第32話:神代真紀の反省

 三宅は、帰宅すると自室に急いで荷造りをした。幸い、母も妹も家を出ているので、誰にも咎められる心配はなかった。


 FREAMを詰め込んだ所で、手が止まる。玄関のチャイムが鳴ったのだ。卓上の置時計を見ると、時間は十二時を少し過ぎたところだった。


 焦る気持ちで玄関まで走り、扉を開けると、そこにいた人間に思わず言葉を失った。


「あっ、三宅」


 制服姿の神代真紀が、驚いた声を上げた。


「……何しに、来たんだ」


 三宅が訊ねると、神代は黙り込んだ。すぐに察しがついた。


 よもや、美亜子までが倒れたのだ。神代が自分を非難する格好のネタではないか。

 クラスで吹聴するだけに飽き足らず、わざわざ家にまで押し掛けるなど、本当にいい性格をしている。

 三宅は、黙っている神代を睨みつけた。


「用事がないなら、帰ってくれ。忙しいんだ」

「待って!」


 閉めようとした扉を、神代は両手でがっしりと掴んだ。その勢いに、三宅はおもわず閉めようとした扉を止めた。神代は扉から両手を放すと、頭を下げた。彼女の長い髪が勢いよく舞って、だらりと垂れ下がった。


「ごめんなさい!」


 虚を突かれた三宅は、そのまま固まった。神代はゆっくりと顔を上げると、目を伏せたまま、話し始めた。


「私、酷いことを言った自覚がある。それにまた、三宅の知り合いの人が倒れて……。それで、あんたは学校まで休んだ。

一番傷ついているのは、たぶん、あんただったのに……。こんな簡単なこと、私、沙百合に言われるまで気が付かなかった。だから、ごめん」


 神代は再び頭を下げる。神代の背後や、周辺に人がいないことを確認して、三宅は溜息を吐いた。どうやら、一人で来たらしい。


「……言いたいことは、それだけ?」

「あと! 私のせいで広まっちゃった噂は、私が、どうにかするから。他にも、力になってほしいことが有ったら、なんでも言って」


 慌てて、神代は愛想のいい元気な顔を作って、付け足した。


「まあ、許すつもりはないな」


 三宅が言うと、神代の顔が強ばった。先ほどの元気が、青菜に塩をかけたようにすぐさまに萎れていく。

 三宅は、そんな変化目まぐるしい神代を見て心の中で密かに笑った。


 自分は、疑心暗鬼の馬鹿だ。そして神代真紀は、裏も表もない素直な馬鹿のようである。

 馬鹿同士、自分たちは、案外、ちょうどいいのかもしれない。力になってくれるというのなら、是非ともなんとかしてもらおう。

 最大の問題を、今まさに抱えているのだ。


「許すつもりはないけど……。力を貸してくれるなら、早速頼みたい。一晩、泊めてほしい」

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