第6話 耕造の職場とバンド活動 パート1

耕造は、被っていたヘルメットを、ロッカーの中に放り込むと、洗面所に行き水をがぶがぶ飲み、顔を洗う。

新築の家の外壁に使用される建築用のパネルを、今日は30枚作った。そのパネルが専門の大工さんの元へ送られ、家の建築が始まる。だから、家の様々なサイズに合わせて、注目道理にパネルを製造する必要があるのだ。

耕造は、タオルで顔を拭うと、フーと一息ついた。同僚がロッカールームで、めいめい作業を脱ぎ、私服に着替えている。

耕造は、ロッカーの扉を閉めると、ある女性職員のところへ行く。

背後から、声を掛ける。

「美加子ちゃん。バンドミーティングをやろう。」

狩野美加子は、勇一の母であり、耕造のバンドでベースを担当している。

彼女は振り向いて、笑顔で応えた。

「あらっ、うん。いいよ。原田君も呼びましょ。」

「彼はまだ工場の方かな。」

「待っていましょう。」

数秒後、原田将がロッカールームへ姿を現す。

彼はバンドのドラム担当で、バンドの名前を

「ヘビィ―レイン。」

と、名付けた。まだ25歳の若手のホープだ。

原田君は、耕造と、美加子を見ると笑顔を見せた。

「原田君、一緒に、バンドミーティングをしましょう。」

しかし、原田は、申し訳なさそうに、

「彼女とデートがあるんで、またの日に。」

と言う。

「昨日、会わなかったのかい?」

「今日もナンス。」

「若い者はいいねぇ。アツアツカップルだねぇ。でも、原田君、バンド練習は、ドラム抜きでやるのは、意外と大変なのよ。」

と、美加子は上目遣いで原田の顔を見つめる。

原田は、うつむいて、それから天井を見上げてから、2人に申し出る。

「実は、バンドを、しばらく休みたい。」

「ゲッ。」

2人は、驚いて顔を見合わす。

「仕事とバンドと彼女との付き合いとなると忙しくてね。済まないと思っているのだけれども、ホント、申し訳ない。」

原田は、両手を合わせて2人に頭を下げる。

「そうか。君には、言いたいことがたくさんあるけれども、彼女を大事にしてやれよ。」

と、耕造は、原田の頭に手を置いて言う。

「ホント、すまないです。」

原田は、そう言うと自分のロッカーに向かっていった。

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