7話 妃那と天詩
気まずい空気だ、お互いヒートアップしすぎた結果互いが恥ずかしいことをわかっているこの状況、しかしそんな中でも晴矢は学んだことがある。
小さい姿の女の子に甘えるのって最高、ということだ。
小さい体で一生懸命尽くしてくれる、以前の妃那は胸がそこそこあった、晴矢にとって胸が何カップだのはどんな基準で図っているのかは分からないが、DかEくらいだろうと思っていた。
しかし今の妃那はぺったんこだ、しかし抱きしめた時晴矢はそれの良さを知ることになった。
ピッタリと体くっつく、ピッタリと体がくっつくんだ!と。
「ねぇ、どうしたの?」
じっと見つめながらそんなことばかり考えていると妃那が不思議そうな顔で問いかけてくる、もう少しで歳が開けるというのに自分は何考えてるんだと冷静になる。
結局あの後数時間イチャイチャしていた2人、初詣で神様に門前払いされても文句は言えないだろう。
「あ、明けたね……」
なんとも言えない気持ちのまま0時を迎えた2人、そんな様子がおかしくて一緒に笑ってしまう。
「今年もよろしくね」
「よろしくお願いします」
きっと本来ならばお互いに言い合うことはなかったかもしれない、どういう年越しをするかよりも誰と年を越すかということも大事だなと晴矢は感じた。
***
元日、妃那と晴矢は近くの神社へ初詣に来ていた。
参拝者の列に並びながら甘酒を飲む、妃那は甘酒が得意ではないらしく緑茶を飲んでいる。
「はるくん悪い子」
「甘酒はいいんですよ」
そんな冗談を言いながら緑茶を啜る妃那、美味しそうに顔を緩ませる、そんな時だった。
「晴矢も来てたか」
「真一か、毎年来てるしな」
「そうだね、ところで……」
真一が妃那の方視線を下ろす、妃那と真一は面識がある……正確には柳原妃那とであり、白井天詩としては初めてである。
「あ、もしかしてパジャマの子!?」
「パジャマの子……?」
「この前のパジャマ買う時にアドバイスをくれたんだよ」
妃那はおぉと思い出し真一にお礼を言う。
「はるくんと仲良くしてくれてありがとうね〜」
「は、はい……?」
明らかに年下の子がそんなことを言っていたら驚きもするだろうと晴矢は苦笑いする。
「変わった子だね?」
「まぁな」
妃那と面識はあるはず、幼なくても容姿はとてもそっくりなのだから普通疑問に思うはず、晴矢はこれが条件の一つである自分以外には柳原妃那と認識されないというものなんだと知る。
「僕も参拝のために並ぶよ、また学校で」
「あぁ」
「バイバーイ」
妃那は元気そうな真一を見てどこか安心したようだ、図書委員だった晴矢の所に良く遊びに来ていた真一は晴矢の悩みや相談をいつも聞いてくれた存在である、実際彼がよく図書室に来たのは妃那と上手くいってるか確かめるためだったのかもしれない。
「あ……」
突如、妃那ある一点をじっと見つけていた、視線の先には4人組の男子が盛り上がっている。
「そっか、いるよな……そりゃ」
晴矢の後輩にあたる人物、前向きで熱くてバスケ部の期待の新人と呼ばれていたのを覚えている。
「祐樹……」
柳原祐樹、それが彼の名前である……そして妃那の弟だ。
「今度の大会絶対優勝するぞ!」
「祐樹、任せたぞ!」
「あぁ……大丈夫、勝てるよ」
そう言いながらも自信なさげである、参拝は既に終えていたのか神社から出ようとしていたその時、祐樹の鞄から何かが落ちた。
「行ってくる!」
「ちょっ!」
妃那だということはバレない、でも祐樹は家族だったから万が一があるかもしれない、それほど一緒にだったのに認識出来ないなんてことがあるのかと、ヒヤヒヤした気持ちで眺める。
「お、落としたよ?」
妃那が祐樹の落としたものを拾い手渡す、祐樹は鞄に目をやり落としたことに気づく。
「ありがとうね」
小さく微笑みながらそう言う、妃那は何か言いたげな様子だ、しかし自分が妃那だということは決して口外できない、それにあの様子では祐樹自身目の前の女の子が妃那だということに気づいていないだろう。
「それ……可愛いね」
「そうだね……姉ちゃんから貰ったんだ」
「そっか……」
祐樹と一緒にいた友達が彼を呼び、妃那にもう一度お礼を言ってから去っていく、妃那は立ったままじっとしている。
「大丈夫ですか?」
並んでいた場所から抜けて妃那の肩に手を置き様子を伺う。
「やっぱり……わかんないよね」
喉から絞り出したような声、涙ぐんだ目を袖で拭いて晴矢手を握る。
「ごめんね、並び直しになっちゃって」
「いえ……」
何を言えばいいのか、どう慰めればいいのか、晴矢には分からなかった。
晴矢以外誰も妃那を覚えていない、柳原妃那という人物と白井天詩は別人だと……本当の意味で知った。
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