第2話 世界の果てにある小さな村にて


 まったく、なにをやってるんだ、サイラス達は。

 全人類最強のSランクパーティーじゃなかったのか? サイラスは神に選ばれた勇者だとか言ってたよな?

 それがなんだ、俺が抜けてすぐ、魔王軍に負けて全滅? 情けなくて涙出てくるぜ。


 しかし、妙だな。

 サイラスはアホだが、勇者を名乗るだけあって、でたらめに強い。他のメンバーにしても全員がSランクの冒険者であり、かなりの強者ぞろいだ。

 魔王軍の幹部クラスが相手だったとしても、あいつらが負けるはずはないと思うんだが。

 一体全体、なにがどうなってそんな悲惨な結果になっちまったんだ……。


 勇者パーティーと呼ばれていたサイラス達が敗れてすぐ、魔王軍の総攻撃が始まったらしい。

 無論、人間側も総力を結集して懸命に戦ったが、まるで歯が立たなかった。

 次々と大国が落とされてしまい、あっと言う間に人間側の敗北が決定し、この世界は魔王軍の支配下に置かれる事となった。


 人間にとってはまさに暗黒の時代となってしまった。

 俺がのんびり気ままにスローライフを満喫しようとしていた矢先にこれだよ……。

 ある程度大きな街はすべて魔王軍に占領されているっていうし、都会に行くのは危険だな。

 魔王軍や魔族連中に見付からないよう、どこかの山奥にでも身を潜めて暮らすしかないか。


 情報収集のため、ド田舎の村にある冒険者ギルドに行ってみた。

 このあたりの村はまだ魔族に占領されてはいないが、それは単に田舎だからだろう。


「なあ。勇者パーティーがどうなったのか知らないか?」


 ギルドの受付をしているお姉さんに尋ねてみたところ、彼女は酒を飲みながら答えてくれた。

 って、酒くさっ! 昼間っから飲んでるのかよ。


「さあねえ。魔王軍の精鋭と戦って、ボロクソに負けたらしいけど……その後の生死は不明らしいわー」

「そうなのか。それで、魔王軍の精鋭っていうのは、どんなやつらなんだ?」

「勇者パーティーに対抗するために結成した、魔王軍最強のパーティーらしいけど」

「魔王軍最強パーティーだと? それって、どんな……」


「まず、リーダーは、魔王」

「魔王が!? ラスボスが参加してるのかよ! そんな馬鹿な!」

「残りのメンバーは、魔王軍最強の四天王だとか」

「四天王まで!? ラスボスと大ボス四体のパーティーなのかよ! そりゃ確かに最強だわ!」


 普通は一体ずつ、勇者パーティーの前に現れるはずのボスキャラ達が、パーティーを組んで攻めて来たという事らしい。

 これではサイラス達が負けてしまったのも無理はないのかもしれない。


「そこそこよい戦いをしたらしいけど、致命的な戦力差があったせいで負けちゃったんだってさー」

「致命的な戦力差?」

「魔王パーティーは五人なのに、勇者パーティーは四人しかいなかったんだって。それが敗北の原因らしいわねー」

「なっ……マジか!?」


 ちょっと待て。

 それじゃ、俺がいなかったせいで負けたってのか? 嘘だろ、おい。

 ……俺のせいじゃないよな? クビにされた俺は、むしろ被害者なんだし。


「噂じゃ、魔王パーティーとの決戦直前に、勇者パーティーから脱退したヤツがいるらしいわね」

「えっ!?」

「そいつのせいで勇者は負け、人類は魔王軍に敗れたんじゃないかって話よ。まさに戦犯、人類史上最低最悪の裏切り者よねー?」

「そ、そんな……!」


 いやいやいや、おかしいだろ!

 俺は逃げたんじゃない、クビにされたんだぞ?

 魔王パーティーの存在なんて知らなかったし、俺が抜けた直後にそんな強敵が現れるなんて思いもしなかった。

 だから、セーフ! 俺の責任なんかじゃない! 誰かそうだと言ってくれ!


 しかし、ヤバイな。本当の理由はどうあれ、俺が抜けた後に負けたのは間違いないわけだし。

 その最低最悪の裏切り者っていうのが俺だとバレたら、えらい事になっちまうんじゃないか。

 まあ、こんなド田舎にある冒険者ギルドなら大丈夫かな。一応、偽名で登録してあるし。


「そいつの手配書が回ってきてるんだけど、『ものまね師のショウ』っていうんだって。聞いた事ある?」

「い、いや、知らないな……」


 ひゅー、危なかったな。偽名で登録しておいてよかったぜ。

 ちなみに今の俺は、魔道士見習いのダッシュと名乗っている。ダッシュ……複製品、みたいな意味を込めて。


「魔王軍の連中もそいつを捜しているらしいわねー」

「なっ……なんだって……!」

「負けはしたけど、勇者パーティーは人類最強の戦力だったからね。そのメンバーの一人がどこかに生き残っているとなると、魔王軍としては放ってはおけないんじゃないのー?」

「そ、そんな馬鹿な……!」


 人間側からは裏切り者として賞金首にされていて、魔王軍からも勇者パーティーの生き残りとして狙われてるってのか。

 いや、せめてどっちかにしてくれよ! 敵味方両方から狙われてるって、あまりにもかわいそうだろ、俺が!

 コイツはマジでヤバいな。しばらくどこかへ身を潜めておいた方がよさそうだ。


 ギルドを出た俺は、村の郊外、山の麓にある山小屋へ向かった。

 俺が買い取った、現在の住居だ。

 いい隠れ家だと思ったんだが、もっと人里から離れた土地へ移った方がいいのかもしれない。


 帰り道、村のある方角に向けて、空から複数の火の玉が降ってくるのが見えた。

 それが魔王軍の攻撃だと気付いた時には、すべてが手遅れだった……。

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