VS関東チャンピオン伊集院 後編


【1ターン目 大空 空のターン】 

 大空 空   〈ライフ 15 手札 5〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 15 手札 5〉


「――じゃあいくぜ、オレのターン、ドロー!」


 大空 空が腕を横にモーションを振ると、目の前に、ホログラム映像のカードが1枚出現した。

 開いた手で、目の前に浮かぶ『ホログラム映像の手札』に触れる。


「オレは、リボーンスライムを召喚!」


 触れたカードは光となり、矢のように空の前に放たれ、光の中から、紫色のスライムがあらわれた。


【リボーンスライム レベル1 属性 水 種族 スライム族 】


【ルール】1ターンに一度だけ、手札からモンスターを召喚できる。


「あれは、ボクのお気に入りのモンスター!」


 自らのモンスターの出現に喜んだ。


「フっ。クズモンスターか」


 見下すように伊集院は一瞥した。


「最初のターンは、たしか攻撃できなかったよな。じゃあ、オレのターンは終了だ」


 ターンを移した空を、闘技場の外から真琴がハラハラとして見守っていた。


(そ、空くん……大丈夫かな……? 関東最強相手に……3年間もブランクがあるのに……。でも、空くんならきっと……ううん、絶対に大丈夫、うん!)


 熱い眼差しを友人に送った。


【2ターン目 伊集院 一郎のターン】 

 大空 空   〈ライフ 15 手札 5〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 15 手札 5〉


「――僕のターン、ドロー」


 腕を組み伊集院は、音声認識でカードをドローする。

 目の前に、ホログラム映像の手札が1枚出現し、人差し指で触れる。


「 僕は呪文、《紅蓮地獄》発動 」


【ルール】『呪文カード』はいつでも自由に発動できる。


 閃光とともに触れていたカードが消失し、闘技場の中央から炎が湧き出る。


「この呪文は、お互いのプレイヤーに2ポイントのダメージをあたえる」


 豪炎の波が2人を襲う。


 ゴ ア ア アアアァァァァァァァッ! 


 2人は飲み込まれ、2ポイントのダメージを受け、ライフ【13】となった。

 続けざまに手札に触れる。


「――さらに呪文、《未来予知》を発動。 この呪文はバトル以外でダメージを受けたとき、カードを1枚ドローし、その後デッキの上から4枚のカードをめくり確認できる」


《未来予知》の効果で、手札にカードが1枚加わり、目の前に、等身大のホログラムカードが4枚出現する。それをじっくりと眺めたあと右手を振り、4枚のカードをかき消した。


「――予言してあげよう。このカードバトル、僕が10ターン以内に勝つことをね」


「なッ! よ、預言者じゃあるまいし……!」


 動揺する真琴を笑いつける。


「フフフっ。関東チャンピオンをあまり舐めない方がいい」

 

「じゃあ、オレも予言……いや、決意かな」


 拳を突き出し宣言する。


「おまえを、絶対にブッたおす!」


「フっ。その予言、100パーセント外れだね」


 伊集院は5枚の手札の内の1枚に触れる。


「僕は、骸骨剣士ラースを召喚する」


 伊集院のフィールドに、腕のない骸骨の化け物が出現した。


【 骸骨剣士ラース レベル1 属性 土 種族 アンデット族 】


「いけ、骸骨剣士ラース。 リボーンスライムを攻撃……」


 腕を組んで攻撃指示をくだすと、レベル1の骸骨剣士ラースは、同じレベ1のリボーンスライムに突撃する。


【ルール】モンスターは1ターンに一度だけ攻撃することができる。 相手フィールドにモンスターがいない場合、相手プレイヤーに『直接攻撃』ができる。


「――レベル1同士でバトル! 合い打ち狙い?」


 真琴の判断を否定する


「そんなわけないだろう、クズとさァ! 骸骨剣士ラースの【モンスタースキル】発動! 骸骨剣士ラースはバトルをするとき、サイコロを一つ振る。 そして『出た目の数×2』レベルを上昇させる」

 

【モンスタースキル】とは、モンスターが持つ固有の能力である。

 

 発動とともに上空に、30cmほどのホログラムのサイコロが出現した。


 それが空と伊集院の間にストンと落ち、コロコロと転がり『6』の目が出た。


「 出た目の数は6。 骸骨剣士ラースのレベルは13に上昇 」


 腕のない骸骨剣士ラースに、6本の骨の腕がメキメキと生え、すべての手には無骨な剣が握られている。


 握られた6本の剣が、リボーンスライムに振り落とされる。


骸骨連剣ボーンラッシュ! 」


 ズ バ バ バ バ バァ ァ ―――ッ!


「リボーンスライムを破壊……!」


 バラバラにされた瞬間、リボーンスライムの隠された力を発現させる。


「リボーンスライムのモンスタースキル発動! リボーンスライムは破壊されたとき、1ターンに1度 再生できる」


 ぐにゅぐにゅとくっつき、完全な形で再生された。

 伊集院は チッと舌打ちして。


「……僕のターンは終了だよ」


【ルール】

 ターンは構成は

 ①ドローフェイズ

 ②召喚フェイズ 

 ③バトルフェイズ

 バトルフェイズ終了後、自動で相手にターンが移る。


「すごい、空くん! もう、ボクのカードを使いこなしてる!」


 友人のプレイングに真琴は心を高ぶらせた。


【3ターン目 大空 空のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 5〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 4〉


「オレのターンだ、ドロー! オレは、レッドスライムを召喚……!」


 空のフィールドに、赤いスライムが召喚された。


【 レッドスライム レベル5 属性 火 種族 スライム族 】


「――そして、フィールドに存在する、リボーンスライムとレッドスライムを合体させる……!」


 2体のスライムがくっつき、1体の巨大なスライムへと生まれ変わる。


「ビッグバーンスライムを合体召喚……!」


【 ビッグバーンスライム レベル9 属性 水 種族 スライム族 】

{合体条件 スライム族モンスター×2}


【合体】とは、自分のフィールドに存在する、2体以上のモンスターを墓地に送ることによって、1体の新たなるモンスターを生み出すゲームシステムである。


「ビッグバーンスライムで、骸骨剣士ラースを攻撃!」


 巨体を縮めてビッグバーンスライムは、バネのように反動で空中に飛び上がり、骸骨剣士ラースに向かって急速に落下する。


大軟体落としビッグバーンプレス!」


 攻撃が当たる寸前――


「骸骨剣士ラースのモンスタースキル発動! 骸骨剣士ラースはバトルするとき、サイコロを一つ振る。その出た目の数×2、レベルを上昇させる」


 巨大なサイコロがコロコロと転がり、出た目の数は『3』。


 骸骨剣士ラースのレベルは 1から7に上昇した。だが、ビッグバーンスライムのレベルは9。


 このバトルの結末は――


「骸骨剣士ラースを破壊……!」


 押し潰されて墓地に送られた。


「やったー!」


 真琴は喜び、ぴょんと飛び跳ねた。


「フン。これくらいで喜んでんじゃねェーよ。 僕は呪文、《アンデッド復活》を発動。 アンデッド族モンスターが破壊されたとき、破壊されたモンスターを墓地から召喚する」


 呪文効果により闘技場の床から、破壊された骸骨剣士ラースが、墓穴から這い出るように現れた。

 悔しさをあらわに真琴は地団駄を踏む。


「ああっ! せっかく倒したと思ったのにィ!」


「オレのターンは終了だ」


 苦戦を楽しむかのように大空 空は笑っていた。


【4ターン目 伊集院 一郎のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 5〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 3〉


「僕のターン、ドロー。僕はファイアーダークヒーローを召喚」


 伊集院のフィールドに、炎を纏った邪悪なヒーローが出現した。


【 ファイアーダークヒーロー レベル4 属性 火 種族 魔人族 】


「――そして、ファイアーダークヒーローのモンスタースキル発動。 ファイアーダークヒーローは、自分のフィールドにレベル1のモンスターが存在するかぎり、そのレベルを永続的に10にすることができる」


 レベル1の骸骨剣士ラースがいることによって、常にレベル10に固定されるのだ。


「レベル10のファイアーダークヒーローで、レベル9のビッグバーンスライムを攻撃」


 地面を蹴り飛び上がった。そして全身に纏った炎を拳に集中させて射出する。


「炎拳(ファイアーナックル)!」


 ―――ズ ガ ッ!


 巨大な炎の固まりに殴られ、ビッグバーンスライムは押し潰されて燃え上がった。


「――ビッグバーンスライムを破壊……!」


「…………」


 沈黙する空の姿に、伊集院は優越感に浸った顔で笑う。


「どうしたんだい、黙り込んで? 僕の強さに恐怖したかい? 関東チャンピオンである僕に戦いを挑んだことを後悔してるのかい? サレンダーするなら許してやっても……」


「……楽しい……」


「へっ?」


 両手を高く広げて大空 空は―――


「 たのしいぃぃ――――っ! 」


 無邪気に子供っぽく笑った。


「やっぱ、モンスタートランプはめちゃめちゃ楽しいな! 日本に帰ってきてよかったぁ!」


 脳天気な空の発言に、伊集院は顔が怒りで歪む。


「さあ、ここからが本番だぜ、関東チャンピオン! オレは破壊されたビッグバーンスライムのモンスタースキル発動! 破壊されたとき、デッキからスライム1体を手札に加える。 オレは、ペルソナスライムを手札に加えるぜ」


 燃え上がるビッグバーンスライムが光輝き、1枚のモンスターカードへと姿を変え、空の手札に加わった。


「……空くん……すごく楽しそう……」


 真琴が闘技場の外からつぶやくと、隣にいる前田 マサルは「チッ」と舌打ちし。


「わかっているのかねぇ、転校生の奴……。このカードバトルに、このバトルドームの運命がかかっていることを……。もっと切羽詰まってやりやがれェ………だが……」


 マサルはニヤリと笑い。


「――きっと、アレがあいつにとって……」


 真琴は瞳を輝かせ――


「そうです! 空くんはきっと、楽しめば楽しむほど、その強さを発揮するんです! だって空くんを見ているだけで、なんかワクワクしますもの!」


 2人の後ろで店長 御堂 剣矢は、空を見つめて思いをはせていた。


(……やはり似ているな……彼は……『彰人』に……)


 不快感をあらわに伊集院は言い放つ。


「……その余裕の表情を、すぐに絶望と後悔と涙で塗りつぶしてあげるよ! 僕は残りの骸骨剣士ラースで、ガラ空きになった相手プレイヤーを直接攻撃……」


 主の命令により骸骨剣士ラースが、モンスターのいない大空 空に向かって駆け出した。


骸骨連剣ボーンラッシュ!」


 サイコロがコロコロと転がり、出た目の数は『6』。


「ま、また6ッ!」


 運命のいたずらに真琴は天を恨む。


「骸骨剣士ラースのレベルは、1 3 に上昇!」


 極限まで力を上げた骸骨剣士ラースの6本の腕による剣撃が、空に迫る。


「ああっ! この攻撃がヒットしたら、ライフ【13】の空くんは、ライフ【0】になって負けちゃいます!」


「――終わりだァ!」


 勝利を確信した瞬間――


「まだまだァ、呪文 《スライムバリヤー》!」


 空の周りをウネウネと、スライム状のネバネバが覆っていく。


「手札のスライムモンスター1体を墓地に送ることによって、あらゆるダメージを一度だけ無効にする!」


 ネバネバが一気に硬質化し、襲いくる6本の骨剣をすべてはじき飛ばした。

 

「ふぅー……。助かったぁ……」


 真琴は息をつき安堵した。


「……しつこい奴め……」


 イラ立つ伊集院につげる。


「……そういえば……」


「ん?」


「関東最強のあんたに勝てば、『オレが関東最強』ってことになるな」


「……ッ!」


 脳天気な発言に、伊集院の顔が怒りで歪む。


「――いい気になるなよォ、このドクズがァ! いいだろう、そこの負け犬以上に みっともなく負かして、【2度とモンスタートランプができなく】してやるよォ!」


 あははっと空は笑った。


「それはないない。だってオレ、モンスタートランプが大好きだから」


「~~~~ッ!」


 さらなる能天気な発言に、伊集院の顔がさらに怒り歪む。


「さすが空くん! よくわかんないけど、なんか凄い!」


「スライムバリヤーによって墓地に送った、ペルソナスライムのモンスタースキル発動! ペルソナスライムは手札から墓地に送られたとき、墓地から召喚することができる!」


 空のフィールドに、仮面をかぶったスライムが出現した。


【 ペルソナスライム レべル1 属性 水 種族 スライム族 】


「フン、浅い戦法を。僕のターンは終了だよ」


【5ターン目 大空 空のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 4〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 3〉


「オレのターン、ドロー! オレは『ダブル召喚』を使うぜ!」


「ダブル召喚!」


 真琴はそれに反応する。


(――1ターンに1度しか できない手札からの召喚を、2体同時に召喚するゲームシステム。でも使う場合、【次の自分のターンまで呪文を使用してはいけない】。便利だけど、ピンチの時に呪文が使えなくなってしまう諸刃のつるぎ。ボクもこれをやってよく負ける……)


 空が両手で2枚のホログラム映像の手札に触れると、光となって放たれる。


「オレは、ピーススライムとスラサムライの2体をダブル召喚! そして、フィールドにいるペルソナスライムと合わせて3体合体!」


 主の命令によって3体のスライムがくっつき、1つとなる。


「スライムハンター ロビンフッドを合体召喚!」


 狩人の帽子をかぶったスライムがこの世界に誕生した。


【 スライムハンター ロビンフッド レベル10 属性 風 種族 スライム族 】

 {合体条件 3体のスライム族モンスター}


「そして、スライムハンター ロビンフッドのモンスタースキル発動! ロビンフッドはこのターン攻撃しないかわりに、レベル4以下のモンスター1体を破壊する」


 スライムボディーが巨大な弓に変化した。


「スライムハンター ロビンフッド、急所四連矢ピンポイントフォースショット!」

 

 引き絞られた4本の矢が、骸骨剣士ラースを――ズガガガン――と貫いた。


「レベル1の骸骨剣士ラースを破壊! そして、このモンスタースキルで破壊したモンスターのレベル分だけ、相手プレイヤーにダメージをあたえる!」 


「ぐっ!」


 骸骨剣士ラースのレベル分のダメージ1を受け、伊集院のライフ【12】となった。


「チッ。僕は呪文、《ライフコントロール》を発動。 この呪文はバトル以外でダメージを受けたとき、デッキからカードを1枚ドローし、1から3の間、好きなライフを回復できる。 僕は【1】を選択する」


 伊集院のライフが【13】に回復した。

 関東チャンピオンのプレイングに、真琴は疑問を抱く。


(えっ? なんで1? 3まで回復できるなら、3を選べばいいのに……プレイミス?)


「オレのターンは終了だ」


【6ターン目 伊集院 一郎のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 3〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 3〉


「僕のターン、ドロー」


 音声認識でカードをドローし、目の前に現れた呪文カード 《滅死の宣言》を見て ほくそ笑む。


「……ふふふっ。これで、僕の勝利は確定した。 僕は、骨魔人を召喚」


 伊集院のフィールドに、分厚い骨の骸骨モンスターが出現した。


「――そしてフィールドにいる、火属性のファイアーダークヒーローと、アンデット族の骨魔人を合体させる」


 2体のモンスターがひとつとなり、1体のモンスターへと姿を変える。


「――現れよ、僕の最凶モンスター、死神王 デスライフ13ッ!」


 黒い巨大な鎌を持つ、炎を纏った死神が、この世界に顕現した。


【 死神王 デスライフ13 レベル13 属性 火 種族 アンデット族 】

{合体条件1 アンデット族モンスター1体と火属性のモンスター1体}{合体条件2 ????}


 圧倒的プレッシャーに真琴はわなないた。


「れ、レベル13……! つ、強い……!」


「フフフっ。このモンスターの強さはレベルだけじゃないよ。ま、いずれわかるかもね、真の恐怖の力が。このモンスターを倒すことができればだけどね」


 余裕の関東チャンピオンに、大空 空は死神王 デスライフ13を指差した。


「――そのモンスター、あんたの残りライフ【13】に関係してるのか?」


「ほう、気づいたか。こいつにはある無敵の力が備わっていてね。だが気難しくて、残りライフ【13】のときにしか召喚できないのだよ」


「――そうか!」


 真琴はさきほどの伊集院のプレイングについての疑問が解けた。


「だからあのとき、ライフを【1】ポイントしか回復させなかったのか……!」


 何故、ライフを【1】しか回復させなかったのか? 

 それはすべて、この強力なモンスターを合体召喚させる布石だったのだ。


「僕は死神王 デスライフ13で、スライムハンター ロビンフッドを攻撃……!」


 死神王デスライフ13の身体が炎に包まれて消えた――瞬間、スライムハンター ロビンフッドの背後に炎がゆらめき、形となり、死神王 デスライフ13へと姿を変えた。

 そして手に持つ巨大な黒い鎌を振り上げ、ロビンフッドめがけて振り下ろす。


死喰いデスシザーズ!」


 黒い鎌の先端がパクっと開き、まるで猛獣のような巨大な口に変化し、ガブリと噛みついた。

 バリバリと噛み砕かれ――


 ――ごっくん。


「スライムハンター ロビンフッドを喰いちぎり破壊! フっ、僕のターンは終了だよ」


【7ターン目 大空 空のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 3〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 3〉


「オレのターン、ドロー! 呪文、《スライムキャノン》発動!」


 巨大な大砲がフィールドに出現した。


「手札のスライムモンスター1体を墓地に送ることによって、相手モンスター1体を破壊する。 オレは手札のストライクスライムを墓地に送り、スライムキャノンに砲弾装填――」


 呪文コストによって墓地に送られたモンスターが、ガシャンと大砲に装填された。


「――狙いは、死神王 デスライフ13!」


 スライムキャノンの砲身が、死神王 デスライフ13に向けられ――


「 発射――――ッ! 」


   ボ ゴ ン ッッ!


 スライムキャノンの一撃が、死神王 デスライフ13を木っ端みじんに爆砕した。


「死神王 デスライフ13を破壊……!」


「やったぁ!」


 真琴は喜び、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 強敵を撃破したことにより、闘技場の外にいるモンスタープレイヤー達は湧きたった。だが伊集院はそれを冷ややかな瞳で見ていた。


「フン。 破壊された 死神デスライフ13のモンスタースキル発動。 このモンスターは破壊されたとき、手札を1枚墓地に送ることによって、【再生】させることができる」


「さ、再生ェ! レベル13の上に、再生能力まであるなんて……! そんなのずるいよ……」


 真琴が驚愕するなか、伊集院が手札を1枚墓地に送ると、木っ端みじんになった死神王デスライフ13がみるみると再生されていく。


「フハハハハハッ! これがこのモンスターの真の恐怖の力だァ! 不死身、最強、無敵! 究極のゾンビモンスターだァ! どうだ、敗北を悟り恐怖したか? 貴様にはもう勝ち目はないぞ!」


 勝ち誇る傲慢なる者に、微笑みをたずさえたままつげる。


「いんや、まったく」


「フハハハハッ、強がりおってからに! じゃあ、これで終わりにしようか! 呪文、《滅死の宣言》発動ォ!」 


 死神王 デスライフ13の身体から【黒い霧】が発生して闘技場を覆っていく。


「この呪文は、死神王デスライフ13が破壊されたとき発動できる。 この呪文が発動されて3ターンが経過したとき、強制的にこのバトル、『僕の勝ち』となる!」


「――なァ! じゃ、じゃあ……3ターン後に空くんは……」


「そう。つまりは、最初に予言したとうり10ターン以内に僕が勝つということだよ、ゴミクズくん。 どうだい、死の運命が決定した気分は? さすがにもう恐怖してきただろう?」


 嬉しそうに大空 空は拳を突き出した。


「いんや、逆。ワクワクしてきた。 その死の運命を絶対ブっ壊す!」


「やれやれだよ。これだから頭の緩い奴は……。状況も理解できないほどパァーのようだ」


「じゃあオレは、カードダスライムを召喚して、ターン終了だ」


 カードの形をしたスライムがフィールドに出現した。


【 カードダスライム レベル2 属性 水 種族 スライム族 】


【8ターン目 伊集院 一郎のターン】 

 大空 空   〈ライフ 13 手札 2〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 1〉


 ターンが進み、伊集院は悪意のこもった笑み浮かべた。


「クククッ。これで1ターンが経過したぞ……。あと2ターンが経過したとき、僕の勝ちが決まる。じわじわじわじわ、恐怖と絶望と後悔を君にあたえてあげよう……。そして僕に負け、デッキを奪われた時の 君の情けない顔を早く見てみたいよ……クククッ」


 邪悪な微笑みに、周りで観戦していたモンスタープレイヤー達に戦慄が走る。


「――さあ、8ターン目だ。 僕のターン、ドロー。 さあいけッ、死神王 デスライフ13! カードダスライムを攻撃! 死喰いデスシザーズ!」

 

 ガ ブ リ ッ !

 

 カードダスライムは、死神王デスライフ13の黒い鎌にバリバリ噛み砕かれ、ぺろりと食べられた。


「カードダスライムを破壊!」


 破壊されたカードダスライムは、黒い鎌の中で輝いた。


「カードダスライムは破壊されたとき、カードを1枚ドローできる」


 黒い鎌から光があふれ、カードに変わり空の手札に加わった。


「フっ。僕のターンは終了だよ」


【9ターン目 大空 空のターン】 

 大空 空   〈ライフ 12 手札 3〉 

 伊集院 一郎 〈ライフ 13 手札 2〉


 勝利の足音の近づきに、伊集院は愉悦に笑う。


「クククッ。これで2ターンが経過したぞ。 そして次の君のターンが終われば、呪文 《滅死の宣言》の効果によって君の負けが決まる……フっ……フ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハッ! 恐怖しろォ! 絶望しろォ! みじめにあらがいのたうち回れェ! 君の無様な負けっぷりを、僕の記憶に永遠に留めてあげよう!」


 醜い本性を剥き出しにする傲慢なる者に、余裕の態度でつげる。


「そういう台詞は、勝ってから言ったほうがいいぜ」


「なら問題ない。もう終わっている。貴様の負けだ!」


 闘技場の外で見守っていた真琴は胸中に不安を渦巻かせていた。


(……こ、これでこのターン、空くんが伊集院君を倒せなかったら……)


「――真琴!」


「は、はいィ!」


 突然 声をかけられ うわずった返事をした。

 背中を向けたまま言い放つ。


「信じろ! おまえのデッキと、みんなのカードと、オレを!」


「はい!」


 真琴の心に勇気と希望が満ちあふれた。

 そして胸の前でぎゅっと拳を握り。


(うん! 空くんみたいに、ボクも最後まであきらめない!)


「オレのターン、ドロー!」


 最後のカードを勢いよく引いた。

 目の前に現れたホログラム映像のカードを目にし、そのカードに触れる。


「オレは、レジェンドオブナイトを召喚!」


 空の前に光が放たれ、白銀の甲冑と仮面を付けた『伝説の騎士』が降誕した。


【 レジェンドオブナイト レベル15 属性 光 種族 ナイト族 】

 

「このモンスターは自分の墓地に、火属性、水属性、風属性、土属性のモンスターがすべて揃っているときに召喚できる」


「れ、レベル15! 死神王 デスライフ13のレベルを上回った! さすが伝説のカード……!」


「レジェンドオブナイト、アルティメットスキルを発動!」


 究極の力を発現しようとした時、伊集院はニヤリと。


「フハハハハハっ! スキル発動前に、呪文 《騎士殺しの爆剣》を発動! この呪文は、ナイト系モンスターのあらゆる能力を無効にして破壊する! たとえそれが、伝説のカードだとしてもなァ!」


 放たれた短剣が、レジェンドオブナイトの胸に突き刺さり、アルティメットスキルが無効化された。

 刺さった短剣が紅く輝き、レジェンドオブナイトの身体が大爆発した。


「……そ、そんなぁ……空くんの伝説のカードが、こんなあっさりと……」


「そのカードが最初からデッキに入っていることは わかっていたからね。その対抗カードを事前にデッキに入れておいたのさァ! フハハハハハハハっ! パーフェクト! ミッションコンプリート! これで僕の勝ちが決まっ――んっ!」


 勝ち誇る伊集院が眼をこらすと、爆炎が収まり、煙の中から4体のスライムがあらわれた。

 空が呪文を発動させていたのだ。


「呪文、《スライムヒーローパーティ》。 レベル13以上のモンスターが破壊されたとき、デッキからレベル1のスライムを4体召喚できる」


「なッ、なんだとォ、レジェンドオブナイトを……! 伝説のカードを囮にしただと……!」


「空くんは最初からこれを狙っていたんだ……すごい!」


「――最後の呪文だ! 《自由の翼アルカンシェル》!」


 発動とともに、大空 空の背中に白い翼が創り出された。


「この呪文は、手札の『フリーダムドラゴン』と、フィールドのモンスターを合体させることができる」


 背中の白い翼が光輝いた。


「――出てこい! 空駆ける自由をつかさどる竜、フリーダムドラゴン!」


 呪文効果によって、手札からフリーダムドラゴンがフィールドに召喚された。


【 フリーダムドラゴン レベル7 風 ドラゴン族 】


 優雅に羽ばたく空竜の姿に、真琴はうっとりと見惚れた。


「……空駆ける、自由をつかさどる竜……。空くんらしいドラゴンです……」


 ――戦いも終わりを迎えようとしていた時、1人の少女がドーム内に足を踏み入れた。

 長い銀髪をなびかせ少女は、フリーダムドラゴンと大空 空に姿に瞳を奪われる。


「――あ、あれは……!」


 フリーダムドラゴンが発する自由の誓いフリーダムオーラによって、4体のスライムの背中に白い翼が創られた。

 5体のモンスターは羽ばたき、空中で一つとなる。


「フリーダムゴッドドラゴンを合体召喚……!」


 金色の閃光とともに、この世界に、黄金の究極竜が顕現した。


【 フリーダムゴッドドラゴン レベル20 属性 光 種族 ドラゴン族 】

{合体条件 フリーダムドラゴンと火風土水の4属性のモンスター}


 神々しい姿に真琴は心を奪われた。


「す、すごい! すごいよぉ!」


「――このモンスターが相手モンスターを破壊したとき、相手に20ポイントのダメージをあたえる!」


「なァにィ!」


 つげられた超絶効果に、伊集院は絶句する。


「これなら、再生能力も意味がない! いけぇ、空くん!」


 黄金の究極竜がギロリと、怯える愚者を睨む。


「ひぃぃっ!」


「これがおまえがクズとバカにした、カード達が集まった力だ!」


 フリーダムゴッドドラゴンは開いた口に、黄金のエネルギーを凝縮させ―――


永遠の輪廻エターナルゴッドハデス! 」

  

 伊集院に向かって超絶黄金ブレスが放たれた。


「 ひいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ! 」


 死神王デスライフ13は苦し紛れに闇の波動を飛ばすが、黄金ブレスによってかき消され―――


「 ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ! 」


 大直撃――。


 金色の爆光が闘技場を飲み込んだ。


 ――光が徐々に収まり、呆然と立ち尽くす伊集院だけが残った。


 20ポイントのダメージを受けて、ライフ【0】となった。


《 勝者 大空 空 選手! 》


 アナウンスされた瞬間 ドーム内にいるすべてのモンスタープレイヤー達は湧き立った。


「よしっ、勝った!」


 大空 空は両手を握りしめ、ガッツポーズを決めた。

 ガクっと膝をつき伊集院は、ガクガクと全身を震わせた――。


「あっ、あっ、あっ……。こ、この僕が……。こ、この関東チャンピオンの……こ、この僕が……ま、負けたぁ……」


 敗北に打ちのめされている伊集院に、大空 空はさわやかな笑顔で握手を求めた。


「いいカードバトルだったな、伊集院。またやろうぜ。今度は何も賭けず、楽しくさ」


 だがその言葉は、負けたことによるショックで伊集院には ほとんど届いてはいなかった。


「あううぅっ……」


 白目を剥き、口から泡を吹き出して後ろに倒れ込んだ。


「……パパに……いいつけてやるぅ……」


 最後に情けない言葉を漏らしてズボンに黄色い染みを作った。

 それを見た、闘技場の外にいた黒スーツのボディーガード2人は伊集院に駆けよった。


「お、お坊っちゃま!」


「バトルドームと、始まりのカードを奪えなかったショックで気絶している……!」


「おい、お坊っちゃまを運べ! おまえが足の方を持てェ」


「い、嫌だァ、おまえが足の方を持て!」


 2人は言い争い、結局 両側から肩を支えて伊集院をバトルドームの外に運び出した。その場には、奪った99個のデッキが入ったアタッシュケースが残された。


「そ、空くん……」


 真琴は喜びのあまり全身を震わせ――


「 やったああああ! 」


 勢いよく飛びついた。


「 勝った、勝った、勝った、やった――――――――ッ!」


 ぎゅうぅっと抱きついていると、空は体勢を崩して大の字で倒れ込んだ。


「ど、どうしたんですか、空くん? どこか怪我でも?」


 心配そうにたずねると。


「楽しかった」


「へっ?」


「楽しすぎて目まいがした」


 大空 空は大満足に笑った。



 ――さまざまな想いが交錯するなか、1人だけ大空 空に対して特別な感情を抱く者がいた。  


 それは、さきほどドーム内に足を踏み入れた銀髪の少女であった。


 少女は壁に寄りかかり、大の字で寝転がる空を、優しい笑顔で見つめていた。


「ふふふっ、とうとう見つけた……。私の運命の……ふふふっ」


 銀髪をなびかせて少女はバトルドームから去っていった。

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トレーディングカードゲーム『モンスタートランプ』―最強への道― 佐藤ゆう @coco7

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