第4話 珈琲
ペリーは理知的な笑みを讃えてまっていた。
「さ。今日は基本的な文法を学びましょう」
どんっと置かれる資料の数々。その数、六十冊。
「これを読んでもらいます」
「文法学ぶんじゃないの!?」
「そのためには実戦あるのみです。一年の座学より一回の海外旅行と言うでしょう?」
ペリーは資料を開いてみせる。
「さ。ここから読んでください。あ、図書館では静かにお願いします」
「わかったよ、くそっ」
「言葉使いはマーヤさんに教わらなかったのですか?」
「あー。すみませんね。ド畜生」
「変わってませんよ」
呆れたような顔でため息を吐くペリー。
わたしの一生は泥棒で終わるのだと思っていた。
だから、この機会はとても嬉しいさ。
嬉しいけど、
「窮屈なんだよね……」
顎に手をそえて、窓の奥、遠くに望むアール山脈を見やる。
「どうしたのですか? まだ十分も経っていませんよ?」
「うへー。これがあと二時間続くのか……」
「正確には一時間と四十八分です」
「細かいな」
「税理士たるもの、このくらいの細やかさは必要かと」
話が通じているようで通じていない気がするな。
「そういうことが言いたいわけじゃないけど……」
わたしはぶすっと不機嫌な顔をして、資料に目を通す。
「やっと、終わった……」
「お疲れ様です。お茶にしましょう。さ、リフレッシュルームに行きましょう」
ペリーはそう言いつつ資料を片付ける。
「うへー。今日で一生分の本、読んだよ」
「え。これだけで!?」
ペリーが驚いた顔をする。
六十冊は読んだのに?
「そういうペリーは今まで何冊読んだのさ?」
「一万冊を超えた辺りから数えていませんね。この図書館のほとんどは読みましたが」
「あー」
この図書館には三十二万冊はある。
どんだけ読んだんだよ。
「そんなに読むとバカになるでしょ」
「バカだから読むんですよ」
うん。どういう意味だろう。
片付け終えると、待ちに待ったお茶の時間を楽しみたいと思った。
リフレッシュルームに行くと、中にはすでにお客さんがいた。
「よっ。アヤメ」
「レイクさま……」
わたしはぎこちない笑みを浮かべる。
「ははは。いい顔だ。今日はエル地方の珈琲とやらを楽しもう」
「こーひー? 紅茶じゃないの?」
「ああ。その分、うまいぞ。香りがいいんだ」
ソファに腰掛けると、目の前の黒い液体に目を落とす。
「これがこーひー」
「ああ。なんでも新大陸にある豆らしいのです」
「へぇ~」
飲んでみると苦くて、とても口に合わなかった。
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