鋼鉄のストライクエンド

『【メタルスライム】』『エンチャント!』


「《メタルスライム》だと……!?」


 スライムは通常、地中の養分を吸って成長・増殖する魔物だ。

 しかし稀に地中の金属成分だけを吸収し、流体金属のような体に変異する希少種が現われるという。それが《メタルスライム》だ。


 そんなものも《キッカイキー》にしているとは。伝説の火竜である《ブレイズドラゴン》のキーまで作っていることといい、組織の力は想像以上に巨大だ。


「シュシュウウウウ!」


《メタルスライムキー》を《エンチャンター》に装填し、アラクネナイトが唸る。

 腰のスカート部分を覆う、蜘蛛の八本脚が展開。それぞれから金属糸が吐き出された。彼女のベースとなっている《スティールスパイダー》は本来、口からしか金属糸を出せない。これは彼女の言う『機構』による、能力の拡張なのだろう。


 金属糸はまるで神経が通っているかのごとく、自在に動き回る。

 ここまでは前回の戦いでも見た能力。しかしメタルスライムの能力が上乗せされたことで、金属糸はさらなる変化を見せる!


「【金属糸細工アラクネアート長剣ソード】」


 束ねられた金属糸は線から立体を紡ぎ、剣を形作る。

 そこに液体金属が注がれ、鋼鉄の剣を鋳造したのだ!


「なんっ、ぐわああああ!?」


 糸で繰られた剣が六本、クロスナイトに襲いかかる。

 人間が振るうのとはまるで違う挙動。ナイトソードを拾って捌きにかかるも、クロスナイトはすっかり翻弄されてしまっていた。金属糸ならいざ知らず、束ねられた金属の塊を溶かすだけの高熱は出せないのだ。

 防ぎ切れず、何度も斬りつけられて甲冑から火花が飛び散る!


「く! こんな糸で振るわれた剣、軽くて大したダメージには――ぐぼぉ!?」

「【金属糸細工/鉄球ハンマー】」


 そして蜘蛛の脚は八本。つまりまだ二本残っていた!

 クロスナイトの体にめり込んだのは、編み込んだ金属糸に流体金属をパンパンに詰めた鉄球! 糸繰り長剣に注意が逸れた間隙を突く、痛烈な一撃!

 否。追い打ちに二つ目の鉄球が叩き込まれ、クロスナイトは大きく吹き飛んだ!


「げほっ。金属糸の骨格に、液体金属で肉付けで、高速の金属造形を……!? 《スティールスパイダー》にも《メタルスライム》にも、こんな芸当はできない。これも魔物の能力と、変身者自身の技量との相乗効果なのかっ」

「昔は手遊びに、糸くずをいじるくらいしか娯楽がなくてね。それが高じて裁縫や編み物が趣味なのよ。まあ一番好きなのはこうして――あたしの『作品』で、獲物をグチャグチャに叩き潰すことだけどね!」

「くぅ!」

『【ファイアーバード】』『エンチャント!』


 糸繰りの金属武器が再び、一斉にクロスナイトへ降りかかる。

 クロスナイトは、エンチャンターをナイトソードに装着。《ファイアーバードキー》をエンチャントした炎の剣で、武器を操る金属糸を溶かし斬ろうとする。


 しかし……剣が届く寸前、武器が一斉に金属糸へと解けた!

 大量の金属糸が、クロスナイトの全身をがんじがらめに縛り上げる!


「ぐうううう!?」

「シュシュシュシュ! いいザマね! それじゃあ、トドメといきましょうか」


『レディ――アクション!』


 エンチャンターのフェイスパーツを打ち鳴らし、必殺技の体勢に入る。

 クロスナイトも、ルナも、金属糸に拘束されて抗いようがない。

 そしてアラクネナイトは跳躍。処刑台のギロチンめいて、蜘蛛怪騎士の必殺キックが繰り出された!


「【鋼鉄のストライクエンド】――!」

「ぐ、ああああ!」


 ドカカカカッ! ドッゴオオオオ!


 キックの直撃と同時、【金属糸細工】で巨大化した蜘蛛脚が突き刺さる。

 暗黒のエネルギーが爆発を起こし、金属糸の拘束ごとクロスナイトは吹き飛んだ。

 かろうじて変幻は解けていないが、ダメージは深刻。立ち上がることもできない。


「う、ぐ」

「ちっ。赤熱化した体に【金属糸細工】が溶かされた分、威力が僅かに落ちたか。変身も解除させられなかったのは腹立つわね。あいつなら見逃すところだろうけど、あたしは昔からあんたが気に入らない――ん?」


「動くな! 奇怪な格好の賊め、これ以上暴れるのは許さないぞ!」

「本当に奇怪な……魔力をまるで感じないが、こいつら騎士なのか? 魔物の仮装じみているが、正気を疑う悪趣味だぞ」

「なんだっていい! 街の平和を乱す輩から人々を守る! それが騎士の務めだ!」


 衛士たちから応援要請を受けたのだろう。変幻した《勇騎士》の一隊が駆けつけ、アラクネナイトたちを包囲した。

 よく訓練された騎士たちと見えて、陣形にも隙が見当たらない。


「邪魔よ! 偽善者の木偶人形どもが――なぁ!?」

「なんだ? どこからか魔法が……ぎゃああああ!?」

「誰だ!? こんな街中で上級魔法をぶっ放す馬鹿はああああ!?」


 さらにはどこぞの馬鹿による、魔法の流れ弾が降り注ぎ。

 戦いは水入り。土煙が晴れた後には、クロスナイトもアラクネナイトも、その他も忽然と姿を消していた。


 騎士たちは被害者の救助を怠らず、その上で入念に捜索したが――奇怪な集団の行方を掴むことはできなかった。

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