壱章 化けの皮を被る

第1話 祖父母

 四月八日。今日は俺の高校の入学式だ。

 俺は真新しい制服に身を包んでいる。

 制服は紺色のブレザー、白いワイシャツに赤と白のネクタイ。そして黒のズボン。だが、俺はこれだけだと春先は少し寒いので、ワイシャツの上にクリーム色のパーカーを着ている。

 俺は部屋にある姿見を見て、代わり映えしないなと思う。

 俺の見た目はとても古典的な教室の隅でいる陰キャみたいだ。


 まぁ、陰キャだけれど。


 前髪は右目の鏡のような不思議な瞳を隠す為に伸ばしていて、それだと前が見えない。そのため、左側の前髪は髪留めピンで留めている。

 俺の髪は六年前の黒髪ではなく、白に近いグレーになってしまっている。このせいで物凄い先生に染めていると勘違いされる始末。


 地毛なのに。


 色々あって目も髪もこのように変わり果ててしまったからなのに。

 耳には数珠についているぼう頭付かしらつき房を模したピアスが付ている。これは俺にとって必要不可欠のため、学校で禁止だとしても付けている。

 校則違反するのは少し心が痛むが。

 こんなに色々と不思議だが、見た目で一番摩訶不思議なのは体だ。見た目は十三歳の中学一年生にしか見えなくて、試験を受ける時は大変なものだった。

 俺はスクールバッグを背負い、少し早いが一階に降りて玄関へ向かう。

 普段使いしている、汚れがところどころにある白いスニーカーを履く。


「よし!」


 俺は立ち上がって玄関のドアを開ける。

 しっかりと施錠して、ドアが開いていないか確認する。

 ドアが開いていないことを確認して、玄関の近くに停めている黒色の自転車に鍵をさしてスタンドを蹴る。俺はサドルに跨り、ゆっくりとペダルを踏んで学校へ向かう途中にある、ある所に向かって走り出す。

 学校に着く時間は約三十分くらいで、遠くも近くもない距離。なのでさっきから向かっているところは、学校の半分ぐらいなので十五分くらいで着くのだ。

 俺は安全運転でぐんぐんとスピードを出しながら進む。

 まだ少し冷たい風を頬に感じるが日が照っているので、我慢できない寒さでもない。パーカー着ているからかもしれないけれど。

 今、自転車で走っているところは色んな家や店が立ち並ぶ道だが、すぐ道を曲がると面積のとても広い神社と寺が建っていて、その隣には墓地がある。そこには俺を育ててくれた祖父母の墓がある。

 俺の目的地は墓地で祖父母の墓参りである。

 自転車から降りて祖父母の名前が彫られている墓石にスクールバッグから取り出した、掃除用具を持って向かう。

 祖父母の墓石の前に辿り着くと、まず綺麗に掃除して次に線香をつけ、一輪の花を添えた。

 今の時期に咲く鈴蘭を。毒を持つ植物だが綺麗で祖父母が好きだった花だ。ちなみに祖父母に尋ねると俺の母は桔梗ききょうが好きだったらしい。


 桔梗は紫色の綺麗な花で俺も好きな花だ。昔は桔梗はそこまで好きではなかったけれど。


 俺は墓石の前でしゃがみ、手を合わせる。


「じいちゃん、ばあちゃん、は元気でやってるよ。安心して欲しい。最近は——」


 祖父母に聞こえているかはわからないが、俺は祖父母の墓石に向かって、最近起きたことを話した。祖父母に安心して欲しいため。

 だが、こうしている間にも時間は過ぎていく。そのため、そろそろ学校に向かわなければいけない。


「じゃあ、そろそろ行くよ、じいちゃん、ばあちゃん。またくるよ」


 俺はゆっくりと立ち上がり、墓地から出る。

 そばに停めておいた自転車に跨り、ペダルを蹴って学校へ向かった。

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