第17話 耕造のアクシデント。
耕造は、ヘルメットを被ると、バイクにまたがった。アパートから、バイクを発進させる。
現在、2時45分。由香は、グレーのバッグ、紺のニット、ベージュ色のコートを羽織り、スカーフを頭に巻いて、中央公園に歩いてきた。
道行く人々も寒々しく歩く。上空は青空だ。由香は、見上げると深く深呼吸する。
耕造は、道を、バイクで飛ばす。由香の事が脳裏をかすめる。心が弾んだ。
バイクは、大通りを抜け、小道に入る。100メートル程進んで右折する。バイクは、走ってゆく。踏切に来る。貨物列車が、ガタゴトと通過する。遮断機が上がると、すかさず、バイクを走らせた。
中央公園まで、あと数分のところだった。
左カーブを切ったその時、右から中央線から超えて、走ってきたトラックが迫ってきた。耕造は、ひやりとして、バイクを傾ける。しかし間に合わず、バイクは、トラックと激突した。耕造は、バイクから、道路に投げ出された。由香の顔が遠のいてゆく。耕造は、意識を失った。
耕造は、なげだされて、出血する。耕造の出血は、ポケットの中の指輪のケースを、血で、染めた。
その様子を、目撃していた通行人が、慌てて、救急車を呼ぶ。トラックから、降りてくる若者のあんちゃんは、運転中に携帯をいじくっていたらしい。慌てふためいて、
倒れた耕造の前で立ちすくむだけだ。迫ってくる救急車のサイレンが聞こえる。
救急車が到着する。中から救助隊員が下りてくる。
「イチ、ニノ、サン。」
傷付いた耕造の身体が担架に乗せられる。応急処置が施される。服を脱がされ、胸の傷にガーゼが当てられる。包帯でぐるぐる巻きにされる。バイタルを取る。酸素吸入があてられた。隊員が声をかけが、意識がない。救急車は、星林町中央病院へ向かうこととなり、サイレンを鳴らして、発進した。
何も知らない由香は、冬の寒い中央公園で、ひとり立ち尽くしていた。そばで、遊びまわっている子供たちを見つめる。男の子と女の子が、ボール遊び、シーソー、ブランコに興じている。きゃきぁと遊びまわる姿の景色があった。
約束の3時は、とうに過ぎていた。由香は待つ。風が出てきた。茶色い落ち葉が、かさかさと音を立てて地面を張っていく。不気味にもカラスが、ベンチにとまった。
由香は、ひたすら待った。だんだん、日が傾く。要コーポレーションで働く耕造の姿が思い出される。告白された夜。はじめて彼と結ばれた日。彼の笑顔。温もり。由香は、耕造をいとおしく思う。
夕方の5時になった。由香は、思い切って耕造の携帯に電話をかける。胸騒ぎがする。なんだろう。この感覚。数回コールした後、女性の声が耳に飛び込んできた。
中央病院の看護師からだった。看護師は、由香に、耕造が交通事故に遭ったことを告げた。
突然のアクシデントに、由香は、驚愕する。大通りへ駆け出すと、運良く一台のタクシーが捕まる。
「星林町中央病院へ。急いでください。」
ドライバーさんに告げる。組んだ両手に額を押し付けて祈った。
「耕造さん、無事で生きていて。」
涙が、次から次へと目からあふれて、ぽたぽたとシートを濡らした。
「耕造さん。」
由香は、唇をかみしめた。
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