自殺とその先
それはある雪が降りしきる日だった。とある小学校で授業があっていて、児童たちが黙って聞いており、もう終わりの時間なのか、チァイムが鳴り、担任の教師が締めの言葉を述べて終えようとしている。そして児童が一斉に休憩時間に入ろうとしたその時、何かが空気を擦れ、放たれるような音が聞こえ、悲鳴が上がる。
教師が発生元を見ると、男子児童が首にナイフの刃のようなものが刺さって血を流して倒れており、周りの児童が驚いて固まっている。教師が慌てて近づき容態を確認し、男子児童の傷をハンカチで止血しようとしても血は溢れ返し、止まらない。
「いったい誰かこんなことを! 誰か保健の先生と隣のクラスの先生を呼んできて!」
周りを見渡して原因を探ろうとすると一人の児童がいないことに気が付き、男子児童の傷がついた方向をみると後ろから刺されており、その方向の後ろから二番目の席の床によく見ると、ナイフの柄のようなものが落ちている。頭の中で情報をまとめると教師は近くの児童に声を掛ける。
「西園寺さんはどこか知らない?」
「西園寺ちゃんはさっき廊下に出ていきました」
そう児童が答えると教師は顔を怒りに染めて、怒号を飛ばした。
場面が変わり、一人のショートヘアの女の子が雪が積もった歩道を走っている。顔は無表情だが憔悴した感情が見え隠れしており、口角が下がっている。そして女の子は午前中にもかかわらずに、ランドセルを背負わず制服を着ていて、時折街の人が奇異な目を向けるが、女の子は気にした様子もなく、顔を前に向けて足は目的地に走り続けている。
寒さゆえか女の子はときおり歯を鳴らし、白い息が出てても足を止めない。やがて黒い色をした家が見えてくると、女の子の足はなお速くなり、ドアまで近づくと間を置かずに開けて中に入る。
「あら凛、今日は早いわね、学校はどうしたの?」
「……」
中に入ると狭い廊下から母親らしき長身の女性が玄関まで来て声を掛けてくるが、凛は無視し、靴を脱いで階段を上り、三つある部屋のドアから左のドアを開けて中に入る。ドアを閉めると深呼吸を繰り返して、感情を落ち着かせる。
それから凛は部屋にある机から、日記のノートを取り出し捲り始める。そこには様々な内容が書かれていた。最初は日々の些細な明るいことが記録されていたが、最近は学校でのグループによる執拗で陰湿な虐め、両親の冷たい態度など暗い物事について書かれている。
凛は徐々に思い出してきたのか、涙がこぼれ、嗚咽し始める。そして最後まで読み終えると、もう一度深呼吸を数回し、涙を拭い、嗚咽を止めた。そして凛の目には覚悟の炎が灯り始め、目つきが鋭くなる。それから、タンスから薄い上着を取り出し、ドアノブに紐として掛け、頭を入れる。
「これでやっと解放される、来世は生まれませんように」
凛はそう呟くと体重をかけ始めるが、なかなか上手くいかない。そこで上着をもっと強く絞めて試すと、だんだんと苦しくなり、意識が白んでいく、やがて心音が小さくなり始め、周りの音が聞こえなくなっていき、意識が暗転する。
そして時が経ち、暗闇の中で凛の意識は薄っすらと戻る。
(ここは? 私は死んだはずじゃ……浮いてる?)
状況に驚きながらも情報把握に努めようと体を動かそうとするが、体に重しが乗っているかのように動かない。声を出そうとしてもかすれ声一つ出ず、しかたなく感覚に意識を向けると、感じるものは真っ暗な視覚と黒い液体を漂う浮遊感しか感じられない。そして周りをよく見ると、ちらほらと青や赤などの光を放つ球体が浮いているのが見える。
凛が不思議に思っていると黒い液体が波打ち始めて、光を放つ球体と一緒に流され始める。そして段々とその波の速さが増え、下に下に流されていく。やがてその黒い波は渦となり、渦底に近づくにつれ、大きな眩い白い光が見えてくる。
(眩しい、あれが天国? なんか怖いな)
恐怖心を感じながらも、眩しさに疑問を呈すが、凛はさらに白い光に近づくように流され、その正体がはっきり見えてくる。それは丸い透明な膜に覆われており、球体で地球と似た大陸と海が広がっていた。そしてそれに色とりどりの光の球体が接触すると、溶け出していき、中身の霧のようなものが吸い込まれていく。
凛はその光景をどこか他人事のように見ていて、やがて自分も渦に流されながらその光に落ちていくが、それに対しても無関心で、諦観した思いのまま溶け出していく。
(ここもこれで最後か、天国はいい場所だと良いな)
凛は最後に心の中でそう思い、意識は途絶えた。
ここは地球とは別の世界、地球ほどの文明もないが、それでも幸せに暮らしていた村の若い夫婦のもとに、一人の男の子が生まれた。夫婦は大層喜んで、夫は最初、母親の腕に抱きかかえられた赤ん坊の顔を見たが、その目は薄暗く濁っており、泣いているのに無表情を保っていたそうだ。その噂が村で広がり、その男の子は邪神が呼んだ悪魔の子とあだ名を付けられ、村では忌み嫌われ続けるのだった。
掌編集 Tokumei774 @tokumei774
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