第25話「あれって……え?」

 なんだって、世界を消すって?

 支配するじゃなくて?


「待て、貴様は妖魔ではないのか?」

 大魔王さんが尋ねると、

「え、なにそれ?」

 彼女は首を傾げた。


「違うようだな。妖魔なら世界を消すなど言わぬはずだ」

「そうだべ。あいつらは人々の悪しき縁をだから、世界丸ごと消えたら自分達も存在できなくなるべさ」

 そういうものなのかって、よく考えたらそうかも。


「うーん? あ、もしかして悪い事起こしてる奴の事? だったら真っ先に消えてほしいわ」

 ん?


「なあ、あんた世界を消してどうしたいんだ?」

 なんか妙なんだが?


「どうしたいって、一回消して新しく作り直したいの。そうすればもう悪い奴いなくなるでしょ」

「いやそれは」


「なるほど。その気持ち分からなくもないね」

 ジョウさんが割り込んで言った。


「そうでしょ? ねえ、だから神器ちょうだい」

 彼女がまた手を出して言う。


「嫌だ。消されたら僕の発明もまた一からやり直し。そんなの面倒ではないか」

 おいこら……。

「それに、やり直したところでまた悪しき縁は生まれるだろう。伝説にある英雄でも出てこない限りはな」


「あら、そんな英雄がいるの?」

 彼女がまた首を傾げる。


「初代勇者と聖女が語ったとされる話では、再び勇者と聖女が揃いてその二人が結ばれた先に出てくるとあるから、そうだとしたら最低でもあと一年かな?」


「へ? ねえキクコちゃん、そんな伝説あったの?」

「あたすも知らなかったべ」

「おれも知らね」

 キクコちゃんとユウト君が頭を振って言い、

「え、だとしたら……う」

 友里さんが顔を真っ赤にして……あれ?


「おい、そんな伝説は余も知らんぞ」

 大魔王さんですら知らんのか。


「だろうね。これ、つい最近解読された古文書にあったものだし。それでどうする? その英雄が生まれて来るまで待った方がいいんじゃないかな?」


「うーん、どうしよー?」

 敵は本気で悩みだした……なんだろ、この既視感は?



「なあ、もしかすると戦わずに済むのでは?」

「いや、なんかヤバい気がする」

「ぼくもそう思う」

 ノミール、ガーゴロン、デンキオウが続けて言い、

「あの、わたしジョウさんに交際申し込みたい」

 ヘルプス、あんた女の子だったの?

 というかこんな時に言うな。



「うーん、やっぱそれ確実じゃないし、消しちゃった方がいいわね」

 彼女が玉座から立ち上がると、


「ぐ、させるか!」

 大魔王と四天王が身構え、俺達も後に続いた。


「もう、消すのは世界と悪い奴だけなんだから、あなた達はおとなしくしててよ」

「ほう、大魔王の余を悪と思わんのか?」


「うん。だってあんた、密偵のフリしてた私を凄く労ってくれて、ゆっくり休めって言ったじゃない。そんな人が悪人な訳ないわ」

 やっぱいい人なんだな、大魔王さんは。


 それと、彼女も悪人じゃないような気が……?


「買いかぶりすぎだ。だいたい世界を消したら善人まで苦しむだろうが、だから止めさせてもらうぞ……はあっ!」

「うわっ!?」


 大魔王さんがいきなり極大五芒星呪文を放ったが、


「えいっ」

 彼女はそれを指で弾いて消した……え? 


「な、なんだと……? あんなあっさり相殺するとは」

 大魔王さんが冷や汗をかいて言った。


「あ、そうだ。ほんとに苦しむか見てみる?」

 え?


「えっと……えーい!」

「うわあっ!」


 彼女が手を挙げてそこから勢いよく大きな光線を放ったが……すぐに消えた。


「……え、なんだったんだ今の?」


「もう一つの世界消したのよ。一個ずつなら鏡だけでもできるからね」

 

 ……え?


” あ、あいつ本当に何者だよ? 姉貴の力を軽々と? ”

” ……まさか、いやあの一族は滅んだはず? ”


「え、え……じゃあお父さんやお母さん、施設の皆さんは」

 友里さんが震えながら言うと、


「いい人なら生きてるよ、見せてあげるね」

 彼女がまた手を挙げると、天井に大きなモニターのようなものが浮かんだ。


 そして、そこに映し出されたのは……。


「あれ、隼人さん達の世界だべ」

 そう、俺達の世界だ。


 そこには東京の街並みが……何事もなかったかのようにある?


「え? あれ、何も起こってない? なんで?」

 彼女も訳が分からないようだった。


「あの、まさか不発?」

 友里さんが言うが、そうなのか?


「あんれ、あの辺になんか浮いてるべさ?」

 キクコちゃんの指す方を見てみると、たしかに空になんか人影っぽいのが写っていた。

「うーん? 人っぽいけどあっちには魔法使いいないんだよな?」

 ユウト君が首を傾げる。


「ちょっと大きくしてみるね。はい」

 彼女がまたまた手をかざすと、その人影がはっきりと……え?


――――――


「ふう、なんとか防げたね」 


 そこに映っていたのは、黒い軍服のような上下と白いマントを着て、手に日本刀に似た片刃の剣を持った優し気な顔立ちで短髪の男性と、


「ええ。皆さんがいなかったらどうなってたやらだわ」


 黒いストレートボブで少し目がキリっとして、服装は黒いマントの下にビキニアーマー、その更に下に紺色のアンダースーツを着ている女性。


 って……あれは。


「というかさ、妊娠してるんだから伊代は帰ってよ」

「はいはい、無理だと思ったら帰るからさ」




「あ、あれって……所長さんと伊代さんだべ!?」

 キクコちゃんが声をあげた。

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