第24話 孤島
「これサソリ……?」
「うん。おいしいよ。貧民街ではおやつだった」
「そう、なのか……。こんなものを食べないと生きていけないのか」
「少しは貧民街のことを知りたくなった?」
「ああ。まあな」
自分の発言を悔いたのか、顔を背けるレイク。
わたしが隣でサソリの毒腺を剥ぎ取り、口に含む。
それを見ていたレイクが見よう見まねでサソリを食べる。
「うまい……」
驚きの声をあげるレイク。
「ぐすっ」
「ど、どうしたの? レイク」
「ああ。ちょっと母さんの味に近いんだ」
「そう、なんだ……」
「しかし、このサソリは毒を持つ。どうやって捕まえるんだ?」
「ん。普通に素手で」
呆気にとられるレイク。
「そんな危険を冒してまで……。そんなに食べ物に困るのか」
「そうね。刺されると一時間で死ぬ毒よ。仲間が何人も死んだ」
「……そうか」
焚き火のそばでレイクが静かに傾く。
わたしは隣に寄り添い、焚き火の匂いを感じ取る。
太陽が沈み始めている。
「助け、こなかったね」
「ああ。水はある。あと三日はもつ」
「どうやったの?」
「浄水したのさ」
じょうすいってなんだろう。
わたしには分からなかった。
とりあえず水が飲めれば良かった。
「帰ったらアヒージョを食べたいな」
「あら。わたしの料理に文句があるわけ?」
「料理ってとってきただけじゃないか」
「そのわりには美味しそうに食べていたじゃない」
「腹が減っていたからな。しかたない」
うんうんとうなずくレイク。
「ふーん」
意味ありげに呟いてみる。
「あ。いや、アヤメの料理も食べたいが」
「ま、いいけどね」
「いや、俺が軽率な発言をしたせいだな。すまん」
そう言って頭を下げるレイク。
「もういいって。それよりも残りの果実を食べましょう」
「ああ。悪い」
レイクは一番形の悪い果実に手を伸ばす。
気を遣っているのかな。
わたしも二番目に形の悪いのを食べる。
彼なりの優しさなのかもしれない。
ちょっとずれている気もするけどね。
もっと普段から優しい言葉の一つもかけられないものかな。
「なんだ。人の顔をジロジロと見て」
「別に……」
そんなに凝視しているつもりはなかったけどさ。
でもわたしだって女の子だよ。
少しは気にしてもいいじゃない。
まるで兄弟のように扱うもの。
そこがちょっと気に食わない。
異性として見てほしいわけじゃないけど、少しは意識して欲しい。
わたしはどうしようもなく女の子だから。
彼はそんなこと気にしていないんだろうね。
苦笑を浮かべていると、困ったように頬を掻くレイク。
ああ。この時間がもうちょっと続けばいいのに。
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