第5話 はじめてのお出かけ①
…
……
「…じんさま」
…ん…?
「ご主人…さま」
なんだかまたお腹のあたりに圧が…
「ご主人さま!朝ですよ!」
「…ん…あぁ、シロネコか」
「あ、起きた!おはようございます!ご主人さま!」
目を開くと、シロネコは昨日と同じく、猫耳をちょこんとさせて俺の腹の上に馬乗りになっていた。
「シロネコ…今何時だ…?」
「朝の7時です!」
「7時か…今日は休日だからもっと寝かせてくれ…」
部活は今日無い。だから久々にゆったりとした土曜を味わいたい…
急にガチャン!と勢いよく扉が開いた。
「翔!起きて!」
「あ、お姉様さま!」
扉の音で閉じかけていた瞼が開いた。
目に映っているのはシロネコのちょこんと困った猫耳とすごい形相のお姉様…ん?お姉様?莉子が映っているんだが。
「ん…?お姉様って莉子のことか?」
「そうよ…翔、今日は朝から私の可愛い可愛い妹のシーちゃんの服を買いに行こうって言ったよね?」
莉子に突っ込まれて何かを思い出す。
服…あっ…そうだやべ!
昨日の夕食で莉子と話していた。
今のシロネコが着ているピンク色の服と黒色ズボンや下着類、これは莉子の家着だったものなのだが、これと外出用の服が1セットしか残っていない。まあ中学2年の莉子の部屋から小学生の時の服が出てくるのはおかしい話なんだが…
俺が1人で服を買いに行こうにも、女性服コーナーを物色する不審者が生まれるだけだ。
そしてシロネコと一緒に回るとそれもそれで周りから見ればシスコン兄になってしまうし、女の子のファッションセンスを俺が持っているはずもなく、シロネコは元々猫なのでシロネコもどうすれば良いかはわからないだろう。
それで俺は莉子に着いてきてもらうようにお願いした。莉子は「可愛い妹のためなら」と快諾した。15時からバスケ部の練習があると言っていたから、朝から行く必要があるのだ。
「いっけね、マジですまん…今すぐ用意するわ」
シロネコが俺の上から離れてベッドを降り、俺は起き上がる。
「ご主人さま、わたしはごはんを出しますね!」
「もう作ってあるのか?」
「はい!お
お耳をぴょこんとして答える。
「そう、私の可愛い妹は天才なのよ〜」
莉子が自慢げに語る。
「すっげえ…」
物覚えが早いな…シロネコは生まれて半年くらいだって言ってたし、成長期真っ盛りなんだろうな。
そんなシロネコに驚きつつ、急いで身支度を済ませるのであった。
—————————————————————
「シロネコ…お前料理うますぎるだろ」
「えへへ、ご主人さまにそんなこと言われると照れちゃいますよ〜」
朝飯を食べ終わって今は俺とシロネコと莉子の3人でショッピングモールに向かう途中だ。
シロネコは、莉子が小学生の時に着ていた白のコートと白のニットと白のズボンなどを履いて、冬の寒さにも耐えれるような格好をしている。全部白いから照れた時の赤さが際立つ。
ニットのおかげで猫耳は隠れているし、しっぽは服の中に隠しているため、これで外出はひとまず大丈夫だ。
「シーちゃん、私よりも料理上手いかもよ?」
「いえいえ…まだまだお姉様には全く及ばないですよ〜」
莉子と婆さんは料理が趣味だ。莉子は小さい頃に、婆さんがなんでも作ってしまうところを見て料理が好きになったそうだ。母さんは料理が趣味では無いが料理の腕は高い。
俺は…どちらかというと料理は好きなんだが、なんせ手先が不器用でよく怪我をしてしまうんだよな…父さんもそうだ。
「あの味噌汁は毎日飲みたいわ」
「っっっっっっ〜〜〜!」
そんなポロッと出た俺の一言にシロネコはボン!と顔からニットで見えない猫耳までもを真っ赤にした。あれ、俺何かまずいこと言ったか?
「ご、ごしゅじんさまとけ、けっ…」
莉子が「はあ〜」とため息をつく。
「翔、あんた無自覚に昔のプロポーズのセリフを言ってるよ」
プロポーズ!?
「…そうか、シロネコは婆さんに料理を教えてもらったって言っていたな…」
純粋なシロネコに変なことを吹き込んだな、あの婆さんは!
「シロネコ落ち着け、あれは古い風習だよ。俺は純粋にお前の味噌汁が飲みたいだけだ」
「うう…ケッコンは無しですかぁ…」
シロネコの赤らめた顔が一気に冷めてしょんぼりする。
「翔…そんなこと言ってよく香奈ちゃんと付き合えたよね」
莉子も少し冷めた目で俺を見つめる。
「う、うるせーな…悪かったな良い振る舞いができなくてよ」
こういうのは苦手なんだよ!
そんな不器用な俺とともに妹と妹のような存在の3人は、手加減をする北風の朝の道を歩いて行くのであった。
—————————————————————
「ふう、やっと着いた〜」
莉子が手袋を外しながら言う。
「あったかいですね、ご主人さま」
「ああ」
ショッピングモールの中は外の厳しい北風とは打って変わって、ポカポカとして明るい。土曜日ということもあって子連れの家族が多めである。
「んじゃあ、早速シロネコの服を探すぞ!」
ショッピングモールのマップを確認して、エスカレーターを使って2階の服売り場へ向かう。
「莉子、とりあえずシロネコに合いそうなのを探してくれ。俺もなるべく似合いそうなものを探してくる」
「はーい。じゃ、シーちゃんはとりあえず私に着いてきてねー」
「はい!お姉様!」
とりあえず俺は単独行動でシロネコに合う服を探すことにした。妹に全てを任せるわけにもいかないし、俺のファッションセンスのスキルアップもしたいからだ。
そんなわけで女性服コーナーをウロチョロする俺。
探すとは言ったがシロネコに合うのってなんだろうな…
シロネコの透き通るような銀髪にはそのまま白色が合う…いや、黒色とか濃い色が似合ったりするのか…?
うーむ…
そう俺が悩んでいると—
「ねえ、あなた何してるの?」
「っ!?」
背後からの聞き覚えがある声。
小さい黒いパーカーを覗き込んでいた俺が後ろを向くと、そこには茶髪でさりげなく入る緑のメッシュ、俺を怪しむ目…
まずい!うちのクラスの学級委員、
「何って…そ、そりゃ服を探しているだけさ」
呼続がピリつく。
「女性の?あなた、この前浮気されて別れたって言われていたよね」
うぐ…把握済みか。昨日のクラスで、浮気の話についてデリカシーない奴らに詰め寄られているところを見ていたのだろう。
何がまずいか。別にシロネコの服を探しているといえば良い話だ。だが、シロネコという名前をそのまま言うわけにはいかない。それにシロネコという存在の詳細を伏せつつ、どうコイツに説明するか、これが面倒だ。
俺も学級委員で一緒に活動しているから分かるが、コイツは真面目で疑い深い性格の持ち主で、シロネコに会わせろと言うだろう。
とりあえずここは…乗り切るしかねえ!
「親戚の子と今は一緒に来ているんだ。その子は今俺の妹と行動している。俺は別行動でその子の服を探しているんだ」
「ふーん…親戚の子の服選びねえ…私にもやらせてよ」
呼続は少々興味深そうな目で俺を見ている。
…なんとなくこうなると思っていた。服を探すのが主目的ではなく、本当に俺の親戚の子が存在しているのかを探るためなのだろう。
「別にそんなことしてくれなくていいよ…お前も忙しいだろ?」
「いや私、今日は暇だわ。あなた、ずっとここら辺をウロチョロして迷っていたでしょう?私も手伝うわよ。何か良くない事情でもあるの?」
クッ…言い逃れができねえ…こうなったら仕方ない。コイツを参加させるしかない。
「いや、特にない…ご厚意に甘えて手伝ってもらうよ」
こうして、俺の中で緊迫の服選びが始まるのであった。
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