第39話 守るべき未来
祐徳庵の湧き水を守るための活動が、塩見遼一と茜美咲、そして地元住民たちの協力によって本格的に始まった。田辺教授の提案で、地元の環境保護団体や行政とも連携し、湧き水の周辺に植林を行うプロジェクトが立ち上がる。
酒蔵の前には源一と颯太、地元の住民、さらには興味を持った観光客たちが集まり、賑やかな雰囲気が広がっていた。しかし、活動が始まったばかりの段階で、既にいくつかの課題が浮き彫りになっていた。
活動の中心に立つ颯太が声を張り上げる。
「湧き水を守ることは、この酒蔵だけじゃなく、祐徳市全体の未来に繋がるんです!一緒に力を合わせましょう!」
その言葉に、多くの住民が頷く中、少数ながら冷ややかな視線を送る者もいた。
「そこまでして守る必要があるのかね。この活動だって、結局は酒蔵の宣伝のためだろう。」
「そんなことに時間とお金を使うくらいなら、もっと観光施設を増やした方が町のためだ。」
厳しい意見に、颯太の顔が一瞬曇る。茜が間に入り、穏やかな声で呼びかけた。
「皆さん、湧き水ってこの地域にとって特別な存在だと思いませんか?観光施設が増えるのも大事ですが、それと同時に、ここにしかない自然や文化を守ることも大切なんじゃないでしょうか。」
茜の言葉に、一部の住民たちの表情が少し和らぐが、根深い対立の火種が残ったままだった。
その日の夕方、塩見と茜は源一と颯太を連れて、酒蔵の裏山にある湧き水の源へと足を運んだ。小さな流れだが、その水は確かに地域の命を支えているように感じられた。
塩見は静かに湧き水をすくい上げ、ゆっくりと語り始める。
「この水には、ただの水以上の意味がある。この水は、何世代にもわたって地域の人々を繋いできた。そしてその象徴が、祐徳庵の酒なんだ。」
源一はじっと湧き水を見つめながら口を開いた。
「確かに、この水がなければ酒は作れない。そして、この水を守ることが、私がここで生きてきた理由だったかもしれん。」
その言葉に、颯太が力強く頷く。
「だったら、今度は俺たちが守る番だ。祖父さんがこの水を守ってきたように、俺はこの水を次の世代に繋ぐために酒を作る。」
その決意を聞いた源一は、わずかに口元を緩めた。
「ならば、お前に託すことにするか……この水も、この酒蔵も。」
しかし、湧き水を巡る問題はこれだけでは終わらなかった。近隣の観光業者が、新たに大型の温泉施設を建設する計画を進めていることが判明したのだ。その開発によって、祐徳庵の湧き水の水量がさらに減少する可能性があると田辺教授から警告が入る。
塩見と颯太は観光業者との話し合いの場を設けるが、開発計画を止めることは容易ではなかった。
「地域活性化のためには、新しい施設が必要なんだ。それに、酒蔵のためだけに計画を止めるなんて非現実的だ。」
塩見は冷静に答える。
「施設の建設が地域にとって有益なことは理解しています。しかし、その結果、湧き水が失われれば、この地域の本当の魅力が失われてしまいます。」
この言葉に観光業者は表情を曇らせるが、解決への糸口はまだ見えない。
茜は湧き水の重要性を広めるためにSNSを駆使し、「祐徳庵の湧き水保全プロジェクト」を全国に発信する。
「この水があるからこそ、祐徳市の伝統が守られています。地域の未来を共に考えませんか?」
その投稿は瞬く間に拡散され、多くの人々から支援の声が集まり始める。SNSでの活動に刺激を受けた地元住民たちも次第に心を動かされ、保全活動への参加者が増えていく。
保全活動が進む中、塩見たちは湧き水の地下水脈に異変があることを発見する。それは、単なる自然現象ではなく、長年蓄積された問題が表面化しつつある兆候だった。地域全体の地質や水資源に根本的な影響を与える可能性があるという。
「もしこのまま手を打たなければ、祐徳市全体が影響を受けるかもしれません。」田辺教授の言葉に、塩見たちは新たな覚悟を決める。
次回予告:「未来を繋ぐ一滴」
湧き水保全活動が軌道に乗り始める中、地下水脈の異変が地域全体に及ぶ問題であることが明らかになる。祐徳市を守るためにはどうすればよいのか――次回、「未来を繋ぐ一滴」。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます