第2話 学校

目が覚めたら、そこは家だった。

昨日は家の屋上にいたはずなのに、そこからは記憶がない。

あの後、無意識のうちに家に帰っていたのだろうか?

私は、鏡の前に立って自分の姿を見た。

鏡に映ったのは昨日の夜着ていた白いワンピースを着た自分だった。

どうやら、パジャマに着替えず、そのまま寝てしまったらしい。

私は、不審に思われるだろうと思い、パジャマに着替えると、家の一階におりた。

「あら、おはよう。」

一階では、お母さんが朝ごはんの支度をしていた。

「おはよう。」

「今日は学校、行く?」

私は、少し考えた。

いつも、遅刻で学校の自習室へ行っている。

それで、一応欠席ではなく、遅刻日数として数えてもらっているのだ。

だが、今日はどうしよう。

配られた授業プリントとかを回収するために、行ってみるか。

クラスは嫌だけど、勉強に置いて行かれないようにするためには仕方がない。

「行く。」

私がそう答えると、お母さんは、

「そう。」

とだけ言った。

いつものように嫌味は言わなかった。

いつも遅刻で行くときなどは、ぐちぐちと、どうして普通の子みたいに学校に行かないのよ、とか隣の家の子はいつも成績が良くて、だのうるさいのだ。事情をよく知らないのにどうしてそんな風に攻めるようなことしか言わないのだろうか。

「はあ。」

洗面台の鏡を見て、思わずため息をついた。

平凡な顔。

少し綺麗だけど、ぼさぼさな髪の毛。

「早く支度しないと間に合わないわよー!」

居間のほうからお母さんの声がした。

「はーい。」

私はそう返事して、顔を洗って居間のほうへ向かう。

朝ごはんを食べて、リュックを背負って急いで玄関のほうへ向かった。

「いってきます。」

そう言って私は、扉を開けて外に出た。

学校につくと、案の定、机には悪口が書いてあった。

こんなのはどうでもいい。

授業プリントはちゃんと入っているだろうか?

そう思い、引き出しの中を見ると、授業プリントにも落書きがしてあった。

授業プリントをすべてかき集めてリュックの中へ押し込む。

そして、私は職員室へ行って新しくプリントをもらいなおした。

引き出しの中に入れてもらったはずだけど?と言って新しいプリントをくれない先生もいたが、落書きのしてあるプリントを見ると、納得したような表情で、新しいプリントをくれた。

私は、落書きをされたプリントをリュックから取り出し、近くにあったゴミ箱に押し込んで、新しいプリントをリュックの中に入れた。

そして、再びクラスに戻った。

すると、落書きのされてある私の机を見てリリカがくすくすと笑っていた。

「あんた、大丈夫~?」

そう私の机を見ながら言った。

「うん、全然大丈夫。私はこんなにくだらない嫌がらせに屈しないから。」

そう言ってやると、ムカッとした顔をしてどこかへ行ってしまった。

大丈夫。

大丈夫ではないけど、大丈夫。

痛くなんかない。

私より、もっとひどい目にあっている人はたくさんいる。

その人たちから比べたら私はまだましだ。

私は、自分にそう言い聞かせて、席に座った。

あらかじめ持ってきていたアルコール消毒液を机にぶちまけて、その上から雑巾ぞうきんでふく。すると、簡単に油性マーカーで書かれたものは取れた。少し厄介なのは、机そのものに彫られている悪口だ。

私は、机を教室の一番前に置いてある予備の机と取り換えた。

もちろん椅子も。

取り換え終わって、席に着いた瞬間、チャイムが鳴った。

ホームルームがはじまる。

先生が入ってきた。

ホームルームの間中は、ずっと私の椅子を後ろの人が蹴ってきた。

本当にくだらない。

だんっ。だんっ。だんっ。と、蹴ってくる。

本当に地味な嫌がらせだな。

私は、自分の足を後ろの席の人の足にからめて、椅子をけれないようにした。

横目で、後ろの人の表情を見てみると、嫌そうに顔を歪めていた。

ばーか。

私は振り返って、あっかんべー、としておいた。

後ろの人はますます怒りに顔を歪めた。

そこで、チャイムが鳴ってホームルームが終わった。

一時間目の授業は体育だった。

体育では学期末なのでドッジボールをやった。

一時間目と二時間目の間の休み時間で、私が歩いて移動していると、ボールが思いきり顔に当たった。振り返ってボールを投げた人を見ると、リリカだった。クラスメイト達は、私を見てくすくすと笑っていた。何がおかしいのだろうか。

次の瞬間、なぜだか涙があふれそうになった。

私は涙を必死にこらえた。

泣いてたまるか。

泣いたら奴らの思い通りだ。

意地でも泣きたくない。

それなのに、涙は私の目からこぼれ落ちてしまった。

それをみて、クラスメイトがにこにこと笑う。

いい気味、とでも思っているのだろう。

本当に腹が立つ。

私は、これ以上泣いている姿をさらしたくないので、教室に帰って、リュックを背負って、帰った。

家に帰ると、お母さんがいた。

「どうしたの?」

お母さんは心配そうにそう言って私のほうを見た。

本当は心配なんてしていないくせに。

どうせお母さんも心の中で泣いている私を馬鹿にしているんだ。

そう思うと、また涙があふれてきた。

どうしてだろう。

悲しくなんかないのに。

私は何も言いたくなくて、リュックをその場に投げ捨て、逃げるように自分の部屋に引きこもった。

自分の部屋の鏡の前に座り込む。

学校なんて、行かなきゃよかった。

どうして私、生きているんだろう。

昨日、あのまま死んでいればよかったのに。

「ねえ、何で生きているの?」

私は思わず、鏡の中の自分に問いかけてしまった。

すると、鏡が光り、知らない少女がうつっていた。

「あ、えっと、誰_?」

赤い衣を着た少女が驚いたようにそう言った。

「え?そっちこそ、誰?」

私はそう問い返していた。

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鏡越しの私と君 藍無 @270

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