第53話 エピローグ

 白と黒の髪、巫女のような服を着た少女。

 白と黒からシクロと名付けられた彼女は神様だ。

 その隣に立つのが俺で、向かいに立つのは完璧なんて超越した金髪の美女。


「世界が離れていく…」

「そうじゃ。むりやりくっつけた世界じゃからの。良かったではないか。無事に世界は救われた」

「…救われた、ねぇ。俺はお手伝いをしたって感じだけど。最終的には勇者がアイツから女神を引き剥がしたんだし。魔王には無理だったし」


 ここがどこか、なんて分からない。

 真っ白な空間の窓のような場所に二人が立っていて、事務机のような何かの前で一人が座っている。

 そして、俺は離れ行く世界を眺めて自分の記憶を辿った。

 全ては用意されていた。あとはキッカケが必要だっただけ。


「勇者シュウはアルテナスに世界の再構築を願った。で、今までのシステムは止めて欲しいともね。あと、皆人間に戻るって」

「えっと…。どちら様でしたっけ」

「レイ、来る前から何度も言っておろう。彼女は」

「キリアだよ。それよりそんな感じで大丈夫なのかい?」


 息を呑むとしか表現できない造形美だから、呆れた顔さえも人間の想像をはるかに超える。

 そんな俺の心を読んだシクロは、思い切り俺の足を踏んで肩を竦めた。


「だ、大丈夫じゃ…。じゃなくて、…です。ウチの世界では結構…。ん?まぁまぁ…か?えー…っと。ね、ご主人?」

「なんでまたご主人?神の威厳は永遠に迷子か?」

「仕方ないもん。神としてずっと先輩だし…」


 神である以上、白黒女神シクロも完璧。

 とは言え、二人には違いがあった。

 簡単に言えば美女と美少女で、ジャンルが違う。

 大人の女神の一人は面倒くさそうに前髪をかき上げた。


「元々、勝手に適当に作った世界。崩壊しても良かったんだけど、まぁアタシとしても愛着が色々あってね。このまま失わせるのもって老婆心が出ちゃったの」

「うちのレイはお役に立てたでしょうか!」

「それなりに、ね?あの子たちも自分たちでやっていくと決断で来たみたいだし。異世界人なんかに頼らずに」


 俺は目を剥いた。


「つまり俺は駄目…」

「アナタのことを言ってるんじゃないわ。半分ね。異世界人が世界を破滅させ、異世界人に救われる。これは神として由々しき事態でしょ」


 それはから前のように女神二人での会話が始まった。

 だが、そこから先は殆ど聞き取れなかったのだ。

 確かに口は動いているし、確かに音は聞こえる。

 言語のようにリズミカル、だがつんざくような雑音。

 そんな中で、1つだけ聞き取れたのは——


「それにしても、なんじゃ、そいつは──」


 シクロから漏れ出た、というより明確に俺の下の方を見ながら言った。


「ふむ。いくつかの記憶は封印させてもらったよ。流石に世界が違うんだからね」

「わ。ビックリした!」


 そして、何もなかったかのように俺達との会話が始まる。


「ぼーっとしないで。ちゃんとシクロ様の説明を聞きなさい」

「よく分からないけど…。僕、レイと一緒に行っていいんですよね。異世界に」

「まぁ、ウチの世界は神様が殆どいないからね。…っていうか、お持ち帰りって」

「いや…。これは成り行きで」

「これからはシクロの世界で望み通り、お前はそちらの存在として生きる。アンタがいるだけで戦争が起きるから、ま。私は構わないわ。属性もそっちの世界の方があってるでしょ」

「人間の姿は男、神の姿は女。確かにウチにはTSキャラはおらんの」

「まぁ…。そこまでは先取りしてないから…」


 ということで、俺の膝にしがみ付いているのはクリプト、もしくはルーネリアだ。

 何せ、ここに居る二人は『リラヴァティ』の外側の存在。

 キリアの話では、外の世界のルーネリアはその程度の存在。

 俺と大して変わらない存在らしい。


「レイ。僕、君の世界に行っても頑張るね」


 つまり、俺は異世界旅行で一人のTS女神をお持ち帰りした、ということになった。

 何を為すべきかを忘れさせられて、得体のしれない異世界に放り込まれる。


 これは流石に…


「シクロ。もう勘弁してくれよ」


 異世界は無数にある。

 人の頭の中まで含めると、それこそ無限に存在する。


 今回は忘れ去る予定だった世界の崩壊を防ぐ。


 ——そんな勝手な物語だった。…らしい

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俺以外の異世界勇者のレベルが異様に上がりやすい件 綿木絹 @Lotus_on_Lotus

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