第27話「嫌だべさ」
「化けてたのとは違うわよ」
そこにいたのは、若いころの母さんそっくりな奴……?
「あ、あんた誰だ?」
「あたしも七海だけど、紛らわしいからそうね……ヒミコと名乗ろうかしら」
そいつが名乗ったが、
「ヒミコ?」
「ええ。世界を統べるはずだった邪馬台国の女王・卑弥呼。あたしはその後継者よ」
ヒミコが自分を指して言った。
「な、なんだって!? ど、どういう事だよ!?」
「知らないわよね。歴史から抹消されたから」
「それよりさ、あんたも七海さんってどういう事だよ?」
ユウト君が前に出て聞くと、
「あたしはね、七海のもう一つの人格よ。それが大魔力でこうして現れるまでになったの」
な、なんだって?
「なるほど、二重人格というやつか」
ジョウさんがまた顎に手をやって言うと、
「そんなとこ。七海ってほんと純真だから、たまにあたしが出てヤバいのを防いでたのよ」
「いや、防げてない気がするが?」
日記通りならアレすぎなんだが。
「そうでもないわよ。だって七海ったらある時すっぽんぽんで外出ようとしたんだもん。慌てて体乗っ取って止めたわ」
ヒミコがそんな事を言い、
「あ、思い出した。水不足の時に裸踊りして雨ごいしようと思ったんだ」
母さんがポンと手を叩いた。
「……あの、そこは感謝しておきます」
何してんだよ母さん……。
「うん、でも次郎君と会ってからはあたしの出番無くなっちゃったわ。それでこのまま消えちゃうのかなあって思ってたけど……ある時知ったの、あたし達が女王卑弥呼様の末裔だって」
「え、どこで?」
「明子お祖母ちゃんが持ってた本でよ。古代文字だったから誰も読めなかったんだろけど、あたしは見た途端にぶわっと流れ込んできたわ」
「あ、そうだったんだ。私はなんとなくだけど、魔法使いの女王様の本かなあって」
母さんが言うと、
「当たってるわよ。卑弥呼様は魔法使いでもあってね、その力で世界を統一しようとしていたの。結局卑弥呼様の代では叶わなかったけど、三代後でいよいよという時に後の大和朝廷が現れた。彼らは自分達こそ天孫だと信じ、邪馬台国の一族を滅ぼしたのよ」
「あ、たしかにそんな説もありました」
友里さんが手を叩いて言った。
ほんとよく知ってるな、この人は。
「えっと、一族って事は卑弥呼様以外にも結構魔法使いいたんだろ? なんで負けたの? あ、もしかして大和朝廷も魔法を?」
「ううん。大和朝廷に魔法使いはいなかったみたい。だけど隙をついて邪馬台国が持っていた三種の神器を奪い取って封じて、女王様達の魔法も封じたんだって」
「え? こう言っちゃなんだけどさ、誰か捕まえて魔法を利用しようとはならなかったのかよ?」
ユウト君が結構あれな事聞くと、
「あいつらは魔法は、神代の力はもういらないと思ったみたい。けどさ、今を見てどう思う?」
ヒミコが聞いてきた。
「……そりゃ、魔法の方がいいかもって思う時もあるよ」
ほんとこれまでの歴史を見ても……。
「でしょ。七海もそれがあったから、世界を一回滅ぼしてって思ったのよね」
「うん。戦争も無くならないし、いやな奴多いし」
母さんが頷いた。
「ねえ七海、もう一回ひとつになって世界を作り直そうよ。隼人や皆も手伝ってよ」
ヒミコが手を合わせて言ってきたが、
「それは……」
「ちょっと聞いていいか? 明子大叔母がなぜかの本を持っていたんだ?」
ジョウさんが前に出て尋ねた。
そういえばそうだ。なんでひいばあちゃんが?
「そりゃ先祖代々伝わってたからよ。お祖母ちゃんは大伯父さんから託されてたみたいね」
「……だとしたら桐山家は卑弥呼様かそれに近い方の子孫だという事で、僕もキクコもユウトも、そして隼人さんも子孫という事になるな」
「あっ!?」
そ、そうなるわ!
「卑弥呼様は子供いなかったから、血族で四代目女王候補だった方の子孫よ。あとそっちの子も子孫よ」
ヒミコがそう言って友里さんを指した。
「え、私もですか?」
「うん。日本中に生き残った一族が散らばったみたいだし」
” ええ、間違いないわ ”
” う、俺気づかなかった ”
” 血筋までは見てなかったよ。不覚だ ”
「それだと今あっちで魔法力ある人って、皆その人の子孫って事?」
思わず聞いてみた。
「だいたいそうじゃないかなあ、他の国にも魔法使いいたみたいだからそっちかもだけど」
なるほど。
外国だと魔女の話もあるし、他にも妖術とかそんなのもで、どれかは本当の事だったのかも。
「そうか。ところで女王候補の子孫が勇者と聖女で、あなたを阻止しようとしているのだが?」
ジョウさんが俺達を指して言うと、
「あ、そうだったわ。ねえ、勇者と聖女なら一緒に悪い奴やっつけようよ」
ヒミコがまた手を合わせて懇願してきた。
だが、誰も何も言わなかった。
ジョウさんもさっきは反対していたが、今は悩んでいるようだった。
だよな……。
母さんの魔法があれば……勇者の力があれば。
世界を消すのだけはやめるよう説得すれば、いけるかもしれない。
……。
「あの」
俺が話そうとした時だった。
「嫌だべさ」
え?
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