第28話「結局同じことの繰り返しかもな」
「嫌だべさ」
そう言ったのは、キクコちゃんだった。
「なんで? 平和にして皆を幸せにするためなのに?」
ヒミコが言うと、
「ひいじっちゃもそんな事言ってたことあったべ。『魔法でならもしかすると戦争をやめさせて平和にできたかもなあ』って」
え、与吾郎おじいさんですらそう言ったの?
「だったらいいじゃないのよ」
「けんど『だが結局同じことの繰り返しかもな』とも言ってたべさ」
「え?」
どういう事?
「強大な力に頼ってはいずれその力に滅ぼされるって。やはり徳を集め、心で全てを治めるべきかもなって」
あ……。
そうだよな。
俺、何迷ってたんだろ。
自分が勇者だったからって、キクコちゃんや皆が凄い力持っているからって。
それで一時は収まっても……。
うん、そうだよな。
与吾郎おじいさんの、キクコちゃんの言うとおりだ。
「ううう、そりゃそれが理想だけど、そんな事できるのは大伯父さんくらいでしょ!」
ヒミコが声を荒げて言い、
「かもしんねえべ。けそそれを目指す事はできるべさ」
「んぎゃー! あんな英雄二度と現れるかー!」
今度は地団駄を踏んだ。
「えっと、なんで与吾郎おじいさんの事そこまで知ってるの? ヒミコ、さんだって会ってないはずだろ?」
それとも魔法か何かで知ったのか、と言おうとした時。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんから聞いてたからよ。隼人が大きくなったら話そうと思ってたわ」
母さんが答えてくれた。
そうだったのか。
「うん。それもあったからかな、世界をなんとかしたいなあって思ったのは」
ピタッと落ち着いたヒミコも言う。
「ええ。でもさっきキクコちゃんが言ってたようにがいいかもね」
母さんが笑みを浮かべて言った。
よかった、そう思ってくれて。
「ぐ、あんたまで何よ……ぐ、ぐ……そうだ」
” え? きゃあああ! ”
” し、しまった! ”
神器さん達がヒミコに吸い込まれるように消えた。
「三種の神器と融合すればよかったんだ。そうすればあっちもこっちも……」
そして、ヒミコの体が光り輝き出した。
「え、何が起こるんだ?」
” み、皆、早く、逃げろ! ”
剣さんの必死の声が聞こえてきた。
「よし皆、余の傍に寄れ……瞬間移動呪文!」
俺達は大魔王さんの魔法でワープして、城から離れた場所に着いたが、
ゴゴゴゴゴ……。
「え、地震?」
「いや、この辺りでは地震はほぼ起きないはず。ん?」
大魔王さんが城の方を向いた時。
城が轟音を立てて崩れ落ち、
「あ……?」
その跡に山のように大きな黒い影が、いやあれは。
「……八つの頭。あれって」
「伝説にある大蛇、八岐大蛇?」
大魔王さんの言う通り、あれはどう見てもそれだった。
「な、なんという凄まじい気だ」
「あわわわ」
四天王が震えだし、
「ひ、ひゃああ」
「え、え?」
キクコちゃんや友里さんも驚き戸惑い、
「うわあ! なにあれおっきいー!」
母さんは子供みたいにはしゃいでいた……。
「隼人さん、皆。ビビってないで今のうちに攻撃しようぜ」
ユウト君が身構えながら言った。
あ、そうだな。
” フフフ、アハハハ…… ”
ヒミコの笑い声が聞こえたかと思うと、
八岐大蛇はすっと消えた。
「へ? どうなってるんだ?」
「皆の衆、無事か!?」
アギ様達がその場に現れた。
「え。ええ、けど敵……が消えちゃって」
「む、時空を通った跡が感じられるぞ」
「もしや、あちらの世界に行ったのでは?」
インダム様とミクラ様が続けて言った。
「え、えええ!?」
もしあっちにだったら大パニックになる!
「よし、映し出してみよう。」
アギ様が手を揚げると、少し離れた場所に映画のスクリーンのようなものが浮かんだ。
そこに映っていたのは……。
「ああっ!?」
どこかの島にいる八岐大蛇だった。
「どうやら無人島のようじゃな。だがいずれは……む?」
アギ様が顔をしかめると
八岐大蛇から少し離れて囲むように、黒い塊のようなものがいくつも現れた。
「な、なんだあれ?」
「おそらく八岐大蛇の波動に釣られて現れた、妖魔じゃろうて」
「こちらなら迎撃できる魔法使いや戦士が多いが、あちらにはおらん……やつめ、あちらに狙いを絞りおったな」
「枝分かれと言ってもその実は表裏一体。だからあちらを破壊すればこっちも天変地異が起こり、いずれ消滅するのじゃ」
インダム様とミクラ様が続けて……。
「……って皆さん、俺達をすぐあっちに送ってください!」
神様達ならできるだろと思って言ったが、
「そうしたいが、奴が通ったせいか時空が乱れてしもうた。なんとかするが間に合うかどうか……ぐ」
アギ様が口惜しそうに言うと、
「あ、あの黒いのが動き出しました!」
友里さんが映像を指して言った。
――――――
「フフフ、これほどの力を持つ御方がいたとは……さあ、世界を闇に」
妖魔の一体がそう言った時だった。
「だからさせないってば」
「何? ギャアアー!」
それや近くにいた妖魔は光の彼方に消え去った。
「ふう、今度はこっちでか」
「ほんと疲れるわねえ」
「だから伊代は帰ってて」
「そうねえ、終わったら帰るわ」
――――――
「嘘だろ、妖魔ってボルス様やマヤ様ですら簡単には倒せないって言ってたのに」
ユウト君が震えながら言うが、お二人もあれと対峙した事あったんだ。
――――――
「それよりまた沸いてきたし、特大のをやろうかね」
「もう……じゃあ僕もやるよ」
二人は背を合わせて剣を構え、
「聖光招来・金剛破邪」
伊代が唱えると、その体が光り輝き出し、
「聖風招来・降魔殲滅」
所長の周りには風が集まり出した。
「いくわよ……光竜剣!」
「鳳凰一文字斬!」
二人がそれぞれ剣を振って技を放つと、
「フギャアアー!?」
「そんなバカなぁー!?」
集まってきた妖魔はあっという間に消え去った。
――――――
「ひゃああ……」
キクコちゃんは呆けていた。
そりゃまあ、普通の人と思っていたらああだったんだから。
俺もだけど。
「……あの、あれって勇者の技なんですよね?」
友里さんが誰にともなく言い、
「そのはずだよ。隼人さん、もしかしてあの二人も勇者なの?」
ユウト君が聞いてきた。
「知らないけど、そうかもしれない……」
――――――
「なんて言ってたりして」
「さあね。ま、帰って来てから話してあげましょ」
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