第20話 丘に高い木のある公園

 あまり会話の無いまま、3人で歩いていると、ちょっとした公園を見つけた。その公園は、中心に小高い丘があり、背の高い木が1本立っている。

「あっ、あれ見てよ!」突然、理瑚が声を上げる。よく見ると、その背の高い木の下に人影が見える。

「行ってみようか?行くしか無いよね」

 私の言葉に、理瑚と委員長が頷く。

 丘の周りに遮蔽物は無く、とても見渡しが良い。当然向こうも気付いているだろう。私達は公園に侵入し、ゆっくりと丘に近づく。理瑚が先頭に立って盾を構えながら歩く。

 丘を登りだすと、徐々に木の下に立つ人物の輪郭がハッキリしてくる。

「あっ、あれは――!」

 クラスで成績トップの沢渡 美加さわたり みかだ。


「ストーップ!そこまで!ちょっと皆さん止まってー!」

 沢渡が丘の上から叫ぶ。現在、沢渡との距離は15メートルぐらい。

 いつもの様に髪をキッチリセンターで分けた沢渡は、見たことの無い制服に身を包み、薄っすらと笑みを浮かべている。

 それを見た委員長が声を上げる。

「沢渡さん、その制服って隣の県の進学校のものですね?どうしてそんなもの着ているんですか!」

「そこ?第一声で何を言うかと思えば……それは……この学校に入りたかったからよ」

 沢渡が渋々答える。

「入りたかったと言うことは、受験したけど不合格だったのですね」

「う、うるせー!言わすんじゃねぇ!誰が好き好んで、美樹丸女学園なんて、クソダセェとこに通うかってーの!」

 うわ、委員長そんなにハッキリと言わなくても。触れちゃいけないとこに触れたみたいだぞ。

「ダサくなんてありませんよ。我が美樹丸女学園は……」

 委員長の言葉を遮って沢渡が叫ぶ。

「あー、そんな事はもうどうでもイイ!私はここで無敵の能力を手に入れたんだからね!」


 無敵の能力!それを聞いて理瑚が盾を身構える。

「昨日は轟 知里とどろき ちさとを葬ったからね、もう実戦済みってわけ」

「エッ!?あの英語が得意の轟やったのあなたなの?」

 理瑚が声を上げる。

「そうよ、あの忌々しい奴!英語のテストでは一度も勝てなかったわ。でも、これで私が1位ね。あとは委員長、丁度あんたが来てくれるなんてね!あんたがいなくなれば私を脅かす人は、もういないわ」

 沢渡は総合成績ではトップだが、英語は英語研究会に所属している轟知里がトップで、歴史と現国あたりは委員長がトップだった気がした。2人がいなくなればテストでは敵無しと言うことか。


 沢渡に委員長が話しかける。

「悲しいですね、私はクラスで真面目に授業を受けている数少ない生徒の1人として親しみがあったし、その成果としていつもテストで高得点を取る沢渡さんを尊敬してたんですよ。それをこんな方法で首位を守ろうなんて」

「うるせー!私は委員長みたいに勉強が好きなわけじゃないんだ!ママに怒られるから仕方無くやってんだよ!ただでさえ隣の進学校に落ちて肩身が狭いんだ、こんな高校で、2位以下じゃ価値がないんだよ!」

 彼女も彼女なりに苦しんでいるようだが、同情してる場合じゃない。轟を葬ったという無敵の能力とは一体何なのだろうか?頭を使った攻撃とかされたら、私じゃ太刀打ち出来ないかもしれない。


 足を震わせながらも理瑚が声を上げる。

「テストが何点とか、どうでもいいわー!ここは夢の世界、勉強なんて役にたたないんだよ!そんなに能力に自信があるなら、どんな能力か言ってみろってーの!」

 能力を知っているのと知らないのでは大違いだ。少しでも、挑発に乗ってくれれば。

 そんな理瑚の言葉に沢渡が反応する。

「フンッ、低俗な漫画なんか読んでる腐れ脳味噌が!いいでしょう、私が能力を発動すれば防ぎようが無いからね、死ぬ前に教えてあげるわ」

 防ぎようが無い?そんな凄い能力を発現出来るのだろうか?自信満々の沢渡の言動に、理瑚は心が折れたのか、立っていられなくなりヘナヘナと膝をつく。

「まだだよ理瑚!まだ何も始まってないよ!」

「そ、そうだね」

 理瑚は立ち上がり、足を踏ん張る。

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