第3話:逆襲! アラクネナイト

属性なしの馬鹿のはずが、実は俺だけ全属性持ちの《賢明の英雄》でした

 ――主人公とは、英雄とは、『賢き者』だ。


 力などあって当たり前。英雄なら、主人公なら、強いだけでなく賢くなくては。

 それは、単純に『勉強ができて知識が豊富』ということにあらず。

 悪の企み。仲間が胸に抱える悩み。絶体絶命の窮地……如何なる状況や難事に対しても、常に正しい答えを見出し、愚かなモブどもを勝利と成功の道へと導く。


 賢く聡明。それこそが真に主人公の条件であるべき。

 つまり――あらゆる魔法を操れる、この《賢明の英雄》こそが世界の主人公!


「やれやれ。この程度の雑魚に手こずっているの? 頼りない先輩たちだ、ね!」

「「「グギャアアアア!?」」」


 ドガガガガーン!

 手をかざすだけで無数の魔法陣が展開され、攻撃魔法が雨あられと降り注ぐ。


 ゴブリン、トロール、オーガ、オーク……いずれも雑魚ばかりだが、数だけは都市を呑み込む濁流のごとき大群。それが火炎、吹雪、土塊、旋風――あらゆる属性の魔法による絨毯爆撃で、あっという間に掃討されていく。


 冒険者たちは目を輝かせ、こぞって空を仰いだ。


「見ろ! ■■■■ケンメイの大魔法が、俺たちの街を救ってくれたぞ!」

「なんていう威力! それに属性の数! 二つ以上の属性が操れるだけで珍しいのに、信じられない才能だわ! しかも高度な飛翔魔法まで並行して使えるなんて!」

「詠唱が聞こえなかったけど、まさかアレ全部を無詠唱で!? 魔法陣の大量構築といい、魔力精製量だけじゃない! とんでもない演算能力だぞ!」

には気の毒だが、魔道具を玩具扱いするのも納得の腕前だぜ」


「やれやれ。いちいち反応が大袈裟だなあ。ちょっと無詠唱で大量の上級魔法を同時展開しただけなのに」


 まあ、驚くのも無理はないか。

 魔法とは、超常的な神秘を読み解く、優れた知性と頭脳なくして成せない業だ。

 したがって《主人公特権》により、どんな上級魔法も自在に――それも無詠唱で――操れる自分こそ、誰よりも賢く聡明なのは自明の理!

 主人公様に比べれば、モブどもの知能など猿同然なのだから。


「……しかし、これで十度目の《スタンピード》か?」

「酷いときは朝昼晩と、一日に三度も起こってるからな。明らかに異常だぜ」

「ケンメイ様がいなかったら、もうとっくに街が滅んでるところよ」

「やっぱり、《龍脈》ってヤツがおかしくなってるのか? そういうのを調べるのも騎士団の役目だろうに。都市の防衛だって俺たち《冒険者》に任せきり。なんて使えない連中なんだ!」


「……やれやれ。どいつもこいつも頼りない。やっぱり、僕が動かないとかな」


 そして無能なモブどもに代わって、事件を解き明かすのも主人公の務め。

 活気溢れる平和な商業都市スダード――ここでは今、謎めいた『連続スタンピード発生事件』が起こっている。


《スタンピード》とは、魔物が突如大量発生する災害だ。

 スダードはにも、本来ならスタンピードが滅多に起こる場所ではない。

 ……にも関わらず、ここ一週間連日でスタンピードが発生していた。


 これは明らかに異常事態。裏でなにか、邪悪な陰謀が蠢いているに違いない。

 この《賢明の英雄》が、冴え渡る知性と頭脳で、街に潜む悪を暴いて見せる!





「ギー!」「ギギギ!」「ギギー!」

「ブモオオオオ! 退け退け、雑魚どもお!」


 ――いや、全然潜んでないんですけどー。

 如何にも怪しい集団が、なんか白昼堂々と暴れていた。


 あからさまにヤバイ装置を積んだ荷馬車。不審極まりないスケルトンモドキ。

 そして猪頭の魔物……《オーク》に扮するような、異様な風体の輩!

 そんな不審者集団が、正面から検問を押し通って都市に侵入したのだ。


「なんだ貴様ら!? おかしな格好をしやがって、大人しく、ぎゃああああ!?」


 当然衛士たちが捕まえようとするが、情けないことに一蹴されてしまった。


「やれやれ。もう一仕事しないといけないか」


 賢き者は利もなく厄介事に関わらない。

 しかし、馬鹿なモブを助けてやるのも主人公の役目。

 故にケンメイは、無能な衛士たちに加勢してやったのだ。





 ……その後。ゴブリンモドキとコウモリモドキの、これまた頭がおかしい異形の甲冑をした二人組に邪魔されて。奇怪な一団は惜しくも取り逃してしまった。


 連中がスタンピードの犯人かは不明だが、無関係にしては怪しすぎる。

 これは賢き者の、主人公の勘だ。賢い主人公は勘だって当たる。


 衛士も騎士も冒険者も、馬鹿ばかりでアテにならない。この《賢明の英雄》の知性と頭脳に、スダードの命運がかかっているのだ。


 必ずや謎を解き明かし、街を救って見せようではないか。

 馬鹿どもを正しく導き救ってやる。それが主人公の使命なのだから。



「それなのに、なんで――なんでこの僕が、牢屋になんて入れられなくちゃいけないんだああああ!?」

「なんでもなにもあるか! 都市の一角をメチャクチャにぶち壊しておいて!」

「そうだ! 死人が出なかったのが不思議なくらいだったぞ!」


 ああ。賢い主人公はいつだって、馬鹿なモブに足を引っ張られる。

 ケンメイはなぜか、街を破壊した犯人として牢に入れられてしまった。

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