1.この案件持ち帰りで

第1話

「明日は朝から苦手な新規訪問です」



「もういい加減慣れろよ」



「既存ならぐいぐい行けるようになったんですけど。でも先輩と一緒なんで心強いです。明日も勉強させてください」



「はいはい。でも本気でそろそろ独り立ちしろよ」



「ですよねえ」



「で、午後は…」




会社の営業車両の助手席に座り、隣で運転する久保先輩と、タブレットで明日の訪問予定を確認しあう。


と、膝の上のカバンの中でプライベートのスマホがメッセージを受信した。




「先輩!野口さんに今夜ご飯誘われました。ついに彼女と別れたんですかね」



「ばーか」



「だって初めて誘われたんですよ!どうしよう。一回家帰って着替えてこようかな。先輩、このままうち寄ってもらっていいですか?せめて勝負下着に」



「佐々木さあ、降ろされたい?」



「ごめんなさい。冗談です。仕事中です」



「ちなみに佐々木はどんなので勝負すんの?」



「すみません、勝負とは無縁の日々なので買わなきゃです。でもすごいですね。先輩みたいなかっこいい人が言うと、全くセクハラに感じませんね」



「そりゃどうも。で?俺と飯行くとき、勝負の備えが必要だと思ったことあったか?」



「一度もありません」



「言い切るなよ。先輩には気を使ったほうがいいって教えてもらっただろ」



「はい。久保翔くぼかける先輩に教わりました。でも先輩に今更気遣いなんて、イタッ!暴力!」




メッセージを開き、スマホの画面を見せつけ喜ぶわたしに、先輩が右手はハンドルを握ったまま、もう片方の手で頭をチョップされた。ひどい。

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