無性の寂しさを覚える季節になった。外を見ると葉っぱは赤や黄色、オレンジに色付いている。この季節になると孤独が妙に心地良いのだ。

 そして高校生になって2年と6ヶ月が過ぎ、そろそろ受験の時期へとなっていく。

 僕は大学へ進学するか就職するか迷っていた。と言うより彼女に着いて行こうとおもっている。

 そんな彼女はと言うと2ヶ月前に出した新作、『悲しみに染まった海』は大ヒットし、海外でも注目されている。彼女はこの事もあり、高校を卒業した後は小説家としてより本格的に活動していくそうだ。

 なら僕もやる事は決まっている。

僕は隣で寛いでいる雪音に話かけた。

「雪音、高校卒業したらさ僕を雪音のアシスタントとして雇ってくれないか?」

 僕がそう突拍子もなく言うと、彼女は驚いた表情を見せる。

「急にどうしたの?頭でも打った?」

 珍しく彼女は驚いたまま、そう言った。

「どうせ、何やってもダメなんだ。わかっているなら少しでも良い未来に繋がる選択肢を選ぶだろ?」

 自分で言っておきながら、自分を卑下した事で僕の心はすっかり沈んでしまった。

「あー、まぁいいよ。手伝って貰いたい事もいっぱいあるし」

 彼女は立ち上がり、テーブルの上に置いてあったスマホを取り何かを調べ始めた。

「これ、手伝ってよ」

そう言って僕の顔に突き出されたスマホには、もう少しで僕達が卒業する学校が映っていた。

 5年前に建てられたその校舎はとても綺麗だ。更に制服のデザインが良いと評判高い。こんな誰でも入学したいと思わないわけがなく、毎年1000人以上の受験者がいるそう。

 そんな全国的にも人気で評判高い学校をどうするのだろうか。

「学校壊そう!爆弾で!」

 何を言っているのだろうが。急な事で僕の思考が止まる。

「実は新作書いていてね。その新作に全国的に有名で、評判高い学校が出てくるんだけれど、そんな学校を爆弾で爆破するシーンを書きたくてね」

 彼女は相変わらずの笑顔を浮かべながら言っている。

「でも実際そんな学校が本当に爆破されちゃったらどうなるんだろうって思って。計画はもう考えてあるし、後は実行だけだからさ!手伝って!」

 そう語る彼女の声には期待に満ち溢れていた。

 そんな雪音を止める事はもう出来ないだろう。計画の土台を考え、更に期待に染まった彼女の顔は本気で実行するに違いなかった。そして何よりそうなってしまった雪音を止める術を僕は知らなかった。

 秋が過ぎ季節は既に、春はもう本番に差し掛かろうとしていた。

 僕達は2ヶ月前に晴れて高校を卒業し、何も囚われないそれ故に全責任が自分一人に伴う大人となっていた。

 そしてそれと共に学校を爆破する日が気付けば残すところあと一日と迫っていた。

計画はこうだ。

 明日の午後1時から行われる新入生の入学式に参加し、事前にステージの下に仕組んだ爆弾を遠隔で起爆させる。

 この爆弾は見た目は爆弾にすら見えないが、軽く学校は木っ端微塵に出来るほどの威力がある。そのため僕達が入学式に参加すると、確実に僕も死んでしまうだろう。

 だから、僕達は準備した。

「彼女が自殺希望者を募集しよう」

 卒業式に行く道中、彼女は突拍子もなくそう言うとスマホをいじり始めた。

 彼女のスマホを覗き見ると、既にSNSで募集を掛ける文章を作成していた。

 文章が完成すると、スマホを彼女の白髪によく似合う制服のポケットにしまう。

「募集は掛けておいたから、卒業式が終わる頃には何人か集まってると思う」

 果たして本当にそうだろうか。自殺希望者なんて沢山居る訳ではないだろうし、簡単には集まらないだろうと思っていた。

 学校に着き、卒業式が始まる。

 入学式の時からこの3年間、毎日来ていた制服を着れるのも今日で最後かと感情に浸っていると、同じく制服に包まれている雪音が入場して来た。毎日見ていたはずの彼女の姿は何故だか何よりも綺麗に見えた。

 同じ卒業生のみんなも3年間身を包んだ制服を、どんな日よりも着こなしていたが彼女は遥かに別格だった。

 一足先に蕾になり花を咲かせた桜のような存在感が僕を圧倒していた。

 卒業式が終わり何時もより早く最後の帰路に着く。

「今日でこの制服を着るのも最後かー。少し感慨深いね」

 そう言うと、彼女はいつも通り僕に微笑んだ。

そんな彼女を見て少し顔に熱が走る。

「雪音、綺麗だったよ」

「え?いつもと何も変わってないけど?」

 そういたずらそうに笑いながら言う彼女は本当にいつも通りだったのだろう。だけど僕にとっては今日の雪音はいつも以上に綺麗に見えた。

 そんな彼女も少し頬を赤らめて照れているように見えた。

 無言が続き話題を出そうと僕が口を開けた時だった。

 彼女のスマホに通知が来て、彼女はそれに反応しスマホを開く。するとたちまち彼女の顔は希望の笑顔に染まっていった。

「自殺希望者、沢山集まったよ。ざっと200人ってところかな」

 そう言うと、彼女はスマホの画面を僕に向ける。そこには自殺希望者からの連絡が200人以上から来ていた。

 この世界は本当に残酷だ。

 僕が思っていたより、この世界には自殺希望者が沢山居るみたいだ。

 僕はこの結果に酷く胸を痛めた。

 だけどやるしかない。

 彼女が良い小説が書けるように。

 卒業式が終わった次の日、僕達は昨日決まった自殺希望者の人と朝美山公園で10時に待ち合わせしていた。

 希望者の名前は鈴山 彰人さん、性別は男性で年齢は32歳。身長172センチと事前に詳しく調べて事細かく記入された資料を見つめる。

 まだ若いのに、何故彰人さんは自殺しようと思ってしまったのだろうか?

 そんな事を考えていると、どうやら彰人さんが公園に着いたようだ。

 僕達は彰人さんが立っていると言う、東入り口へと向かった。

 東入り口に着き、彰人さんを探す。

「あそこに立ってるは人かな?」

 雪音はそう言うと、躊躇すらせず立ってる人に話かけに行ってしまった。僕も慌てて追いかける。

「あの、すいません!鈴山 彰人さんですか?」

「…あぁそうだよ。君が𨕫野さんかい?」

 雪音が話しかけた男性はどうやら鈴山さんだっらしい。

 だが目の前に立っている男性は事前に鈴山さんから送られてきていた、自撮り写真に写っている鈴山さんとは別人のようにこけていて、その口から発せられる声には生気が感じられない。

 本当にこの人は鈴山さんなのだろうか…?そんな疑問が頭に浮かぶがとりあえず話を聞く事にした。

 近くにあったベンチに座り、なぜ自殺を希望するのかをまず聞いた。

「5ヶ月前のトラックの事件覚えてますか?実は妻と娘がその事故に巻き込まれたんです」

 僕は息が詰まった。そして同時にあの時の記憶が蘇る。

「あの日は僕の誕生日だったんです。妻と娘は僕の誕生日プレゼントとケーキを買いに行っていました。『今から帰るよ』と連絡があり家で待ってたんです。だけどいくら待っても妻と娘は帰ってきませんでした。妻と娘が事故に巻き込まれたと聞いた時は膝から崩れ落ちましたよ」

 僕の鼓動はさらに早くなった。血まみれになって倒れて居る被害者達、その中に鈴山さんの奥さんと娘さんがいたという事実がさらに僕の胸を締め付ける。

 トラウマが蘇り、吐きそうになったところで雪音が口を開いた。

「そんな事があったんですね…私もその事故は知っています。その事故の被害者に奥さんと娘さんが巻き込まれたなんて…ねぇ春馬!この人を採用しよう」

 僕は驚いた。自分で起こした事故をまるで知らなかったかのように白々しくいえるなんて…

 信じられない。彼女には罪悪感と言う感情がまるでない。それどころかそもそも悪いことを悪いと思っていないのかもしれない。

 しかし、もうこの時の僕には彼女の言いなりになる以外の選択肢なんてなかった。この時の僕にもまた彼女と同じく罪悪感と言う感情が消えていってしまっていたのかもしれない。

 その日は3人で打ち合わせをして終わった。

 解散し僕と雪音は帰路に着く。辺りはもう真っ暗だった。

「結構遅くなっちゃったねー。だけどあと実行するだけってところまで打ち合わせできたからよかった」

 彼女は笑顔でそう言うと、彼女は僕の手に指を絡ませてきた。

 僕もそれに応答するように指を絡ませる。

 なかなか慣れない手つきでお互いに手を繋ぐ。雪音と手を繋ぐのは初めてではなかったが何回やっても気恥ずかしく、慣れなかった。でもそれがまたよかった。何か新鮮で、恥ずかしい気持ちを纏わせた手をお互いが絡ませる。そして二人で何気ない話をするのが何よりも好きだった。

 でもこの日だけはそうはいかなかった。僕は彼女に聞かなければならないことがある。

「鈴山さんの家族があの事故の被害者だってこと知ってたの?」

「知ってたよ。知らなかったらあんな白々しく言えなかったよ」

 きっと、なんで知ってたかなんて聞いても彼女は答えてはくれないだろう。

 彼女には秘密が沢山ある。その秘密を聞いても答えてくれた試しが無かった。そして僕は知るのを諦める。ここまでがいつもの一連の流れだった。

だが、今回はどうしても知りたかった。

 僕は彼女には内緒で雪音について調べる事にした。

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君と一万回目の恋をする 青言 翔太郎 @SHOTA1014

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