第17話 エクリプスの剣
裂け目で見つけた父の剣の破片を握りしめながら、俺たちは静かな森の奥へと足を進めていた。その先にあるのは「霊樹の神殿」と呼ばれる場所だ。グラントによれば、ここには古代の英雄たちが使った武器を浄化し、再び蘇らせるための儀式が行える場があるという。
「ここが霊樹の神殿か……?」
俺たちの目の前に現れたのは、巨大な樹木が絡み合うようにしてできた古代の遺跡だった。風化した石造りの門には、剣の形を模した模様が刻まれている。
「間違いない。エクリプスの剣を蘇らせるには、ここで儀式を行う必要がある」
グラントが静かに頷く。アリシアも杖を握りしめながら、どこか神妙な面持ちだ。
「ルシエル、覚悟はいい?」
アリシアが俺を見つめて問いかけてくる。その瞳にはどこか不安と期待が入り混じっているように見えた。
「……ああ、やるしかないだろ」
俺は力強く答えたが、内心では緊張が膨らんでいた。父の剣を蘇らせる――それは、俺自身がその剣に認められるかどうかの試練でもある。もし認められなければ、この先に進むことはできないだろう。
神殿の中心には、古代の祭壇があった。そこには剣を模した溝があり、破片を置く場所が刻まれている。
「これが儀式の祭壇だ。剣の破片をこの溝にはめ込めば、儀式が始まる」
グラントが説明する中、俺は手の中の破片を見つめた。その冷たい感触が、不思議と胸の奥に重さをもたらす。
「この剣は、父さんが使っていたものだ。だけど、俺に扱えるのか……?」
「ルシエル、迷わないで。あなたが選ばれるかどうかは剣が決めること。でも、それを試すのはあなたの意思よ」
アリシアの言葉に促され、俺は剣の破片を祭壇の溝にはめ込んだ。すると、祭壇が淡い光を放ち始め、空気が震えるような音が響き渡った。
「始まったか……!」
グラントが剣を構え、周囲に目を光らせる。何が起きるかわからない状況に、俺たちは全員、緊張の糸を張り詰めていた。
突如として、俺の視界が暗転した。次の瞬間、気づけば俺は真っ白な空間に立っていた。周囲には何もなく、ただ無限に広がる光だけが見える。
「ここは……どこだ?」
俺が呟くと、不意に低い声が響いた。
「汝は誰か――答えよ」
振り返ると、そこには黒い影が立っていた。その影は人間の形をしているが、輪郭が揺らめき、どこか不気味な雰囲気を纏っている。
「俺は……ルシエルだ。カイゼルの息子だ!」
声を張り上げて名乗ると、影は微かに笑ったように見えた。
「英雄の血を引く者よ……だが、それが何だというのだ? お前自身の力を示さなければ、剣はお前を拒むだろう」
「俺の力……?」
影が手を掲げると、剣が現れた。それはエクリプスの剣――だが、黒い光を放つ不完全な状態だった。
「この剣を手に取り、我を打ち倒してみせよ。それが汝の試練だ」
影がそう告げると、空間が揺れ、黒い霧が俺を包み込んだ。
気づけば、影が俺と同じ姿になっていた。まるで鏡に映った自分自身のようだ。
「お前は何だ?」
「お前自身だ。お前の弱さ、恐れ、迷い……それが俺だ」
影の俺は剣を構え、不気味に笑った。
「自分の弱さを乗り越えられなければ、この剣は決してお前を認めないだろう」
影がそう言い放つと、俺に向かって剣を振り下ろしてきた。
「くそっ!」
俺は咄嗟に剣を構え、攻撃を防いだ。しかし、その衝撃で腕が痺れるほどの力だった。
「弱いな。英雄の息子と言いながら、この程度か?」
影の嘲笑が耳に響く。その言葉は、俺がずっと胸に抱えていた劣等感を抉るようだった。
「父さんにはなれない……お前もそう思ってるんだろう?」
「黙れ!」
俺は怒りに任せて剣を振り回したが、影は軽々とかわす。
「怒りに飲まれている限り、お前は何も掴めない。お前の弱さを克服するのは、力ではない。お前自身の覚悟だ」
その言葉に、俺はハッとした。自分の弱さを否定するだけでは何も変わらない。向き合わなければならないんだ――自分自身に。
俺は深呼吸をして剣を握り直した。そして、影に向かって静かに言った。
「そうだ。俺は弱い。でも、それを受け入れて進むしかない。父さんとは違う俺自身の道を――俺は歩むんだ!」
その言葉に応じるように、剣が光を放ち始めた。影が一瞬怯んだのを見て、俺は全力で剣を振り下ろした。
「はああああっ!」
光の刃が影を貫き、空間が眩い光に包まれる。
目を開けると、俺は再び神殿に立っていた。そして手には、完全な形を取り戻したエクリプスの剣が握られていた。その刃は黒と白が交錯するような不思議な輝きを放っている。
「ルシエル……!」
アリシアが駆け寄り、驚きと喜びが混じった表情で俺を見つめていた。
「やったな、ルシエル。剣に認められたんだ」
グラントが頷きながら言う。その言葉に、俺はようやく実感が湧いてきた。
「これが……父さんの剣。そして、俺の剣だ」
エクリプスの剣を握りしめながら、俺は新たな決意を胸に刻んだ。父が果たせなかった使命を、俺が継ぐ。そして、俺自身の道を切り拓いていくんだ。
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