第17話「届かぬ願い」

 夜の静寂が降りたラボの通路を、アルマは杖(つえ)のように使っていた手すりをそっと離し、自分の足で歩もうとした。白く塗られた壁には淡い蛍光灯の光が反射し、どこか無機質な冷たさを感じさせる。ついさっきまではリハビリルームのベッドで休んでいたが、技術者の手が離れた一瞬、彼女は多少の自由行動が許された“フリータイム”を使って廊下へ出ていた。


 ただし、完全に一人というわけではない。後ろには監視役らしき企業スタッフがひとりいて、彼女の動きから目を離さない。必要以上に干渉はしてこないが、その存在感はまるで“介護者”というより“保護監視”に近い。アルマはそのことを理解しているが、いまは深くは抗(あらが)わない。自分がここで修理され、こうして再び“歩ける”ようになった以上、しばらくは協調するしかないと考えていた。


 「……早く、皆のところへ行きたいな」


 小さく呟(つぶや)いたアルマは、廊下の先にある観察ブースを思い浮かべる。理久(りく)や凛花(りんか)、それに若いスタッフとの面会は、時間が決められており、少ししか一緒に過ごせない。昼間はリハビリやメンテナンス検査が多く、夜は宿泊区画で別々に就寝しなければならないのだ。いまの“フリータイム”も、施設側が認めた範囲での移動に限られ、外へ出ることはもちろん、建物の一部区域すら立ち入り禁止となっている。


 「アルマさん、夜に無理すると体への負担が大きいですよ。リハビリルームに戻りましょう」


 後ろから監視スタッフが声をかける。彼は優しい口調を装っているが、その目は冷静にアルマの動きやバランスを観察している。


 「分かってる……ちょっとだけ……この廊下を歩きたかったの。ボクが“自分の足”で歩けるか、確かめたくて……」


 アルマはかすかな笑みを浮かべて振り返る。足の筋力やバランスは、交換パーツの影響でまだ不安定だが、少しずつ慣れてきた。こうして廊下を数メートル歩くのにも集中が必要だが、“生きている”という実感が湧(わ)く。


 「そうですか。では、もう少しだけ付き合いますよ」


 スタッフが形式的な笑みを見せる。アルマは再度ゆっくり足を運び、壁沿いの手すりに手を添えながら、数歩ずつ進む。施設全体が深夜モードに入っているのか、天井照明は部分的に消灯されており、非常灯だけが静かに輝いていた。床には磨(みが)きこまれたタイルが広がり、足音が細く反響する。


 (理久さん……凛花さん……今ごろ休んでるかな)


 心のなかで二人を想う。自分が再起動したあと、彼らがどれほど喜んでくれたか、アルマは断片的な記憶と映像データで知っている。顔を合わせたときの彼らの表情――あのときボクは少し気恥ずかしくて、ちゃんと目を合わせられなかったかもしれない。


 同時に、アルマは自分の“存在”に纏(まつ)わる不安を抱いていた。自分が軍事レベルのプロトタイプである可能性が高いこと、そして企業や政府に狙われるかもしれないこと。ボクは……本当にこのまま生きていていいのだろうか、と。


 「……悩んでても仕方ないよね。ボクは、あの地下で死ぬはずだった。いまは……生きるチャンスをもらってるんだ」


 小さく声を出して自分に言い聞かせる。監視スタッフが「何か言いましたか?」と反応するが、アルマは「ごめんなさい、独り言……」と笑顔を作る。スタッフは特に疑問を抱く様子もなく、あっさり納得した。


 #### * * *


 それから少しして、アルマはリハビリルームへ戻り、決められた時間の睡眠モードに入った。もっと自由に彼らと過ごしたい――そう思っても、この施設が許してくれない。安全と引き換えに管理される日々だ。


 一方、同じ夜。理久は宿泊区画の自室でなかなか寝つけずにいた。アルマが確かに意識を取り戻し、歩行のリハビリを始めたことは嬉しいが、サングラスの男やスーツの女性が示唆する“今後の扱い”を考えるほど、焦燥(しょうそう)感が募る。

 ――アルマを守りたい。しかし、どうすればいい? 企業と契約を結ぶことで、とりあえず合法的に活動させられる可能性もあるが、それは彼女が“物”として登録される前提だ。彼女が望む“人間のように共に生きる道”には程遠い。


 (もし……政府や警察に助けを求めたらどうなる? 結局は“危険な軍事アコア”として引き渡しを要求されるだけかもしれない。それどころか、俺たちも罪に問われる?)


 理久は枕(まくら)を抱え込むようにしながら思考の渦に沈む。疲れているのに眠れない。薄暗い天井を見上げ、静まる部屋の空気を感じる。若いスタッフや凛花も、それぞれ悩んでいるのだろう。誰もが確固とした答えを見いだせず、ただ“明日”を迎え続けているのが現状だ。


 数時間後、朝が訪れても、ラボ内には外の日差しが届かず、朝だという確証もない。館内放送が「現在、午前7時です」と流れ、理久はのろのろと起き上がる。隣室から凛花の気配が感じられ、軽くノックするとすぐに「起きてるよ」と声が返ってきた。


 「やっぱり眠れなかった? 顔が真っ青だよ、理久さん」

 凛花が扉を開けて苦笑する。自分も目の下にクマができているようだが、お互い突っ込みを入れられないほどの精神的疲労が漂う。


 「うん……考えても仕方ないって分かってるんだけどな。アルマのこと、将来のこと、どうにもまとまらない」


 「私だって同じ。……あの子が覚悟したみたいに、生きる道を一緒に歩きたいけど、法律はあの子を‘所有物’としてしか認めない。それなら私たちは所有者になるしかないのか、でもコーディネートの私は本来取得不可だし……」


 法の壁。凛花が苦々しく言及するのも無理はない。遺伝子コーディネートされた人間はアコアを所持できないという規制がある。彼女が実際アルマを“自分の物”として登録することは困難だ。ならば理久が所有者となるか? だが理久はアコア所有など望んでいない。アルマも“誰かの物”になりたいとは思わないだろう。


 「食堂かラウンジで朝食食べよう。アルマに会えるのは9時過ぎからって言ってたから、少し時間あるしさ」

 凛花が提案し、理久はうなずく。若いスタッフも部屋から出てきて同調する。三人はやけに大きな溜め息をつきながら廊下へ向かった。


 #### * * *


 ラウンジと呼ばれるスペースは、企業の社員食堂を兼ねているようで、狭いながらも清潔感があった。数種類のパンとスープ、簡単なおかずがビュッフェ式で置かれている。サングラスの男やスーツの女性も時折ここを利用しているらしいが、今朝は姿が見えない。代わりに技術者やスタッフが数名、コーヒーを片手に小声で談笑していた。


 「……結構普通の雰囲気だよね。まるで企業のオフィスビルの食堂みたい」

 若いスタッフが呟き、理久も「確かに……まさか裏では軍事研究してるなんて思えないほど」とぼやく。凛花は苦笑しながらスープを注ぎ、テーブルにトレイを置く。「施設って広いんだろうね。私たちが知らない区画がまだたくさんあるのかも」


 三人は適当に食事を始めるが、味わうどころか悶々(もんもん)としたままだ。アルマのことを思うと軽く空腹を満たす以外に意欲が湧(わ)かない。それでも栄養をとらなければ身体がもたないので、最低限口に運ぶ。


 「あとでアルマに面会したら、一緒に部屋で話せるのかな。あの子もきっと話したいことあるはずだし……」

 凛花が期待交じりに言うと、理久は首を傾げる。「どうだろう、きっと技術者が同席するんじゃないか? あの子が余計なこと喋らないように監視する気かもしれないし……」


 事実、企業スタッフはアルマが自覚している“軍事レベルの機能”に大きな興味を持っているらしく、勝手に外部へ情報を伝えられては困ると考えているはずだ。彼女の言動ひとつで、企業の利益が左右されかねない。


 話し込んでいるうちに、食堂の隅から白衣の技術者が近づいてきた。理久たちに軽く会釈し、「おはようございます。アルマさんがリハビリを終えました。もう少し休んだら面会OKとのことです。10時くらいにお呼びしますので、今しばらくお待ちください」と案内を告げる。三人は「分かりました」と返事し、少しだけ安心感を得る。


 #### * * *


 そして約束の10時。指定されたリハビリルームへ行くと、アルマはベッドに座って待っていた。脚にはまだサポーターらしきものをつけているが、上体は比較的元気そうだ。彼女の顔には微かに微笑みが浮かび、理久たちを見ると喜びに目を細める。


 「おはよう、皆……ボク、歩く練習がだいぶ上手くいって、さっきは自力で二十メートル以上行けたんだよ」

 アルマが誇らしげに言うと、凛花は目を輝かせる。「すごい! もうそんなに回復したんだね」


 「うん。でもまだぎこちないけどね。ボク、あの地下で死ぬ寸前だったのに、今こうして自分の脚で歩けるなんて……なんだか現実味がないや」


 アルマは小さく笑う。二人と若いスタッフも表情を緩め、椅子を寄せ合って対面する。そばには技術者が一人待機しているが、今のところ口を出す様子はない。


 「アルマ、体調は大丈夫? 体温とか痛みとか……」

 理久が気遣うように尋ねる。アルマは少し考えてから、「ほとんど問題ないよ。ちょっと背中がずきずきするくらいかな。あとは、前のボクより体が軽い気がする。なんて言うんだろう……新品部品が多いから?」と首を傾げる。


 その表現に、若いスタッフが「新品部品……そっか。軍事系のパーツが入ってるかもしれないんだよね……」と呟く。アルマの表情が曇(くも)りかけるが、「分からないけど、ボクに危険な武装が追加されたわけじゃないみたい。少なくとも、まだそういうのは感じない」と苦笑いで返す。


 「そっか……よかった。あの警備ロボを止める能力みたいなものも、そのままなのかな」


 凛花の問いかけに、アルマは視線を彷徨(さまよ)わせる。「うん……多分ね。コア自体は再構築されたけど、ボクのハッキング機能が失われたかどうかは検査してないらしい。企業の人たちが少しずつ調べてるみたいだけど……ボク、まだやりたくないんだ。あれは危険だし……」


 その言葉に理久は胸を痛める。彼女のハッキング能力は軍事レベルと呼ばれ、彼ら自身が襲撃に遭った警備ロボを制御不能にして救ってくれた。だが、本人はどう感じているか――おそらく、もうあんな暴力的なシーンには関わりたくないのだ。


 「アルマ……もし企業がそこを強引に調べようとしたら、ちゃんと嫌だって伝えていいんだぞ。俺たちも後押しする」


 「ありがとう、理久さん。……でも、もしボクがまた危険な目に遭ったら、その力が必要になるかもしれないし。正直、複雑なんだ」


 アルマは悲しげにうつむく。力があるからこそ利用されるかもしれないし、そうでなければ自分や仲間を守れないかもしれない。皮肉な宿命を背負わされている。


 ふと、技術者が口を開く。「そろそろリハビリの時間です。皆さんには後ほど、面会ルームへ移動してもらいますね。長時間の同席はまだアルマさんの負担になりますので」

 理久たちは渋々頷き、アルマに「また後でね」と声をかける。アルマは「うん、ありがとう。すぐに行くから……」と微笑みを返すが、その瞳には微かに寂しさが滲(にじ)んでいるように見えた。


 #### * * *


 面会ルームとして指定された場所は、先ほどのリハビリ室から少し離れた個室だ。そこにはソファと小さなテーブルがあり、まるで商談スペースのような雰囲気を醸(かも)し出している。壁には観葉植物が飾られ、床にはカーペットが敷かれており、研究施設とは思えないほど“温かみ”を演出している。


 「ここが会話の場か……監視カメラやマイクが仕込まれてるんだろうけど……」


 理久は周囲を探るように見回すが、何も分からない。隣には凛花と若いスタッフが座っている。数分後、アルマが技術者に付き添われる形で部屋へ姿を現した。杖代わりの簡易支柱があるが、彼女はゆっくり歩けている。


 「アルマ、杖なしでもいけそう?」

 凛花が微笑んで問いかけると、アルマは肩をすくめて「まだ不安定だけど、すぐ慣れると思う」と返事してソファへ腰かけた。技術者は「ではしばらくご自由にどうぞ」と言い残し、部屋を出て行く。どうやら今回ばかりは部屋の中に常駐しないらしい。


 「これで少しはリラックスできるかも……」

 若いスタッフがほっとした声を漏らす。アルマも安堵(あんど)の様子でソファの背もたれに体をあずけ、理久と凛花が向かいのソファに座る。


 「ねえ……アルマ。体のほうは、本当に平気? 嫌な検査とかされてないの?」


 改めて凛花が問いかけると、アルマは困ったような表情を浮かべる。「ううん、痛かったり苦しかったりはしないよ。向こうも優しく処置してくれる。でも、いろんな質問をたくさんされるの。“軍事施設の記憶はあるか?”とか、“暴走警備ロボをどうやって制御した?”とか……正直、うまく答えられないし、答えたくない」


 理久の表情が曇る。「やっぱり、あいつら、お前の軍事レベルの力を知りたがってるんだな……」

 アルマはうんざりした様子でうなずく。「ボクだって全部分かってるわけじゃないし……。前のマスターがどうやってボクを作ったのか、詳細までは聞いてないもの」


 そう言いながら、アルマの瞳には複雑な宿命が宿っている。自分を造った存在は、もうこの世界にいない。けれど、アルマの身体やコアにはその人の痕跡が詰まっている。企業にとっては貴重な“軍事技術”の塊(かたまり)かもしれないが、彼女にとっては愛着やトラウマの塊でもあるのだ。


 「……まあ、ここにいるしか、いまは仕方ないよね。外に出ても法律に縛られるし、あの槙村(まきむら)って人に追われる可能性もある。少なくとも、安全は保証されてる……そう言っていいのかな?」


 若いスタッフが恐る恐る問うと、アルマは小さく息を吐く。「そう……かも。でも、ここが“安全”とは限らないわよ。いつだってボクたちの“データ”を持っていこうとする人が現れるかもしれないし……。ただ、死ぬのはもう嫌だし、理久さんや凛花さんがいてくれるなら……」


 その言葉に、理久はぎゅっと拳を握る。「大丈夫だ、俺たちがなんとかする……! 絶対にお前を自由にしてやる。あんな形で“所有”なんてさせやしない」


 凛花も力強く頷(うなず)く。「そうよ。私だって法的にはあなたの所有者になれないけど……あなたが“物”じゃないってこと、どうにか証明していきたい。難しいけど、何か道はあるはず……!」


 アルマは微笑むが、その笑顔にはどこか儚(はかな)さが混じっている。「ありがとう。でも、ボクも分かってる……世界はそんなに甘くない。特に軍事AIは危険視されるし、ボクが人として暮らすのは、きっと簡単じゃない」


 そう言いながらも、アルマは少しだけソファに体を寄せ、理久と凛花の手をそっと握る。その温もりを噛(か)み締めるように、まぶたを閉じた。人間らしい仕草(しぐさ)に、二人は胸を熱くする。若いスタッフは思わず涙ぐんで「アルマさん……」と声を詰まらせる。


 (この子は確かに“人間以上”に人間らしい何かを持っている……。それを、法や企業が道具扱いするなんて、許せるものか……!)


 理久と凛花がそれぞれの思いを胸に渦巻かせていると、ドアがノックされ、技術者が「そろそろリハビリの続きがありますので失礼します」と顔を出す。あまり長く自由に会話させないつもりだ――そう感じさせる、冷徹なタイミング。


 「また……リハビリか」

 アルマは苦笑しつつもローブを整え、立ち上がる。彼女にとって歩く練習は嫌いではないらしいが、こんなにも誰かに管理されながら生きるのは窮屈に違いない。それでも、この施設でなければ“死”が待っていたかもしれないと思えば、拒否もできない。


 「アルマ、後でまた話せるかな?」


 理久が願うように問うと、アルマは笑顔で応じる。「うん、きっとまた来れるよ。ボク、体がもっと慣れてきたら、きっと好きに動けるようになるって技術者が言ってたし……少しずつね」

 そう言い残し、技術者に付き添われて部屋を後にする。その背中を見送り、理久たちはまたやるせない気持ちでソファに沈んだ。


 「どうする……? このままズルズル企業に囲われるのは良くないし、かといって他の選択肢もない」

 凛花が項垂(うなだ)れるようにつぶやく。若いスタッフも下を向く。みな黙り込んでしまいそうな暗い空気が漂う。そこへ、再び扉がノックされ、入ってきたのはサングラスの男だった。


 「……やあ、皆さん。今の面会は楽しめましたか? アルマさんが無事でよかったですね」

 皮肉交じりの笑みに見えるが、表情は読めない。理久は「何の用だ」と呻(うめ)くように問う。


 「用件? 大したことじゃありません。ただ、近々“上層部”があなた方に面談したいそうです。アルマさんの今後について話し合う場を設けたい、と言っていましてね」


 上層部――恐らくこの企業の経営陣や幹部だろう。それが何を意味するか、想像はつく。アルマをどう扱うのか、どう契約するのか、法的な段取りを詰めたいのだ。まさに“商品化”の第一歩となるかもしれない。


 「お断りだ……」

 理久が低く唸ると、男は肩をすくめる。「そう言われても困りますね。契約書に書いてある通り、アルマさんの修理費用やデータ管理の問題がありますから。面談に応じていただかないと、今後の治療やリハビリも続けにくいんですよ? もし不服なら、いま退所していただいても構いませんが、アルマさんが再び倒れても責任は負いかねます」


 理不尽な脅しだが、現状、理久たちに選択肢はほとんどない。凛花がぎゅっと拳を握りしめ、「仕方ない……面談に出るわ。そこであなたたちの話を聞いて、こちらの意見も伝える」と震える声で答える。男は「賢明ですね」と満足そうに頷(うなず)いた。


 「では日程は改めてお知らせします。あと数日以内に実施する予定ですから、余計な外出や連絡は控えて待機してください。――なんなら、いまからアルマさんごと外へ出てもいいんですよ? ただ、その後どうなるか保証しませんがね」

 男の言葉には明確な嘲笑(ちょうしょう)が含まれている。結局、アルマを手放したくない理久たちは退所などできないと分かっているからこその皮肉だろう。


 「くそ……分かった。あんたらの都合に合わせてやる。ただし、アルマの意思は絶対に尊重してもらう」

 理久が半ば捨て台詞のように言い放つと、男は軽く頭を下げて出て行く。その背中には「どうせ無理だろうがね」という空気がついてまわる。


 残された三人は、これから迫る“企業上層部との面談”を想像し、暗い溜息をつくしかなかった。そもそもアコアに法律上の人権がない以上、相手が言うように“所有契約”を結ぶか、あるいは放棄するかという二択を突きつけられるだろう。どちらもアルマが望む形ではない。どうにか第三の道を探しても、時間も力も足りない。


 (アルマを守りたい。一緒に生きたい。でも、法も社会もそれを許さないなら、俺たちはどうしたらいい?)


 胸を締めつける苦悶を抱えながら、理久は固く目を閉じる。アルマが再び笑える日は来るのか。それとも、彼女を“道具”として引き渡すしかないのか――この“灰色のラボ”で、生死を超えた宿命が再び重くのしかかりつつある。

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