第6話 はじめてのお出かけ②

「あ、翔〜!ってその人は?」


呼読を連れた俺は莉子とシロネコのいるところに戻ってきた。シロネコは更衣室で着替え中のようだ。


「この人は俺のクラスメイト、呼続だ。服選びを手伝ってくれるんだと」


「初めまして、呼続園子です。よろしくお願いします」


呼続は堅い雰囲気で自己紹介する。


「は、はじめまして。翔の妹の莉子です」


真面目で堅そうなオーラに莉子は慣れていないから、打ち解けるには時間がかかりそうだな…


シャァァァ


更衣室のカーテンが開く。


「着替えました!どうですか…ってご主じ…むぐ!」


あっぶねえ!!


咄嗟にシロネコの口を塞いだ。俺の姿を見て「ご主人さま!」と言おうとしたのだろう。ご主人様呼びなんていうのを他人に知られたら大変なことになるからな…


(シロネコ、とりあえず俺が良いって言うまでは俺のことをご主人様って呼ばずに、翔でもお兄ちゃんでも何でも良いからそれで呼んでくれ、いいな?)


シロネコにはそう耳打ちした。


(はい…!)


シロネコは小さく答える。


呼続は不可解な目をしているが、何とか誤魔化せたみたいだ。


「この子、名前はなんて言うの?」


まっっっっずい…


この時の対処法を何も考えていなかった!

そのままシロネコって答えるとおかしなことになりそうなんだよな…


うぐぐ…シロネコ…シロ…ホワイト…イト…


「名前はイトだ」


「「!?」」


シロネコは驚き、莉子は驚いたあと、やれやれ…と少し呆れた顔をしている。みんな一旦慣れてくれ、この場の一時凌ぎだ…


「イトちゃん…ね。可愛らしい名前だわ」


呼続は納得しているようだ。しかしそれと対称的にシロネコはちょっと不機嫌そうになった。被っている帽子の中で猫耳がちょこん…としているのだろう。すまん、シロネコ!


シロネコの機嫌を直すためにも、とりあえず着ている服を褒めよう!


シロネコは黒の帽子、白っぽいちょっとダボっとしたイラスト入りのトレーナー、緑色のダボっとしたパンツ…ストリートファッションのようだ。これは莉子の趣味だな…だが、思った以上に似合っている。


「これは…ストリートファッションか?」


「うん。私こういうのが好きで、この子にも似合うと思った」


「似合っていると思う」


「っ〜!」


シロネコの顔が少し晴れた。


「ストリートファッションも良いわね…私もこの子に似合ってる服を考えたのだけど、持ってくるわね」


呼続が服を取りに行った。

呼続がちょっと見えづらい位置まで来た時に、シロネコが詰め寄ってくる。


「ご主人さま!何ですか、イトって名前は?」


「すまん…急にアイツがあんなこと言うから、それどころじゃなかったんだ。今日はすまんがアイツがいる間はその名前で呼ぶ」


「うぅ…わたしはご主人さまにシロネコって呼ばれるのがすきなのにぃ…」


シロネコはちょっとしょんぼりしている。


「翔…それにしても安直な発想ね。あんた、ホワイトからイトって導いたでしょ?」


「ああ…」


さすが我が妹、全てお見通しのようだった。


「シーちゃん、でもこれはあなたを守るためでもあるよ。ちょっと我慢しようね」


「はい…お姉様」


しょんぼりしているが、莉子からのフォローでシロネコは一応納得したようだ。


「持ってきたわよ。イトちゃん、まずはこれからお願いするわ」


呼続は色々と服を持ってきた。あの一瞬見ただけでよくこんなにコーデを考えられるな…


—————————————————————


あれからと言うもの、シロネコのファッションショーが繰り広げられた。優しい雰囲気の服もあれば呼続みたいなちょっと真面目で可愛い服装も…


しかし、ファッションショーは終わる気配を見せない。


「さああああイトちゃん、次はこれよお!」


呼続の様子がおかしくなったからだ。いつもは見せないノリノリな姿…


シロネコはちょっと疲れてきている。

莉子もちょっと引いている。初対面ではかなり堅い表情をしていたのに、今はそれが崩壊したかのような顔をしているそのギャップが大きすぎる。莉子、俺も同じ気持ちだ…


ぐううううううう…


「っ!うぅ…お腹が空きました…”翔お兄ちゃん”…」


な!?

シロネコ本人は意識していないのだろうが、俺を見上げるためにシロネコが上目遣いのような格好になった上に…


“翔お兄ちゃん”、だと…


確かに呼んでとは言ったが、莉子にお兄ちゃん呼びされたことないから、急に呼ばれて変な感じがする。こう、なんでもやってあげたくなるような…

俺の名を何でも良いから呼んでくれとは言ったけど、こんな感覚に俺は兄として突き動かされる!


「おい呼続、そろそろ決めようぜ。イトが腹を空かせている」


「私も。お腹すいたわ〜」


莉子もお腹をさすってそう言う。


「はっ…私は何を…ごめんなさい、イトちゃん…それに妹さんも…」


無自覚だったのか、あのテンションは。

とりあえず、俺の呼びかけに呼続は我に戻ったようだ。元の堅い顔に戻った。


「とりあえず私はこれとこれと…うーんとこれ、あとは最初のストリートファッションのコーデもいいと思ったわ」


呼続はちょっと迷った上で絞ったものを渡してきた。とりあえず俺はそれらを購入することにした。一応、お金は父さんが出してくれたため、遠慮なく買うことができた。


呼続に「お昼どうする?」と聞いたところ、「1人で食べるのもなんだし、ご一緒させてもらえない?」と言われた。ここまで服選びに尽力してもらったため断りづらい…そう言うことでお昼も一緒に食べることになった。


俺たちはたくさんの服を持ってみんなで3階のフードコートへ向かうのであった。

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