第3話 事実と現実
いや、まだだ。まだ諦めてはいけない。
偶然たまたま私の名前がリエナで、偶然たまたまアルガルドという名字だっただけかもしれない!
私は机の上に置いてあるペンを手に取り、現段階で分かる情報を書き始めた。
『F a D』は剣と魔法が存在するオープンワールド型のRPG。
キャッチコピーは『どのような手を使ってでも絶対に領地を守ろう!』。
定期的にボスがやってくる襲撃期と、ボスに備えて行動する準備期という二つが存在する。
このゲーム最大の特徴は、この準備期に分岐点が多数存在し、自分の行動によって結果が大きく変わってしまうという点だ。
私も、初めのうちはレベル上げさえすればなんとかなるって思ってたんだけど、襲撃期のボスが強すぎて話にならなかったんだよね。
ただ、結末が最悪でもボスに勝てるエンディングも複数存在している。
最初のボスは確かアンデットのお姫様。
襲撃期の二ヶ月か少し前くらいにアンデットの目撃証言が発生してからがスタート。
仮にこれが『F a D』の世界なら、私がクリアしたルートを辿ればなんとかなるのかな?
てことは……まずは訪れている行商人を探すのが最優先事項っぽい。
その人から、とある国が最近滅亡した話を聞くことで次のフラグが立つ……だったかな。
行商人がいなければ偶然たまたま出会ったアンデットだった、というわけだ。
「じいや〜きて〜」
屋敷を誰かが爆速で駆け抜ける音が聞こえた。
*
「お嬢様、もうお身体の様子は大丈夫なのですか?」
「大丈夫。それに、領民の話を直接聞くのも領主の役目でしょう?」
「お嬢様……じいや、感激でございますっ!」
おい泣くなジジイ。公衆の面前で領主の娘に恥をかかせるつもりか。
子供たちが足を止め、泣きながら歩く爺さんを指さして首を傾げている。
私としては恥ずかし——老夫婦に頭を下げられたので、軽く会釈を返しておく。
領主の娘である私の顔はそれなりに知られているので、大人たちは軽く一礼してくれる。
「リエナ様、こんにちは」
「リエナ様だ!今日も可愛いなぁ」
「リエナ様!」
……様付けで呼ばれるのがなんともむず痒い。
家を出る前に姿見は見てきたが、正直な感想としては普通の可愛い子供だった。
九歳の子供なんて全部同じだと思うので、詳しい感想は聞かないでほしい。
さて、と。ポケットから折り畳んだ手書きの地図を取り出す。目的地にはかなり近い。
「じいや、武器屋はどこ?」
「右手に少し進めばありますが……お嬢様は武器に興味がおありなのですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
まさか『私が本物のリエナ・アルガルドなのか確かめるの〜』だなんて言えない。
確実に医者を呼ばれる。じいやも目を回して倒れてしまうだろう。
右に曲がってすぐに武器屋を発見。
じいやが扉を開くと、まず目に入ったのはスキンヘッドのいかついおっさん。
そしておっさんに対峙している武器を片手に話す長身の男——行商人だ!!
ゲームと瓜二つの外見をした男は私をみると、ニコニコと笑って挨拶をしてくれた。
「これはこれは。このような場所でアルガルド家のご令嬢に会えるとは。人生とはなんとも奇運なものですな」
「モルドさんならともかく、リエナ様が俺の店に来るなんて珍しいな。もしかして、あの件のことですかい?」
「あ、あの件……?」
嫌な予感がする。
背筋をつーっと汗が流れる。
心臓が皮膚を突き破ってきそうだった。
そんな私の状態などお構いなしに、行商人の男が口を開く。
「実は先日、とある大国が一晩で滅亡へと向かいましてね……」
ここから先の記憶はひたすら曖昧だった。
気がついた時には、私は自室のベッドの中で天井を見つめ、ただ呆然としていた。
ただ呆然としていたのだ。
これから襲いかかる絶対的な恐怖に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます