容疑者AI
トム・今本
第1話 貴方の隣にいるのは誰ですか?
某月某日 東京都内で一人の女性がアパートの一室で殺害された。
死因は鋭利な刃物で胸部を一突きされたことによる刺殺。
金品など奪われた痕跡はなく、現場も荒らされた痕跡がないことから物盗りの犯行ではないと判断された。
「どこにでもある普通の殺しっすね。犯人逮捕も時間の問題でしょうね」
「馬鹿野郎。そういう油断が命取りなんだよ。いついかなる時も慎重を期して捜査をする。それが警察官としての心構えだ。忘れんじゃねえぞ」
「はっ!申し訳ありません」
この春から警視庁刑事課に赴任が決まった新人警察官『今村 明彦』を窘めるのは刑事歴30年というベテラン刑事『塚田 慶太郎』。
これまでにも多くの事件を解決へ導いたことから「刑事課の親分」などと呼ばれている。
「それで塚田刑事は今回の事件をどう見てるんですか?」
「ぱっと見は単純だが意外と難事件かもな」
「それはなぜです?」
「見てみろよ」
そう塚田が指差した先にあるのは凶器の包丁だった。
これになにがあるというのだろう。
今村は包丁に穴が空きそうなくらいじっと見つめたがまるでわからない。
「ただの包丁ですよね。これになにがあるんです?」
「この包丁は被害者のものだ。つまり犯人は堂々と被害者宅に上がって凶器を持ち出し、それで被害者を殺害したことになる」
「ええ。そうですね」
「そう考えたら現場がやけに綺麗すぎないかね。被害者は前を刺されてるんだぜ。
もう少し抵抗した痕跡があってもいいはずだ」
塚田はそう言って部屋中を見回した。
それに合わせて今村も部屋を見回したが抵抗した痕跡はたしかに見られなかった。
「言われてみれば。近隣住民も被害者の悲鳴や不審な物音を聞いていないと言っていたのも気になりますね」
つまり犯人は被害者とよっぽど親しかった人物。
これは被害者の部屋に入っていたことからも間違いないだろう。
つぎに分かるのは計画的な犯行。凶器を準備していなかったから衝動的な犯行と思うかもしれないが手際の良さが計画性を静かに物語っていた。
「さぁ、新米刑事くん。次にするのはなにか分かるか?」
「被害者の身辺調査ですよね。被害者と親しかった人物のピックアップをして容疑者を絞り込む」
「当たりだ。そっちはお前に任せた。
俺はもう一回近隣の住人から不審人物や被害者について詳しく聞き込みする」
肯定の意と敬意を込め、今村は敬礼で塚田の指示に返答するのだった。
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