「愛してる」と言える幸せ

 十一歳という歳の差は、意外と大きいと後になって痛感した。付き合った当初は学生である君に手を出すことに怯えていたが、今となってはこんな冴えない男が君の隣にいてもいいのだろうかと悩んでしまうことも暫しだった。


「それは僕も同様だよ。この悩みは一生抱えていくことになるんだろうね」


 そう言って苦笑を浮かべるのは、妻の同級生と結婚した同僚だった。だが、自分よりも年下である彼は、僕よりも若干救われているはずだ。


 一歳でも若返りたい——……できることなら彼女と同世代に生まれたかった。


 だが、こんな僕を丸ごと受け入れて愛してくれた彼女に対して失礼に当たるのではないかと思って、この苦悩は伝えずに胸の内に秘めたままだった(ただし、同僚に愚痴ったことだけは大目に見てほしい)


 けれど、仮に生まれ変わることができたとしても、僕らは同じシチュエーションを望むのだろう。

 結局はどうしようもないことを悔やむよりも、幸せを伝えるしかないのだ。


 ——とはいえ、仕事を終えて帰ってきた僕を満面の笑みで迎えてくれる娘達と妻。ギュッと抱き締めた時に伝わってくる温かさは何者にも代え難い幸福が詰まっている。


「お帰りなさい、あなた」

「ただいま。あぁ、君の顔を見るだけで疲れが飛んでいくよ」


 はにかんだ笑みを浮かべながら、照れたように頬を赤る彼女が溜まらなく愛しい。


 あぁ、もうどうしようもない自分が情けない。



【 愚かな主人公の戯言 】


「幸せだからこそ溢れる惚気……。くっ、リア充め。爆発しろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この黄昏の中で、君だけを見ていた 仲村アオ @nakamu-1224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ