第40話 未来を繋ぐ一滴
祐徳庵の湧き水を守る活動が軌道に乗り始めた矢先、田辺教授からの新たな報告が塩見遼一と茜美咲にもたらされた。湧き水の枯渇は表面的な問題に過ぎず、地下水脈全体が変化している兆候があるというのだ。
「地下水脈に異変が起きれば、湧き水だけではなく、祐徳市全体が影響を受けます。この問題は、酒蔵だけではなく地域全体の未来を左右するかもしれません。」
田辺の言葉に、源一や颯太だけでなく、塩見も表情を曇らせた。
「このままだと、湧き水の保全だけでは解決できないかもしれない。」
塩見が呟くと、颯太は拳を握りしめた。
「でも、だからこそ行動を起こさなきゃいけないんです。祐徳市の未来を守るためにも。」
田辺教授の指導のもと、塩見と颯太、茜は酒蔵の裏山へと向かった。そこには長年手つかずになっていた古い調査井戸があった。湧き水の源を調査するため、その井戸を使い水脈の状況を確認することにした。
調査を進める中で、彼らは意外な事実を発見する。湧き水が減少している理由は、近年増加している観光開発だけでなく、地下にある古い水路が崩れ始めていることが原因の一つだと判明したのだ。
「この水路、かつて地域の農業用水路として使われていたものですね。祐徳市の水の流れを管理するために設けられたものですが、長年放置されていたようです。」
田辺は地図を指しながら説明した。
「つまり、この崩れた水路を修復すれば、水脈の流れを少しでも改善できる可能性がある、ということか。」
塩見が確認すると、田辺は頷いた。
「ただし、大規模な修復には時間も費用もかかります。その間に湧き水が完全に枯れてしまう可能性もあります。」
問題の深刻さを認識した塩見たちは、地元住民や観光業者、さらには行政を巻き込み、地下水脈の修復プロジェクトを立ち上げることを決意する。茜は再びSNSで発信を開始し、「未来を繋ぐ一滴」プロジェクトとして全国に支援を呼びかけた。
茜が投稿した動画には、湧き水の美しい映像や、地域の人々がそれを守るために動き始める姿が映し出されていた。
「この湧き水があるからこそ、祐徳市の伝統や自然が守られてきました。今、それが危機に瀕しています。どうか、この未来を守るためにご協力をお願いします。」
投稿は瞬く間に拡散され、多くの共感の声や寄付が集まり始める。一方、地元住民たちも少しずつ行動を起こし、修復作業の準備に協力するようになった。
そんな中、源一は一人静かに祐徳庵の裏山に向かい、湧き水の源を見つめていた。彼の脳裏には、かつて自分が湧き水を守るために奔走していた頃の記憶が蘇っていた。
「この水があったからこそ、俺の酒は作れた。そして、この水があったから、俺は酒を作り続ける意味を見つけられた。」
源一は静かに呟いた。そして、決意を新たにするように湧き水に向き直る。
「もう一度、この水と向き合おう。この水を守るために、俺のすべてを賭ける。」
プロジェクトが進む中、塩見と颯太たちは古い水路の修復を開始した。しかし、作業が進むにつれて予想以上の問題が浮かび上がる。水路が長年放置されていたことで、崩壊が予想以上に進んでおり、一部は再建不可能な状態になっていたのだ。
さらに、観光業者の一部が「修復作業が観光客の流れを妨げる」として反対の声を上げ始める。地域全体が協力しなければこの問題は解決できないが、立場の違いから対立が深まる。
「酒蔵のためだけに、こんな大規模なことをする必要があるのか?」
観光業者の代表が厳しい声を上げる中、颯太は毅然とした態度で答えた。
「これは酒蔵だけの問題じゃない。この水は祐徳市全体の未来を繋ぐ鍵なんです。」
その言葉に周囲が静まり返る中、茜がSNSで集まった応援メッセージを読み上げる。
「この湧き水を守りたい。地域の未来を残したい――。たくさんの人がそう思っています。だからこそ、私たちは行動するんです!」
その言葉が地域住民の心を動かし、次第に協力の輪が広がり始める。
水路の一部が再建され、水脈の流れがわずかに改善し始めた。湧き水の量も少しずつ回復の兆しを見せる中、田辺教授が新たな問題を提起する。
「水脈の修復は進んでいますが、根本的な解決にはもっと時間が必要です。そして、その間にさらなる気候変動が起きれば、湧き水の状況は再び悪化する可能性があります。」
その言葉に、塩見は静かに湧き水を見つめながら答えた。
「時間がかかるなら、それでもいい。俺たちが守り続ければ、この水は未来に繋がる。」
一方で、源一の体調に異変が訪れる――湧き水を守るという責任の重圧が、彼に大きな負担をかけていたのだった。
次回予告:「守る責任、繋ぐ未来」
水脈の修復が進む中、地域の未来が少しずつ形になり始める。しかし、源一の体調不良が新たな不安をもたらす。祐徳市を支える湧き水を守り抜くことはできるのか――次回、「守る責任、繋ぐ未来」。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます