第6話「そん時はあたすも行くべ」
「お邪魔してもええか?」
ドアの向こうからなんか枯れた声が聞こえてきた。
てか家の中に入って来てから言うなって、やっぱ田舎だから?
「こら、明日にせい」
お祖父さんがしかめっ面で言うと、
「兄さん、儂は村長だぞ。勇者様に挨拶くらいさせてくれ」
あ、村長さんなんだ。って兄さんってご兄弟かな?
「む、そうだったな。じゃあ入ってくれ」
入ってきたのはやはり与吾郎おじいさんに似ていて、杖をついているお爺さんだった。
「勇者様、いや隼人さんと言った方がいいのかな。儂はダイゴロウの二番目の弟のヨサブロウです。この村の村長もしています」
村長さんがそう言って頭を下げた。
二番目って事は他にもご兄弟いるんだ。それ聞いてなかったな。
っと。
「あ、諸星隼人です。はじめまして」
俺も立ち上がって挨拶した。
「お会いできて光栄ですぞ。まさか親戚が勇者様とはのう」
「いえいえ、そんな」
「ヨサブロウは先代村長の娘と結婚して婿養子に入ったんですよ」
お祖父さんが村長さんを指して言った。
「あ、もしかしてキクコちゃんの話にあった村長さんの?」
「それは妻の祖父ですよ」
村長さんが答えた。
「そうなんですね。しかし村長って世襲制なのですか?」
「違いますが惰性というか、初代村長の子孫でもある我が家から選ばれる事が多いのですよ」
「あ、そうだったのですね」
「ヨザブロウは人望が厚いから選ばれたのだろうが、父さん以上とも言われているのに」
「父さんには敵わんと今でも思うとるわ。あ、すみませんな。今日の所はこれで」
村長さんはそう言ってささっと出て行った。
しかし与吾郎おじいさん以上って、凄いと思うけどなあ。
その後、お父さんに連れられて大衆浴場に行った。
というか露天風呂だった。
今の時間は空いているようで、俺とお父さん以外はいなかった。
「ふう、いいお湯ですね。ここってたしか与吾郎おじいさんがですよね」
「そうだよ。祖父はほんと欲が無い人だったよ。その気になれば大金持ちだったのになあ」
隣に浸かっているお父さんが言う。
「キクコさんは徳を集めろと言われたって聞きましたよ」
「うん。俺もそれをしていたら役人になれちゃったよ」
お父さんが自分を指して言った。
「たしか上皇様に言われてですよね」
「そうだよ。うちは祖父の頃から付き合いがあったからね。ところでさ、キクコを嫁に貰ってくれる気ある?」
「え、いやその……」
いきなり言うなって、娘はやらんとかじゃないの?
「まあまだ若いから、ゆっくり考えて……じゃ遅いかも。キクコを狙ってる子は他にもいるから」
「え、そうなんですか?」
「うん、そっちから帰ってきてからあっちこっちからお見合いの話来てるし、父のすぐ下の弟さんの孫であるキクコの又従兄も狙ってるよ」
「歳はいくつですか?」
「キクコより三歳上だから今年二十歳。まあキクコは兄としか見てないけど」
「安心できませんね」
「うん、だから頑張ってね。キクコが選んだ相手なら文句言わないよ」
家に帰った後、今日はここでと客室に通された。
キクコちゃんが浴衣持ってきてくれて、その後さっきの事を話した。
「おっとうがそんな事言ってたべか」
「うん。結構モテるんだね」
いやモテない要素が無いけど。
「んにゃ、あんま気にしてなかったべさ。それにあたすはもう隼人さんと」
「……けど、俺は」
いずれは帰……いや、どうするか。
いっそ……。
「そん時はあたすも行くべ」
え?
「いやあの、もう行けないんじゃ?」
「んにゃ、お師匠様が言うには、一往復しかできないというのは扉しか異世界への道が無いと思われていたからではないかって」
「どういう事?」
「扉は八十年に一度しか開かねえべ。運がよければもう一回くらいは通れるだろうけんど、殆どの人は生涯一度だべ」
「そうだよな……あ、そうか。他に行く手段があったから」
「そうだべ。それでもう戻れねえかもだけんど、いいべ」
「え、いやそれは」
「おっとうもおっかあも、あたすの思うようにしなさいって行ってくれたべさ」
「……いいの?」
「んだ。帰ってからずっとまた行ける方法がねえかって思ってただ……」
キクコちゃんが項垂れて言った。
「ごめんね、俺は殆ど諦めてたのに」
「いいんだべ。さ、明日に備えて早く寝るべさ」
「うん……いや、もう少しだけ話さない?」
「んだ。じゃあ」
その日は夜遅くまで話した。
それ以上はなんもしてませんからね。
翌朝、支度をしていたら今度はお父さんの弟さん一家や妹さん一家が挨拶したいとやってきた。
その後は村の人達が後から後からと来て……。
気がつけば夕暮れ時で、出発を一日遅らせる事になってしまった。
「すみませんなあ、やはり情報規制すべきだったかもですわ」
やって来た村長さんが申し訳なさそうに言ってきた。
「いえそんな。しかしこの村の人って大半が親戚なんですね」
お祖母さんの兄弟姉妹の子供だとか、お祖父さんや村長さんのはとこの子供だとかもいた……。
「ええ。よそへ行ったのもいますので、それらを合わせたら倍くらいになりますかな」
「……」
「おお、疲れてるのにすみませんな。では」
村長さんはまたささっと帰って行った。
しかし杖ついてるのに歩くの早いな、あの人。
「ヨザブロウじっちゃ、ほんとは足腰強いべさ。杖は護身用の剣代わりだべさ」
キクコちゃんがそう言った。
なるほどね。
そしてまた翌日の朝。
今度はご家族に見送られ、無事に村を後にして。
のどかな田舎道をしばらく歩いているのと……。
「ちょっと待ってくれよ」
誰かが声をかけてきた。
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