第4話

先生はもう出勤で、昼間あたしはあのアパートに一人だった。


 先生が学校の異動になったのをきっかけに、他にも色々事情があるからお引越しをすることになってる。


 引越しは大きな荷物を持ったりするから、怪我が治ったばかりの先生は心配なんだけど。


 それで……。


「ふえーん」


 思い出したら涙が出てきた。


「ああもう、しょうがないわね。プリンでも食べる?」


 イクちゃんが食べ物でつり上げ作戦を持ちかけてくる。


 プリンなんか喉を通らないよ……ていうことはないから、泣きじゃくりながらうなずいた。






 甘いものって不思議だ。


 お砂糖って何かの魔法でも閉じ込めてあるんだろうか。


 美味しいプリンを食べたら、少し気持ちが落ち着いてきた。


 涙でびしょぬれになった頬を手の甲で拭って、肩から入りっぱなしだった力をため息と同時に抜いた。





「少し落ち着いた?」


 イクちゃんが紅茶の入ったマグカップをもって、座っているソファの前のテーブルに置いてくれた。


 あたしは小さくうなずいた。


「隼人に迎えに来てもらいなよ。それまでのんびりして。今まで慌しかったんだから」


 イクちゃんの優しい声に、あたしは持っていたスプーンをテーブルに叩き付けた。


「あたし、アパートには行かない。ここにいるもん!」


 そして、ドスドスと荒い足音を立てて、自分の部屋に逃げ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る