当たり前の奇跡

@hina_g

序章 止まっている時間と動いている時間

篠原家之墓


そう書かれた墓に手を合わせる。


「また来るね。」

そう呟いた彼女は、立ち上がり水桶を持ち上げた。

「もう四年前か…。」

四年も経っているという事実は受け入れ難いが、週に一度はここに来ていた彼女も今は少しづつ前を向けている。


「おーい!雛凪!」

彼女の名前を叫びながら一人の男が手を振った

「先輩、お久しぶりです。」

「そんな賢まるなって。もう同じ学校じゃないんだし。」

笑いながら言う彼をみて、雛凪と呼ばれた彼女も微笑んだ。

「そういえばさ、あの遺書は読んだ?」

雛凪は小さく首を振る。

「お姉ちゃんのものいじれてないんです。あの部屋も、あの部屋に置かれてるものも触れなくて。」

「だよな。俺も未だに触れねぇ。」


それだけ言うと、彼は真っ青な空を見上げた。

「みてんのかなぁ、アイツ。」

まるで、その瞬間だけ時が止まったように感じた。

ただ、目に映る情報を頭で処理するので精一杯だったあの頃。

「もう四年だし、そろそろ進まないとだな。」

彼の言葉に雛凪も上を見てから言った。

「私たちが進まないと、お姉ちゃんも進めないですから。」


そうして、差は生まれる。

止まっている時間と動いている時間。

死んだ者の時間は永遠に止まる。

だからこそ、生者は進まなければいけないのだ。


死者の遺した言葉は文字となって残り、大切なものになる。

それに触れた時、壊した時、それが死者の‘’死”になるのだろう。

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