#7「道のり」
最初に出くわしたモンスターをあっけなく倒してしまったイスメルさん。とてもとても逞しい反面、私の出る幕は一切なし。
「とても有り難いんですけど! 火魔法は使いたかった!」
「……なんか、すまん」
「あ、いや……こちらこそすみません。八つ当たり、でしたね」
なんで謝らせてるんだ私。火魔法を使って活躍するチャンスを失ったのは、他ならぬ私自身のせいなのに。にしても、そもそも、火魔法にしてもその他の属性の魔法にしても、白黒だから味気なんてあったもんじゃないけど。
「……そういえばイスメルさんって、大分鍛えてますよね? 一体どこで修練を……?」
「元々俺は格闘家の家の生まれだ」
「あ! そうなんですね」
どおりで立派な体格だと思った。それなら納得がいく。
「音楽をやりつつ、格闘もやった。生きる術はあったほうがいい。吟遊詩人とは、基本的に一人さすらう。だから、いつ魔物に襲われてもいいように鍛錬を積んでいた。そんな時にリンダ、お前が現れた」
「私が……」
私、正直向こう見ずに行動して、切羽詰まってたからたまたまそこにいたイスメルさんに話しかけただけなんだけど……。
「なんだか放って置けなかった。それに、色のある世界に興味がないと言えば嘘になる。そこから生まれる曲もあるだろう?」
「なるほど……だからついてきてくれるんですか?」
「それもある。前にも言ったが、お前の行動は危なっかしい。どちらかと言えばそっちのほうが比重は高い」
私って、思ったよりも世間知らずだったのだろうか? まぁでも、火属性のモンスターが現れていたら、たとえそれが雑魚であったとしても尻尾を巻いて逃げるしかなかっただろう。
その点、イスメルさんがいてくれるのは安心感しかない。私は守られている存在だ。いつかそれは脱却しないといけない。どこか、最寄りの街に着いたら、ちゃんと勉強しよう。
「……ここは」
勉強……したかった。けれど着いたらそんな状態では到底なかった。その街には、人っ子一人、いなかったのだから。
彩り旅行 朱田空央 @sorao_akada
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