パティスリーの列に並んで

茶村 鈴香

パティスリーの列に並んで

「あの すみません」


ふりかえったら

まさかの人と目が合っていて

どうすることもできない


メイクなおしも

ブレスケアも

まにあう訳がない


いまこの瞬間 会話しないことには

きっとこの後はない

でも 何て言えばいい?


おなじ高校の

となりのクラスだった

それしか話題はない


2年の春の運動会

リレーのアンカー

ごぼう抜きだったよね


無念にも転んで

追いつこうとして

また転んで もう立てなくて


次の次の日は松葉杖

雨降ってんじゃねぇよって

笑いながらキレてたよね


ごった返す東京駅

一番人気のパイ菓子屋で


誰へのお土産かな

いくつ入りを選ぶの


「あの すみません」って

恥ずかしげに話しかけてくるその人


「女の人が好きそうなのって

どれですかね わからなくて」


そうだよね


覚えてる訳ない

いわゆる二軍の私だもの


覚えてる訳ない

描く絵だけは張り出されたけど


「私だったら林檎のカラメリゼ

あと限定で今は和栗ですかね」


精一杯の笑顔で答えて

一礼して前を向く


「次のお客様どうぞ」


今日はちょっとやけ食いしよ

「6種類全部、ひとつづつ」

林檎のカラメリゼ

季節限定 和栗

洋梨のムース

苺のナポレオン

濃厚ダークショコラ

フロマージュブラン


紅茶を淹れて

6種類のパイ菓子

眠れない夜になりそう


きっと彼は

林檎と和栗のパイお土産に

奥さまの元へ


紅茶にはカフェイン 

6種類のパイ菓子 きっと眠れない

一晩中 初恋の影に浸る


変わらなかったね

喋り方だけ大人だったね


東京のどこかで


ずっと 元気でいてね

ずっと 幸せでいてね

ずっと あんな風に笑っててね





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パティスリーの列に並んで 茶村 鈴香 @perumi

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