第31話「今の世を生きる者が止める」

 ユウト君が投げた球で大爆発が起こり、八岐大蛇のいた場所は黒煙に包まれていた……。



「な、なんだ今のは?」

 ななしのさんが、

「爆弾のようですが、あんなの地球上に存在しませんよ?」

 わんどりーむさんが、

「おそらく向こうでたとえば十の威力の物が、こちらでは十万となるものだったのかもな」

 おじ、いや信康様が冷や汗をかきながら言った。


 って、もしあれが途中で誤爆してたら俺達死んでたわ!


「あ、あわわわ」

 キクコちゃんが腰を抜かしていた。

「だ、大丈夫?」

 俺はなんとか立てていたが、震えが止まらない……。

「ん、んにゃ、手貸してけろ」

「うん」


「うわあああのバカ、あんな危ないもん渡すなあ!」

 ユウト君が震えながら声を上げていて、

「あわわ」

 友里さんもその傍でへたれこんでいた。

「あ? ねえ、大丈夫?」

「え、ええ」

 ユウト君が友里さんに手を貸した。



「……おかげでしばらく動けなさそうだね、あいつ」

 伊代さんが黒煙を見ながら言う。

「そ、そうだね。じゃあ今のうちに説明しようか」

 所長が俺達の方を向いて言った。


「あ、さっき言ってた四人の合体技ってなんだべさ?」

 キクコちゃんが尋ねると、

「それはね、勇者と聖女二組で光と風を同時に放つものだよ」


「聖光招来と聖風招来をですか?」

 俺も聞くと、

「そう、遮りしものを風が割き、そこに光をだよ。それで信康様のあの技と同等以上の威力になるはずだ」


「え、あんな力を俺達が?」

「うん。さて、聖女二人は勇者に向かってそれぞれ念じて」

 所長がキクコちゃんと友里さんに向かって言った。


「はい。じゃあキクコさんは隼人さんに向けて、私はユウトさんに」

 友里さんが……はい?

「あんの、友里さんが隼人さんに」

 キクコちゃんも言うが、

「いいえ、今は遠慮してる場合じゃないでしょ」

「そうだよ。遠慮すんな」

 ユウト君が友里さんの後に続けて言った。


「……んだ!」

 キクコちゃんは目を少し潤ませていた。


 ……二人共、ありがとう。




 そして友里さんとキクコちゃんが目を閉じ、俺達に向けて手をかざすと、

「うおっ!?」

 なんというか体中が温かく軽くなって、腕に電気でも走っているかのような感じだった。

「すげえ力だ! これなら絶対いける!」

 ユウト君も自分の手を見つめながら言った。



「させるかああ!」

 声が聞こえた途端、黒煙が晴れて八岐大蛇の姿が見え出したが、


「お、想像以上にダメージ受けてるようだね」

 所長の言う通り、八岐大蛇は全身が焼け爛れていた。

 だが、


「……カアアアッ!」

 大蛇の八つの口からそれぞれ業火が噴き出てきた!


「伊代、全力でいくよ」

 所長が剣を構えて言うが、

「その必要はないね、ほらあれ見てごらんよ」

 伊代さんの指した先には……え?


「ちょ、なんなのそれー!?」


 七色に輝くオーロラのような膜が八岐大蛇と俺達の中間辺りに現れ、炎を防いでいた。


「あの、あれって」


” この世界の精霊達が作ったものですよ ”


「……え? あ、この声は?」

 あの時の人……。


” けど長くは持ちません。三郎さん、皆さん、すみませんが今のうちに彼女を ”


「ははっ! よし、奴を抑え込むぞ!」

 信康様の号令の下、所長達が八岐大蛇に向かって行った。



「おのれええ、やああっ!」

 八岐大蛇がまた炎を放とうとしたが、


「はあああっ!」

「やあっ!」


 大蛇を囲むように浮かんだ信康様達がそれぞれ刀を、剣を、銃をかざして光の帯を放ち、その巨体を縛り上げていった。


「うぎゃああ!」



「よし、今のうちに気を貯めよう!」

「うん!」

 俺達は精神を集中し始めた。




「むぎゃあー! あんたら英雄でしょー! だったらあたしに協力してよお!」

 八岐大蛇が、いやヒミコが金切り声をあげた。

「世界を消すのでなければ考えたがな」

 信康様が頭を振って言う。


「むぎゃー! あんただって消し飛ばしてやろうとか思った事あるんじゃないのー!?」

「……まあ、少しは思った事もあったな」

 え、そうなの?

「そうでしょ。せっかく世界を救ったのに二十歳で切腹させられたんだし」


「え、そうなんですか?」

 思わず友里さんに聞くと、

「家康公と対立していたからとか、織田信長公の圧力でとかいろいろ説はあります。そして実は逃がされていて、隠棲していたという話も」


「そうではない。私は妖魔と戦う為、父や信長公と謀って死んだ事にして表舞台から消えたのだ」

 信康様がヒミコの方を向いたまま言った。


「そ、そうだったのですか……?」

「ああ。ちなみに大妖魔を討ったのは四十を過ぎた時で、八十過ぎまで生きていた。それを知っていた身内がうっかり口を滑らせたものだから隠棲と伝わったのだろうな」


 誰だよその人?

 まあ、世を救った人なんだから知られてほしいというのもあったのかな?


「ねえ、そこまでして頑張ったのに今はこんなのよ。腹が立たないの?」

 ヒミコが尋ねると、

「全く無いといえばウソだが、だからといって本気で消そうとまでは思わなかった」

「なんでよ!」

「それをしたら、今まで積み上げた善き事まで消えてしまうからだ」

「え?」

 

「お前からみれば歯痒いだろうが、それぞれの時代に生きた者達はそれぞれのやり方で世を良くしようとしていた」


 私の時代以前でも、多くの方が。

 私の時代では数多の武将達が、信長公が、秀吉公が、我が父が。

 その後も多くの者達が……。


 微力ながら、私もな。



「少し前だと、今あそこで戦ってくれている英霊の皆さん」

「ひいじいちゃんも友達も、同じ世代の人達も」

「そんで、今を生きてる人達もだべ」

「そうだよ。皆が」



「それは分かるわ。あとあなたは微力じゃないわ」

「礼を言おう。なあ、それが分かるなら彼らのやり方を見守ってみないか?」

 信康様が軽く頭を下げた後、


「……あなたの時代でだったら考えたけど、今の時代でそんな悠長な事言ってたら、皆核兵器で消えて本当に終わっちゃうわよ! だから絶対にやる!」


「そうか。では今の世を生きる者、勇者達に止めてもらおう」


 ええ、止めてみせます!




「ユウト君、いける?」

「ああ! ……聖風招来・降魔殲滅」


 ユウト君の周りに風が集まり出し、


「……鳳凰一文字斬!」


 力強く剣を振るうと、まるで鳳凰のような衝撃波が放たれたが、


「え?」


「させるかあ!」

 何十体もの妖魔がヒミコの前に現れた。

 どうやら盾となって守ろうとしているみたいだが、


「無駄だよ、光を導く風の前では!」


「ギャアー!」

 鳳凰が難なく消し飛ばし、それがヒミコの体を覆い、



「よし、今だ!」

「隼人さん!」

「やっちゃえだべー!」



「うん、聖光招来・金剛破邪……光竜剣!」


 俺も力いっぱい剣を振るうと、そこから光り輝く竜のような光線が出てきて、


「あ……」

 それが鳳凰と合わさり、流れるようにヒミコを包み込んでいった……。




 そして、ヒミコの巨体は消え去った。


「やった?」

「うん。もう気配はないよ」

 ユウト君がそう言ってくれた。


「……」

 俺は無言で刀を高々とあげた。

「やったべさー!」

 キクコちゃんが俺に抱きついてきたって、うわ当たってる!




「ああ、やっぱ敵わないな……」

 友里が目を潤ませて言い、

「あ、あの……ん、やべ、うわ」

 ユウトは友里を見て胸を押さえ、顔を赤くしていた。



「どうやら丸く収まりそうだな」

 信康が腕を組んで言い、

「ええ。しかし貴方様まで来ていただなんて驚きでしたよ」

「ほんとにねえ。鈴さんと祐さんは連絡取り合ってたけど」

 所長と伊代が信康の傍に来て、


「そうだな。私も知られざる英雄にお会いできて光栄です」

 ななしのもそう言い、

「僕もですよ。しかし当時はともかく、今はもっと知られてもいいのでは?」

 わんどりーむがそう言うと、


「はは、知る者だけが知っていればいいさ」




「う、う……」

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