エクストラ 美玖の追憶(4)<本編第3幕>
『ミクち、駅前のクレープ屋さんに寄っていかない?』
今日の教室掃除当番だったヨシ君を手伝っていた美玖に、女友達だちが声をかけてきた。彼女たちも今日は部活が休みとあって、下校中の買い食いを楽しみにしてるようだったね。美玖に声をかけたのは、男寄せなのか男除けなのか?
ただ今日は約束が先にあったから丁寧にお断りしたよ。
ヨシ君のお家に呼ばれてるから――ヨシ君に目配せして、理由を添えたんだ。
『『『キャー!!』』』
大声を上げられて、背中をバンバンたたかれた。いつものように過剰反応されていたね。
『そっかそっか、アツアツだねぇ~』
『ちゃんと用意はしておくんだよ~~~』
散々にからかわれたっけ。ひとしきりはしゃいだ彼女たちは、別の子を誘おうって去って行ったね。やり取りにため息をついていると、隣のヨシ君が静かだったんだ。どうしたのかと顔をのぞき込んでみたら、顔を真っ赤にしていたね。ヨシ君がかわいかったよ。そして……想像してくれたんだと思えてうれしくなった。
だから美玖もヨシ君をからかってみた――アレも買っておく?
おかずの材料を買うためスーパーによる予定でいたけれど、ついでに購入しようと提案したんだ。でも――
『僕らにはまだ早い』
ヨシ君に否定されてしまった――顔はもっと真っ赤にしてたのに。待ちきれないけれど、美玖もヨシ君から申し込んで欲しいとは思ってたから。ただ時間がなくなりつつあったんだよ。美玖も心の中で、だんだん焦りが募ってきていたの。
◇◆◇
『今日は真っすぐに家に行かないで、違う道を通らない?』
集合したドーナツショップでハル君が提案したの。そのときは意味があるとは思えなかったから簡単に同意したんだ。それでハル君について歩いた道の先にあったのはホテル街だったんだ。ただの宿泊施設じゃない……男女が愛しあうための宿が立ち並んでいたよ。
『家だと家政婦が来るから出来ないんだ。だから……』
夢見るように話すハル君のにおいがひどく気になりだしたよ。美玖はとっても不快だったの。
美玖たち中学生だよ?――立ち入れば怒られるだけじゃ済まないよと、不安を乗せて会話を続けたけれど――
『ぼくが何とかするよ。時間が必要だけどね』
ひっそりとして人通りは多くない街路だけど、それでも時どきは通りがかる人もいたんだ。でも歩みを止めたハル君は、美玖をきつく抱きしめたの――逃がさないとでも言うように。
『このことは二人の秘密だよ』
トサリ――美玖の手は勝手にカバンを放していた。今日までは何とかハル君の要求を――欲求を少しズラして応えてきていたの。でも修正がもう効きそうにもないし、ヨシ君を出し抜くつもりなことも分かってしまった。
『美玖ちゃん、落としたよ』
乾く唇から何とかお礼を言って受け取った。ここでの用が済んだとばかりに、ハル君は美玖の手を引いて歩きだしたんだ。意気揚々と自分の家を目指してね。
◇◆◇
ホテル街に立ち寄った日からハル君は、一歩踏みこんで触れあおうとしてきた。美玖も抵抗したけれど、その度に二者択一を迫られた。上がダメなら下へ、最奥がダメなら内側へとね。ハル君がとても交渉上手になっていたの。
このままではヨシ君との初めてを迎える前にハル君に押しきられそうで、焦りが頂点になっていたんだ。それに美玖の体は……イケない感触を覚えて、心を裏切ってしまいそうに思えたの。
もちろんハル君を拒絶してしまえば簡単だったかもしれない。ただそれは、ハル君を……いいえ、ヨシ君だって失ってしまうと思ったんだ。すべてがお終いになってしまいそうに思えて、悩みに悩んだの。
こうしてヨシ君と迎えた寝つきの悪い夜、あの声が聞こえたんだ。
――はあ、どちらも手玉に取ってしまえばよいのにね。まあいいでしょう、策を教えてあげる――
寝たふりで閉じていた目を微かに開けてみたよ。静かに寝息を立てるヨシ君が見えただけだった。
――大好きな男の子に、密会の場を目撃させてあげればいいわ。きっと真実を知ろうとするから―
ヨシ君のいつもを考えたよ。そんなものを見たら直後はカーっとするだろうなって思った。けれど冷静でいようとするヨシ君を想像しちゃって――またキュンとしたんだ。
――そしてあなたも、二者択一を迫ればいいのよ――
目が閉じて、美玖はまどろみに包まれたのね。
◇◆◇
翌朝目が覚めて、ヨシ君を起こさないようにベッドを静かに出たの。太陽が昇ったばかりの薄暗い洗面台で冷たい水を顔に浴びせたんだ。頭の中に残った計画図を忘れたかったからね。
たぶん実行したら上手くいきそうだったよ。ただ気まずさをどこかに残してしまうと思ったから、すぐには行動を起こそうなんて思わなかったんだ。それよりも、もう一度ヨシ君にの気持ちを聞いてみようって思ったの。
そして朝決めたことばかり考えて、勉強に集中できなかったんだ。放課後の帰り道に、ヨシ君が美玖の雰囲気を心配してくれてたね。
『風邪ひいたりしてないか? 昨日の夜は、ちゃんと布団をかぶれてたか?』
どっちも大丈夫だよ――美玖はとってもうれしかったよ。その気持ちで勢いをつけて、ヨシ君の正面から背伸びして首に抱きついてしまった。そして潤んだ気持ちをのせて聞いたんだよ――ヨシ君こそ一緒に寝てるだけで満足できてる?
『……あ、ああ。大丈夫。問題ない』
びっくりした顔を見せた後、真っ赤になって横顔を見せる仕草がかわいく思えた。でも続く言葉は、美玖の期待してるものではなかったの。
『前にも言ったけど、まだ早いと思うから』
生真面目な顔を作ったヨシ君にほんの少し怒りを覚えたんだ。だから美玖もついつい素っ気ない言葉をつぶやくだけで。少しだけ早歩きで帰り道を歩いたよ。ヨシ君が慌てて追いかけてきたけど、そのまま家まで歩いたな。
ヨシ君の、バカ!――心の中では毒づいてしまったの。ヨシ君、ごめんね。でもヨシ君の石頭を割るためには計画を実行するしかない、と決めたんだ。
◇◆◇
ヨシ君と行ってみようって思うんだ――あなたにウソをついて悪いと思ったよ。
計画には協力者が必要だったの。だからヨシ君と仲のよい男子を彼氏に持つ女友達に、放課後に彼氏とよく訪れるお店を聞いてみたんだ。そしてお店の商品を調べて、ハル君への誘いの言葉を考えたのよ。
それからもう一つ……アレを買っておかないとって思ったんだ。いざってときに、ないでは済ませられなかったからね。だからヨシ君にも内緒で一人でいつもと反対方向の電車に乗って行ったの。
たどり着いたお店ではとっても緊張したんだよ。ネットで年齢を聞かれたりしないと言われていたけれど……持ってる服の中では大人びたもの着て、メイクも頑張ってみたよ。結果は拍子抜けしたほどだったけれどね。
こうして準備をいくつか整えて、いつもと違うお店でハル君と待ち合わせてみたんだ――新商品が出たらしいから食べに行ってみない?
ドーナツショップと違ってバーガーショップはお高めだったね。美玖のお小遣いでは月に何度も寄れなかったよ。ハル君にはお見通しだったみたいだった。
『お金はぼくが持つよ。だから、その代わり……』
上機嫌に言われたんだ。ハル君にも都合がよかったことに、美玖も考えが回っていなかったの。だから要求を上乗せをしてきてね。その後でハル君には首筋をペロッとされてしまったんだ。もっとエスカレートしてハル君に奪われる前に、早く進展して欲しいとは願ってたの。
願いが通じたと知ったのは、二度目にバーガーショップを訪れた後のことだったんだ。
◇◆◇
『美玖……この写真のことを説明して欲しい』
恒例になったヨシ君のお部屋へのお泊りの夜、ヨシ君が手のひらのスマホをこちらに見せてきた。バーガーショップで美玖とハル君が同じ席で向かいあう姿が、そこにはあったの。これで計画の最初の目的は果たせたね。後はどれだけヨシ君にその気になってもらえるか、美玖の言葉にかかっていたんだ。
確かに美玖だね。これがどうしたの?――努めて淡々と答えたよ。ヨシ君はまだ冷静さを見せていたから、もっともっと熱くなってくれるように言葉を選んだんだ。
『……なあ、どうしてハルと一緒だったんだ?』
語気の強さはちょっとだけだったけど、マユの間のキュートな縦筋には力がこもっていたね。美玖にはわかったよ――ヨシ君の怒りは相当だったって。
何でだろうね? ヨシ君にはわかる?――もっともっと油を注ごうと、質問を質問で返したね。ヨシ君は気づかなかったみたいだけど、目がつり上がり始めてたんだ。
『…………アルバイトか?』
正解! 今晩のキスはとっても濃厚にしてあげるね!――緩急をつけようと茶化してみたんだよ。ヨシ君の目は一気につり上がったから、効果はあったんだ。
『――ふざけるな! ハルのアルバイト話はナシってことだったろ?!』
ヨシ君こそ勘違いしないで! 美玖はアリもナシも言ってなかった!――美玖だって考えてたことあるんだよ。ヨシ君には理解して欲しいの。これからも、ずっとずっと先の未来もヨシ君と一緒にいたい。だから挫きたいんだ。
『なっ!! どうしてだよ。どうしてハルなんかと!』
ヨシ君が美玖のお願いに応えてくれないからだよ。美玖の気持ちを知って先延ばししてきたのはヨシ君だよ――ヨシ君の目を見て、あなたのせいだと気持ちを込めてみたよ。耐え切れなくて目を逸らしたよね。
『それは美玖を心配してだし、それに僕らは子供で……』
ハル君はちょっとづつ美玖のお願いに応えてくれてるの。美玖に気持ちイイをくれるの――本音とは裏腹な気持ちを隠して、うっとりとした表情を作って回想したふりをしたのよ。若さで美玖を止められず、自分以外の男子とイチャついていると思ったから、ヨシ君はうなだれてしまったよね。
『じゃあ、美玖はハルと……』
もう! 何を想像しているの?! 美玖は初めてだから、確かめて! ヨシ君の手で確かめてよ!――押せ押せでお話していたけれど、ここが急所だと思ってヨシ君の手を取ったんだけれど――
『…………』
ここまで女の子に言わせておいて、ヨシ君は意気地なしなの? 何も言いかえせないの?――ただヨシ君の無反応ぶりについ底冷えのする声であおってしまったよ。そしたらヨシ君は美玖の手を強くにぎり返してきたの。
『……分かったよ』
なあに? よく聞こえなかったよ?――たぶん最後の挑発だと思って、精一杯からかったんだ。それでヨシ君は美玖を壁際に追いつめたね。
『分かったよ! やってやるよ! だから後悔すんなよ!』
しないよ!――ヨシ君が怒鳴るから、美玖も喚きかえしちゃった。
だから早く始めようよ♪――でも心の中は歓喜で一杯だったの。計画は達成されたんだって。
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