第3話 幸せな日常 パート1
ここは、G県は星林町。町の東方に、利根川が流れ、その向こうに赤城山が聳える。
北方は三国山脈がつならり、榛名山がそそり立つ。南方は関東平野が広がり、遠方に大都市が広がる。人口6万人の程度の水田や畑の広がる架空の地方都市である。
東の赤城山から朝日がのぞく。町の家々の屋根が、オレンジ色に濡れ始める。スズメが数羽、飛んできて、電柱に止まる。始動し始める町の風景。星林町の朝の気配が、徐々に動き出す。
この町の沢松家の一日が始まる。
二段ベッドの下で、琴音は、寝息を立てている。上で、久留美がすやすやと眠る。
カーテンの隙間から、朝日が差し込む。目覚まし時計が、カチカチ刻む。
目覚まし時計が、6時になったとたん、アラームが、小さな部屋に鳴り響く。
「うわー!お姉ちゃん、時計を早く止めて。」
久留美は、叫ぶ。琴音は、寝返りを打って、起きる気配はない。
「お姉ちゃんてば。」
久留美は、二段ベッド梯子を伝って、床にするりと降りて、目覚まし時計のスイッチを、たんと止めた。琴音は、ようやく目を開けて、もぞもぞと起き上がる。
琴音は、ベットからゆっくり起き上がる。
丁度、由香が、耕造の部屋を訪れる。
「あなた、仕事よ。起きて、朝食ができたわよ。」
6月の梅雨の晴れ間の中、琴音は、勢い良く、玄関から飛び出す。学校への道を走る。鼻歌が出る。
君の歌のおかげで、私は行くことができる。
優しくしてくれたこと、
𠮟ってくれたこと、思ってくれたこと。
私に希望がある限りやるわ。
己と向き合って出した答え。
ヒート ミー アップ あたし。
コンビニエンスストアを右におれると、すぐ学校だ。
一日の授業が、なんとなく過ぎる。
琴音は、思う。
「あたしは家族を好きになることで、いったい何をしたいのだろう?
サングラスに、髭ずらのお父さん。
ホッソリとしたエプロン姿のお母さん。
続いて、カエルを取りに行くのを諦めない久留美。
お父さんは、建設会社のサラリーマン。以前に、パネルを作っているところを見に行ったことがる。お父さんは、ヘルメットを被って、盛んに、木材にハンドドリルで、ねじを打ち込んでいたな。汗だくになって、若い世代の人達に、大声で指示を与えていたな。偉いのだなお父さんは。家で、ロックをしているときは、なんか、バカみたいだけど。
「あたしの生きのいいお父さん。」
続いて、お母さん。お母さんは、読書が好きだ。今は、カミュの『異邦人』何て読んでいる。家のじょうろで水をやったり、猫のミケに餌をやったりしている。お母さんは、今頃、パートで働いているパン屋さんから帰るところだろうな。
妹の久留美は、今頃、幼稚園の砂場で遊んでいるだろう。そんな、久留美をお母さんが自転車で迎えに行くだろうな。久留美は、生き物が好きな女の子。
琴音は、先生の眼鏡ずらを見る。
「今日の授業は、これでお終い。日直。」
校内に、キンコンカーンとチャイムが鳴り響く。
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