第23話:いつかどこかで見た景色

 生暖かいそよ風が、頬を撫でる。


 大きな窓から見える空は、夏晴れで、からりと青く晴れ渡っていた。窓辺の花瓶に飾られた、明るい青色の花弁をした花は、まるで空の青を映したようだった。


 視界の端に動くものが目に入った。風に揺れ動く白いカーテンだ。

 カーテンがゆらゆらと風に舞い、ベッドの脚がカーテンと床の隙間から覗いている。

 ベッドも、大きな窓に対抗するように、ひと際大きい。


 三宅は辺りを見回して、自分が白い部屋の窓際に佇んでいることに気がついた。

 白を基調とした室内は、まるで病室のようだ。

 どこからか、子供たちがはしゃいでいるような声が聞こえた。


 ぼんやりと、三宅は考える。


 自分はどうして、ここにいるんだろう。どうやって、ここに来た……。


 空中に浮かんだように制御の利かない身体が、徐々に感覚を取り戻していく。だが、意識だけが、霧のように漂うばかりで形を成さない。


「また、来たの?」


 幼い声に気が付いて、カーテンの向こうを見た。薄く透けたカーテンの向こうに、ベッドから上半身を起こした人影が見えた。


「うん。お見舞いに」


 人影に向かって答える。自分の口は、勝手に動いた。


「だれの?」

「●●●●●●」


 三宅は答えた。自分で発した声のはずが、何を言ったのか理解できなかった。


「そうなんだ」


 声は、こともなげな調子で返ってくる。興味がないのか、機嫌を損ねたのか、その声の様子からは分からない。


「ねえ、遊ぼうよ」


 ベッドの主は、きっと退屈しているんだ。そう思って、三宅は人影に誘いをかけた。


「……今日は、だめ」


 寂しそうな声が、ぽつりとつぶやいた。

 残念に思う気持ちで、三宅は押し黙った。せっかく、遊びに来たというのに。

 このまま帰ってしまうのもつまらないと思っていると、声は、調子を明るく変えた。


「だから、ここで話をしてよ。なんでもいいから」

「急に言われても……」

「じゃあ、本のお話をして」

「本?」

「うん。とびっきり楽しい本の。ほら、こっちへきて……」


 誘われるままに、三宅はカーテンに近づいていく。揺らめくカーテンに手を伸ばした。


 その時、強い風が吹いて、三宅の身体は思わず飛ばされそうになった。

 風に押され、部屋の隅まで追いやられてしまう。

 目の前のカーテンも、風を受けて大きく波打っていた。


 風を受けて膨らみ、翻ったカーテンの裾はベッドの高さを超える。

 そこに横たわる者の白い肌に浮き上がった鎖骨が、視界に映った。

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