第2話 入学式の日

 学校が近くになるにつれ、桜の木が立ち並んでいる。斜め上を見ると視界は真っピンクだ。

 俺は自転車を漕いで落ちてくる、花びらを見てあの頃が無性に恋しくなる。二年前の頃を。

 あの頃に見た桜はどの桜よりも美しく立派だった。ちょっとした入り組んだ丘の上に立っていて、少しの人しか知らないお花見スポットだった。

 俺はある人と二人で来ていた。

 明るめの茶色の髪を結って、青色の綺麗な水晶のついたかんざしをつけて、綺麗な淡い紫色の派手すぎない着物、白い羽織を身に纏った俺と同じぐらいの少女と。

 あの時の記憶は今でもとても輝いていた。そんな記憶なのに所々、俺は忘れてしまっていることがあるのだ。

 桜を見に行ったあのあと、また違う花を見に行ったが何を見たのかは覚えていないのだ。モヤがかかったように。

 けれど、無理に思い出そうとしても意味はないのだろう。思い出しても苦しくなるだけだろうから。


 俺はあの人を思い出すだけで胸がギューっと掴まれたように痛み出すのだった。


 ◇◆◇


 俺は自転車を駐輪場に置いてきて、校舎へと向かう。

 校舎で靴から真っ白い、ピッカピカの新品の上履きに履き替えて指定されたクラスへと向かう。

 下駄箱の近くには俺と同じ真新しい制服を着た、同級生になるであろう人たちが大勢いた。

 すでにコミ力が高い人は友達と呼べるくらいまで、相手と仲良くなっていた。


 ……うん。俺には無理な芸当だな。


 中学校の頃に俺は全然仲良くなれる人はいなかった。というか、誰一人いなかった。なので少しそんなことができる人を密かに尊敬している。


 昔はできていたはずなんだけどな……。


 その光景を眺めながら俺は教室へ向かう。

 クラスは一年二組。この学校は一学年に五クラスぐらいあるらしく、人が多いところにはクラスっていっぱいあるんだと改めて実感する。

 俺は小学生の頃、田舎で祖父母と暮らしていたのでクラスは二クラスしかなかった。そのため、珍しく中学生の時はキョロキョロしていたのだ。

 二階に上がり、一年二組の教室の前まで来て前ではなく、後ろの引き戸から入る。


 ガラガラガラガラ


 学校にある引き戸のでしかあまり聞かない、独特の音が鳴る。


 この音を聞くと教室に入ったって感じがするのは何故だろうか……。


 不思議な疑問を持ちつつ、俺は指定されている席に向かう。

 窓側の一番後ろのよく、数々のアニメや漫画や小説に出てくる主人公達が座ってきた席……ではなく、その前の後ろから二番目の席だった。


 まぁ、前以外ならどこでもいいけれど。


 俺は席について、周りを見渡す。

 見渡す限り人、人、人ばかり。もう、グループを作っている人が大勢いた。


 なぜ、入学式の日にグループが作られているのか。高校生(俺もだが)、そのコミ力はなぜ高いのか。その他諸々もろもろ……。ほんっとうに謎だらけだな。


 俺はそんなことを思いながら、頬杖をついて教室を眺めたのだった。

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