第27話 琴音の打ち明け

深夜、琴音は、寝静まった家族の中で、母親の由香をそっと起こす。

「なあに?琴音。」

「お母さん、アタシ、ちょっと話したいことがあるの。キッチンへお願い。」

琴音は、由香と階段を下りて、キッチンへ行く。明かりをつける。時計は深夜の2時を示していた。椅子に由香と琴音が、座り向き合う。琴音は、由香に打ち明ける。

「お母さん、実は…。アタシ、中学生を卒業したら、アメリカにいきたい。アメリカのハイスクールに入学したい。」

「まぁ、どうしたのかな。すごい意志ね。そうなの。それは、琴音自身が、自分で、決めたことなの?自分の意思なの?」

「うん。決して、この町が嫌いになったわけではなくて。うん。みんな、自分のやりたいこと、賭けているものがあるということが分かって、アタシも、高校生活はアメリカで学んで、そして、大学も、向こうで出て、将来は、世界を回る仕事に就きたい。それに賭けてみたいって思う。」

「うーん。今の琴音の学校の成績を見ると、それは、可能だとお母さんは思う。けれど、異文化の国で向こうのお友達と仲良くやっていけるかい?人って一人では、何もできないわよ。」

「お母さん、今、アタシ、学校でひとりぼっちなの。淋しいの。友達と呼べる人が一人もいなくって。知り合い程度で。アタシの毎日は勉強ばかり。みんなはアタシのこと、秀才さんというけれど、アタシはちっとも嬉しくないの。」

「嬉しくない?それは噓でしょう。心のどこかで誇りに思っているはずよ。人は、誰かに、あなたのやっていることは素晴らしいって言われれば、それは強いものなの。それに打ち込むことができるわ。だから、琴音は、今、勉強に打ち込むことができるのよ。琴音、周りをよく見なさい。決して、琴音は、ひとりぼっちではないはずよ。それなのに、アメリカに行きたいなんて言う夢は、ただの願望。逃げることよ。向こうへ行けば何とかなると思ったら、大違いよ。今、ここでできないことが、将来になったら、できることなんてないのだから。」

「お母さん、よくわからないわ。」

「わからなくてもいいのよ。琴音の意思は、大切に心にしまっておきなさい。琴音は、まだ、中学1年生。じっくり考える時間はあるわ。琴音、今を楽しみなさい。」

「うん。わかった。」

「いい子ね。来年になれば、琴音は、3人の一番上のお姉ちゃんよ。お母さん、頑張って、産んで見せるからね。」

「お母さん。」

琴音は、由香の胸に飛び込んだ。

「お母さんは、琴音は、可能性を秘めているということを伝えたいの。アメリカへ行く、世界を回ること以上に大切なものに、気づいてほしいのよ。」

「うん。今晩はもう寝る。」

「おやすみ。琴音。」


琴音は、自分の部屋に戻って、布団にくるまって、考えてみる。

「今を楽しむことかー。大切なものに気づくことかー。うーん。」

琴音は、いつのまにか、眠りに落ちる。


由香は、ひとりキッチンに残る。「琴音は、お金がかかりすぎるわ。気づいているのかしら。誰がお金を出しているということに…。」


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