第32話「平和にしたかっただけ」
「え?」
声がした方を見ると、そこに煤だらけになったヒミコがへたれこんでいて、
「ううう、なんでよ~、え~ん!」
子供のように泣き出した。
「あたしはただ、世の中を平和にしたかっただけなのに~!」
「……うん」
俺はヒミコに、いやもう一人の母さんに近づいた。
「やっぱあんたも母さんだ。どっかぶっ飛んでても優しい人。だから父さんも惚れちゃったのかな」
「ええ~ん」
「泣かないでよ母さん。ね」
俺はもう一人の母さんの背を擦りながら言った。
「う、う……ねえ、ほんとに心でどうにかなるの?」
もう一人の母さんが顔を上げて聞いてきた。
「分からないよ。けどそうなるようにしていくよ」
「う……」
「さあ、もう帰りなさい。七海の中に」
「え? あ……?」
そこにいたのは、日本神話にありそうな女神様っぽい女性。
てか、その声は……?
「あんた誰?」
もう一人の母さんが尋ねた。
「私はあなた達の先祖、卑弥呼です」
「えええええ!?」
ま、まさか卑弥呼様だっただなんて!
「そうなの? ねえご先祖様、世界を平和に統一しようとしてたのに滅ぼされて悔しくないの?」
もう一人の母さんが言うと、
「それは誤って伝わった事です」
卑弥呼様が頭を振った。
「え? じゃあほんとは何だったの?」
「それはですね。私は、邪馬台国女王は魔法と神事を。後の大和朝廷の大王が武と政で日本を統一し、共にありて平和へと思っていたのです」
「え、政治は弟さんがって話もありましたが?」
友里さんが言うと、
「弟は邪馬台国のみで、大王が全てをだったのです」
「そうだったのですね」
「ええ。次代の女王壱与もそれを継いでいたのですが……その次の女王が世界を魔法で支配しようとしたのです」
え?
「それを大王が反対し、女王に反対していた一族の僅かな者達が大王と共に三種の神器を使って……その後、残った者達は各地に散らばっていったのです」
卑弥呼様が俯きがちに言った。
「え、あの? その反対した人達の中から女王選べばよかったんじゃ?」
俺が思わず言うと、
「いえ、残った者達は魔法が野心の道具にされてしまうと思い、三種の神器と魔法を封じて大王に託した後、女王の位も固辞して歴史から消えたのです」
「そうだったんだ」
後ろから声が、って。
「あ、母さん? それにジョウさんや大魔王さん達も?」
「大蛇が消えたんで時空が安定してな、このとおり来れるようになったわ」
アギ様達も来ていた。
そして母さんがもう一人の母さんの傍に寄り、
「ねえ、私もそう思ってたけどさ、勇者とその次の英雄に期待しよ」
「……うん。あんたの息子だもんね」
もう一人の母さんが言う。
「あなたのでもってか、私達ひとつでしょ」
「そうだったわね。あ、そうだわ。最後にいっこだけさせて」
「ん、何を?」
「それは後で隼人に聞いて……えいっ!」
もう一人の母さんが空に向けて手をかざすと、そこから光の玉のようなものが現れ……どこかに飛んで行った。
「これでいいわ。じゃあ……もう出て来れないかもだけど、またね」
そして、母さんに吸い込まれるように消えていった……。
「ごめんなさい、あなた達を止めるのは私には無理だったの……」
卑弥呼様が頭を下げてきた。
「いえ。あの、卑弥呼様ってもしかして天照大御神様ですか?」
「は?」
いきなり何を聞いてんだ母さんは?
「ふふ、今の私は光の精霊で、天照様の代わりをしていますよ」
卑弥呼様が、って……。
「えええええ!?」
何それそんなのあるの!?
「あんの、こっちの光の精霊ってかなり弱ってたはずだべ?」
キクコちゃんが前に出て言うと、
「そうですよ。今は殆ど何もできなくて、たまに声が聞こえる者に助言するか、どこからか援軍を呼ぶくらいしかできません」
卑弥呼様がそう言ってまた項垂れた。
「援軍……もしかして?」
俺が所長達の方を向くと、
「そうだよ。僕達は卑弥呼様に呼ばれて来たんだ」
「けど最初はただ勇者の、隼人君のフォローしてあげてだったのにね」
所長と伊代さんが答えてくれた。
「けど不穏な動きが見られたので、私達も呼ばれたのよ」
「うん。隼人君と何らかの形で接触して補佐してあげてって」
「それはええけど、おいもえすえぬえすで隼人さんと喋りたかった」
いつの間にかおかっぱ頭で裾の短い着物姿の女性がいた、ってかこの人。
「もしかしてわんどりーむさんの奥さん?」
「そうじゃ。おいは
あ、やっぱ鹿児島弁なんだ。
「え、あの? もしかして
友里さんが身を乗り出した。
「ええ、子孫ですよ」
わんどりーむさんが頷いた。
「うわ、そうだったんですね! 地元の武将のご子孫に会えるなんて!」
うーん、友里さんってほんと歴女?
「ん? あ、もしかして?」
俺はななしのさんの方を見た。
「そうよ。白銀と名乗ったけど、本名は
「佐々木? えっともしかして、佐々木小次郎の子孫だとか?」
流石にこの人は知ってる。
「子孫というか、孫娘よ」
「……はい?」
「ああ、私や一祐殿、キヌは約三百年前に生きてた者でね、今は最下級だけど神になってるの」
「ひゃあああ!」
「え、え?」
「あの、おれもう訳分かんねえんだけど」
うん、俺も……。
「あ、もしかして所長や伊代さんもとか?」
「いやいや、僕達はただの人間だし現代人だよ。異世界のだけど」
「まあ、あたし達も卑弥呼様と遠い所で繋がってるみたいだけどね」
二人共手を振って言い、
「ええ。二人は祖先を辿ると私と同じご先祖様に行きつくの。その縁で来てもらったの」
卑弥呼様がそう言った。
「そうだったんですか……あ、俺や父に話しかけてたのは」
「私ですよ。ごめんなさい、その程度しかできなくて」
卑弥呼様は軽く頭を下げた。
「いえ……あ、旅の終わりに会えるってここまで予想して?」
「流石に大蛇までは予想できませんでしたが、いずれ向こうに行って会えるのだけは見えていました」
「そうでしたか。けど父にも言ったのはなぜですか?」
「……私にはあなた達三人が会えているのが見えたのですが、やはり力が弱まっていたのか外してしまいました……本当に申し訳ございません」
今度は深々と頭を下げられた。
「え? ねえ隼人、もしかして次郎君は?」
母さんが俺の腕をとって聞いてきた。
「……うん、二年前に亡くなったよ」
「そ、そんな……うわあああん!」
母さんはその場に蹲って泣き出した。
「……おっかあ、やっぱショックだべな」
「ええ、お母さんからすればいきなりみたいなものですものね」
キクコちゃんと友里さんも目を潤ませて言い、
「なあ、神様ならお父さん生き返らせるとかできないの?」
ユウト君がアギ様達に尋ねるが、
「すまん、それはワシらはともかく守護神様でも無理なのじゃ」
皆さん謝りながら頭を振った。
一瞬期待したが、神様でもダメなんだ。
……せめて話すだけでも無理なのかな?
と思った時だった。
「さっきあやつが何か放っていたが、もしかするとあれがかもだぞ」
大魔王さんがそう言った。
……あっ?
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