然違う。
「
見上げる私の視線の先には、透き通るような瞳があり、桃の花に積もった白い雪に陽が照り付け、輝くような煌めきが
私の目には、
「もしかして……?あなたさまは秦野谷国の皇子でいらっしゃいますか?」
おそるおそる確認する私に、彼は笑みを浮かべて優しく囁いた。
「
私はバタバタとこちらに駆けてくる足音に気づいていたが、今更ながら
2人とも死ぬほど驚いたといった顔をしている。
「こちらは、秦野谷国の
私の頬は赤く上気し、
鷹宮さまそっくりの皇子に愕然としている姫2人に、私は追い討ちをかけるように今の状況を教えた。
「
優琳姫と
『なんですって!?』と思ったでしょう?
姫2人の顔に書いてあるわ。
「鷹宮のフリをしてここまで来たんだが、先の皇帝と永鷹さまが危ない。あなたたちは宮中を案内できますか?」
鷹宮さまそっくりの
「えぇ、私も時鷹さまと永鷹さまが危ないと思いまして、今すぐに知らせに行こうとしておりました」
私がそう言うと姫2人も慌てた様子で話した。
「そうなんです!五色の兵が松羽宮の向こうを大挙して向かっています!法術にでもかけられたかのように変な様子でして、今日何か謀反でも起きたのかと心配で」
「選抜の儀どころではなく、御咲の国の一大事に直面しているように思いますわ。62家の一員としては、この一大事を馬で知らせに駆けるべきかと話しておりました」
優琳姫と
「じゃあ、皆で行きましょう」
私は両手を広げた。
「私が法術を使うわ」
次の瞬間、
私を怒らせたら、ただじゃ置かないわよ。
御咲の国は私の国。私は西一番の大金持ちの夜々の家の今世最高美女なのよ。
秦野谷国の鷹宮さまそっくりの
私の心は恋で溢れそうになっているかもしれない。
恋の矢が私に真っ直ぐに飛んできて、私を射抜く寸前だ。
でも。
まだ、油断してはだめ。
彼もまた私を利用しているだけかもしれないじゃない。
私は恋にウブだから、今世最高美女と言われてチヤホヤされるのに慣れすぎて、カラカイがいがあるめでたい姫に見えているかもしれないけれど……。
私は銀髪の
後ろから優琳姫と
天蝶節の宮廷は空から見下ろしても美しかった。雪模様の宮廷は見事な眺めだったのだ。
私の入内は、予期せぬ展開になったようだ。
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