第6話 再会
「着きましたよ。ここが魔術訓練室です。」
どこかこれまでとは空気感の違う部屋の前でクレアがそう言う。
訓練室の中は殺風景で、数人の白い制服を纏った者しか居なかった。
「なんというか……みんな真剣そうですね。それに全員白い制服……。」
レリアが感嘆しながら部屋を見渡すと、どこか見覚えのある後ろ姿が見えた。
「クレアさん!あの人って……!」
「うん?あぁ、シトラさんですね。やっぱりここに居ましたか。」
レリアが指差した方を見たクレアはそう言葉を返す。
その言葉を聞いたレリアは、一目散にシトラの方へと向かっていった。
「シトラ!!」
そうレリアが大声で呼ぶと、部屋に居た者全員がそちらの方を振り向く。
「ちょっと、レリアさん!」
クレアの声には耳も傾けず、レリアはシトラの元へと駆け寄った。
「シトラ!!!私だよ!!レリア!!絶対会おうって約束した!!」
「……レリ……ア?」
突然の闖入者に対して不審な目を送っていたシトラだったが、その元気な声とどこか見覚えのある風貌に幼馴染の名を問いかける。
「そう!!レリア!!私!あれからいっぱい頑張ったんだ!だからまた一緒に……」
レリアが言い切る前に、シトラがレリアの手を引く。
「ちょ、ちょっと場所を変えるから!着いてきて!」
「わかった!あのね、シトラ、私イロハさんっていうとっても凄い刀使いの人に色々教えて貰ってね、それでね、」
「話は後にして!後で幾らでも聞いてあげるから!」
「えっと、あの、私は……」
困惑するクレアに見向きもせず、シトラはクレアの手を引いてどこかへと歩いて行く。
訓練室の中に居た他の者も何事かと小声で喋っているが、シトラにもレリアにもそれを気にしている様子はない。
そして、呆然と立ち尽くすクレアのみがその場に取り残された。
シトラはレリアの手を引き、人影のない空き教室の中へと入った。
「えっと……改めて、レリア、久しぶり。元気だった?っていうのは……聞かなくても分かるわね。」
「うん!久しぶりシトラ!とっても元気だったよ!シトラも元気?」
「まぁまぁ。ところで、どうしてここに?」
「えっとね、冒険者ギルドで変な人達に絡まれて、それをクレアさんに助けて貰って、それでクレアさんに案内してもらってたの!……あっ!クレアさんのこと忘れてた!」
あっけらかんとクレアを忘れたと言うレリアに、シトラはため息をつく。
「……そういうところは相変わらずなんだ。……何回レリアに存在を忘れられたことか……。」
シトラはレリアに振り回された幼少期を思い返し、呆れながらもどこか懐かしさを抱いた。
「でもでも!シトラと離れてからシトラを忘れたことは一回も無いよ!そういえばシトラ!私が居ない間ここで何してたの?」
「何って言われても、ずっと学園に通ってただけ。レリアは何をしていたの?刀の国に行ったのは知ってるけど……。」
「えっとね、イロハさんっていう人に弟子入りして刀を教わってたの!ほらこれ!私の刀!」
腰に差している刀を指差してレリアは胸を張る。
「刀……実物を見るのは初めて。そう。イロハさんは良い人だった?」
「うん!とっても優しくて、たま〜に怖いけど強くてかっこよくて良い人だった!」
「なら良かった。……レリア、よくここまで来たね。私も何かと色々出来るようになったの。だから、レリアの家もお金も用意してあげる。だから……もう離れないでね?」
シトラはレリアの手を強く握る。
「う〜ん……気持ちは嬉しいけど、せっかく強くなれたんだし自分でやってみたい!だからレリア、私の王都の先生になって!」
「ふ〜ん……。まぁ、良いや。それじゃあ……まずは挨拶の方法。」
そう言うと、シトラはレリアの頭を掴んで顔を近づけた。
レリアが驚きの声をあげるよりも早く、シトラはレリアにキスをする。
五秒ほど口を触れ合わせた後、レリアが無理矢理シトラを引き離して、それから抗議をしだした。
「なっ、シ、シトラ!女の子同士でそんな……しかもいきなり!」
「ふふっ、これが王都式の挨拶。みんなこうしてる。だからレリアもちゃんと覚えて。でも……上手くなるまで私以外にやっちゃダメだから。」
顔を赤くして抗議するレリアに、シトラは何ともない顔でそう応えた。
「えっ、ほ、ほんと……?これ出来ないとみんなから嫌われちゃう?」
「そう。それも、ちゃんと上手く出来ないとね。だから私が教えてあげる。毎日、ね?」
「うぅ……恥ずかしいけど……お願い、シトラ。」
レリアは少し俯きながらもシトラにそう頼む。
「まぁ、それは後々やるとして……レリア、これからの予定とかはないの?」
「え、えっと……この学園に入ろうかなって。」
「……イリアス学園に?レリア、勉強出来るようになったの?」
「いや、勉強はさっぱり。でも、クレアさんに特別試験ってのがあるって聞いたからさ!」
「あ〜……レリア?それは多分辞めた方が良いと思うわよ。」
「え?なんで?」
「だって……その試験の試験官は私。」
「……えっ?」
シトラから告げられた言葉に衝撃を受け、レリアは固まる。
「私も流石に手加減する訳にはいかないし……ね?」
「で、でも……」
レリアは諦め切れない様子でシトラのことを見つめるが、幼い頃から魔法が使えずシトラに勝ったことがないレリアに、シトラに勝つ未来は見えなかった。
「……まぁ、別に王都には他の学園もあるし……」
「……でも、そこじゃシトラに追い付けない。」
シトラの言葉に重ねてレリアはそう返す。
「……レリア、こんなことを言うのは申し訳ないけど……もう私とレリアは次元が違う場所に居るの。……レリア、私が守ってあげるから、無理して私に追いつかないでも……」
「そんなの嫌だ!」
「でも、レリア。実際に……」
「シトラはまだ私の刀を!師匠に教えてもらった刀も知らないのに!……シトラ、八年ぶりに戦おう。シトラに守られるだけなんて嫌。だから、シトラに勝って、私がシトラに負けないって証明する!」
シトラは暫く口を閉ざしていたが、やがてレリアの目をしっかりと見て口を開いた。
「わかった。その代わり、負けても文句は言わないでね?」
そう言ってシトラはもう一度、今度は頬にキスをする。
「えっ、こ、これは……?」
「これは約束の証。これも上手くなるまで私以外とやっちゃダメだからね。」
困惑するレリアを尻目に、シトラは扉の方まで歩いて行ってしまう。
「えっ、ちょっと!」
レリアが引き留めようとするが、シトラはそのまま外へと出て行ってしまった。
「……行っちゃった。」
レリアは呆然と、先程までのシトラとの会話を思い出す。
「……シトラ、ちょっと変わっちゃった?」
そう思いながらも、レリアはシトラの自分を引っ張ろうとする態度にどこか懐かしさを覚え、気にしないことにした。
少しして、クレアの自分を呼ぶ声がし、慌てて空き教室を後にした。
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