第4話 鍛錬と鍛錬。あと鍛錬

「お嬢様、もっと腰を低く!」

「はい!!」


木刀と木刀がぶつかり合い、衝撃波が芝生を薙いでいく。

昨日の夜は、あのままぐっすりと眠ってしまっていた。

翌日、朝日と共に目覚めた私は決心した。


「諦めてたまるかぁぁぁっ!!」


空中を蹴ってじいやに急接近。振り下ろした木刀は流石に受け止められ、反撃の回し蹴りは身を低くして回避。

後方に大きく飛んで距離を取ると、じいやが語りかけてきた。


「お嬢様……何もお父上様に頭を下げてでも鍛錬に励む必要はないのですよ」

「情けは不要!これは私が選んだ道なの!!」


色々考えるのも大切だけど、一番大切だと思ったのは基礎鍛錬。

幸いにもこの家にはじいやという師匠がいる。

ボスは強い。でも、勝てないわけじゃない。

秘策はある。しかし、実行するには私の基礎スペックを限界まで上げる必要がある。

じいやが静かに目元を拭った。


「お嬢様……その心意気、若き頃のお父上様にそっくりでございます……」

「もちろん!負けてられないからね」

「よろしい。このアルガルド家執事長であるモルドレック。お嬢様の想いに全力で応えて見せましょう!!」

「うんっ!」


じいやと私は同じタイミングで地面を蹴った。



「お嬢様。こちら、頼まれていた本一色でございます。ご確認を」

「ありがとう、ばあや。探すの大変だったでしょう?」


机の上に積み上げられているのは、この家の図書室にあった古書だ。

じいやと鍛錬している最中にばあや——アルガルド家メイド長のメニアに頼んで探してもらったのだ。

私の問いかけにばあやは首を横に振る。


「そんなことは決してございません。お嬢様は未来ある御当主様の後継。勉学に励まれるのは嬉しい限りです。ただ……」

「ただ?」


ばあやの目が右へ左へ。あぁ、そっか。流石に気になるよね。

私の頼んだ本はどれもアンデットや死霊に関する本ばかり。

様々なゲームでモブとして出てきているアンデット。しかし、この世界での立ち位置は少し特殊だ。


「ばあやも聞いているでしょう?近くでアンデットが出た話と大きな国が滅んだこと」

「エスボール大国ですね。モルドから聞いています。それとアンデットに何か関係が……?」

「私はね。領地に出没したアンデットとエスボール?大国が関係してると思うの。あくまで推測だけどね」


じいや曰く、この世界のアンデットは自らの死を理解できていない人間が変質した姿らしい。

『F a D』本編ではモブの細かい情報については知らされなかった。

そのため、私は改めて知らない情報を集める必要がある。

なにしろ、最初のボスは『屍人従えし亡国の姫君』という肩書きを持つのだ。

ゲームでは見られなかった部分も詳しく探せば、もっと楽に攻略できるかもしれないしね。


「では、私は少し席を外します。何かありましたら、部屋の外で待機しているメイド達に申し付けください」

「は〜い」


ばあやが部屋の外に出たのを確認すると、私は胸ポケットから一枚のメモを取り出す。

これは、私が覚えている限りのボスの情報だ。

改めて見ると、性能は理不尽極まりない。

誰だよ。これを最初のボスにしたやつ。


〈レ・ゼンテ・エスボール7世〉


特徴

・アンデット

・幼い女の子

・背中に炭化した部分←弱点

・歩いた場所が炭化する。効果なし

・弱点は水。有利属性は炎


攻撃方法

・炎のメイド召喚。2体(無制限?)

・炭化した荊。体力減少で数増加

・追尾する炎の槍。体力減少で数増加

体力50%以下↓

・顔が半分炭化する

・死霊の波。触れると一定時間行動不能

体力20%以下↓

・顔が全て炭化する

・物理攻撃無効

・死霊世界を展開。悲鳴で行動不能

・炎のメイド→ナイトに変化


……ほんとに勝てるのか、これ。

オープンワールドだった時に感じなかった恐怖をひしひしと感じる。

攻撃は痛いし、炎は熱い。火傷をしたら貴族社会の今世に大きな影響をもたらすだろう。


「……やるっきゃないか」


鈍器とも言えるほどに分厚い本を開く。

小中高と成績はそこまで良くなかった。

けれども、ラノベ沢山は読んでいたから本を読むことに抵抗はない。

それに、魔法書や魔物の伝承なんて前世では読んだことないから結構面白い。

これなら何時間でも読んでいられるよ!



と、あの頃の私は思っていた。

この数日間、ひたすらに本を読み漁り、じいやの鍛錬に励んだ私だからこそ言える。


「なんかゲームの時より強くなってない……?」


レ・ゼンテ・エスボール7世の襲撃まで


あと85日。

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