二人合わされば無敵なんだよ!(いいえ、本当に初対面です。)

「それでは、これからを始めます。」


 さて、この男?は何を言っているのだろうか。

 現に義務教育から高校までは問題無く教育課程を経ている僕ではあるのだが。今一度この不審者の言っていることが理解出来ない。状況としては拉致監禁されている様なものなのだが。とりあえず、この不審者の発言をさかいに至る所からざわつきが感じ取れる。後方から荒れた声が聞こえる。怖い声だ。絶対ああいう人には怒鳴られたくないっていうタイプの怒声だ。でも、知人だったら恥ずかしい限りだ。まあ、他人だったら鬱陶しいだけだけど。


「はあ?ふざけるな!俺はこっから逃げてやる!」


 うわ、居るんだやっぱりこういう人。それに乗っかるようにして自称主催者、僕称不審者は楽しそうな声をスピーカー越しに奏でる。


「ほう、面白い。真っ青なつらのくせして面白いとはぁ、笑わせてくれますね。」


 その声に反応するように再び怒声が……。


「何だとッ!この部屋暗くてよく見えねえだろ!」


 うん、そうだね〜この部屋、スクリーン見やすくする為だけに普通に暗いもんね〜。はは……五月蝿い割にまともな事を言う。


「あ、その件は大変申し訳ございません。只今早急に電気をつけさせていただきますので少々お時間、いただきますね。」


 大丈夫か?この不審者、いや大丈夫な不審者なんて極々稀な希少生物だろう。気性の荒さは感じないものの得体の知れない間抜けといった感じならさっさと解放してくれそうなものだけど。なんか無駄に敬語だし。


[ジ、ジジジ、カチッ。]


 部屋が明るくなって辺りを見渡す。無意識に後方も。結論から言わせてもらえば、フラグを早速建てた男は知人だった。その彼は首を傾け僕と同じように周囲を見渡す。


「ん?コンビニじゃねえのか?」

 それは暗くてもそのくらいは気付くだろう……今はバレないように、と再びスクリーンに目を向ける。


 すると左斜め前から声が聞こえる。年齢の割に落ち着いた少女の声だ。

「デスゲームってどういうことですか。」


「うん?ゲームオーバーがしっかりと反映されるリアル脱出ゲームみたいな体験型アトラクションのことですね。このゲームマスターがお題を出してキミ達がそれを攻略する。生き残った最後の一人が無事、ゲームクリアの生存者。という感じですよ。」


「あ、お昼ご飯食べてくるんでそれじゃ!」

 そして、画面からゲームマスターを名乗るヤツ、は消え去った。


「何?殺し合い?」

「うちには子どもがいるんだぞ!」

「友達に会えないよ……」

「は、ここで死ぬのか?」「助けて……」


 絶望した声が鬱々と周囲に染み渡る。

「やはり、圏外ね。」

 持ち物の没収はなかったみたいだ。まあ、圏外じゃ意味をなさないが。今のところは様子見とさせてもらおうか。


「お前さん、やけに落ち着いてるじゃねえか。」

 隣のおにいさんが急に話しかけに来る。


「いえいえ、あなたほどじゃないですよ。」


「またまた〜、実は経験者だったり?」


「こんなのに参加経験があったら今頃、拉致監禁なんてされてないですって。」


「ははは、それもそうだな。」

 タバコ臭え……。


「で、思うところどうなのよ、キミさあ何か心当たり、あるでしょ」


「何言ってんすか、無いですよ」


「そう?じゃあそのポケットに入ってんの何?」


「なんだコレ……?」

 胸ポケットを見てみれば一つの封筒が差し込んであった。家に帰ってすぐに拉致されたわけでそんなものを持っている理由は一切ない。


「ラブレターだったりしない?」


「はは、そんなまさか」

 ここだけ切り取ればただの平和な日常の一場面に見えなくもないかもしれないが、実際には生殺与奪の権を他人に握られているのである。どうやって殺してくるのかは知らないけど。それを知らずに全て終わってくれると嬉しいな。


「えーっとぉ、この中から一人脱落者を選べ。だって、」


「ちょ、何勝手に読んでるんですか⁉︎」


「ただいま〜、お?おにーさん、読んでくれたみたいですね


「?何よそれ?もう一回読んでもらってもいいかしら」

 声の主は低身長の黒髪ショートの童顔の少女。シマエナガの尾羽根が揺れるピアスを着ける。薄青のブラウス、黒のジーンズ、黒の革ジャン。

 あまり抑揚のない声でこちらに声をかけた。


「おうおう、分かった分かった、」

 と言って隣の男はその紙を丸め、その少女に可燃ゴミを投げつける。


「わ、あぶなッ?」


「お〜ナイスキャッチ〜」


「んもう……は、何よコレ」


「分かったか?デスゲームだぜ?」


「そうそう!コレはデスゲーム!誰がなんと言おうとね!皆さんにはまず最初の犠牲を選んでもらいたいんですよ〜」



「へぇ、面白そうじゃん、ね、こん中で死にたい人っているのかな〜的な感じでさ、ほら選んじゃってくださいね」


[ガンッ!ガンッ!]

 後方から音が聞こえる。


「ん?」


[ガンッ!ガンッ!]


「ね、端っこのかた?」


[ガンッ!ガンッ!メキィッ!]


「お〜、でけたでけた」


「お〜い、にーちゃん!壁にヒビ入ったぞ〜、次は穴でも開けて飯食いに行くか〜」

 アイツだった……。


「は?ちょあの?話聞いてました?」


「あ?あのにーちゃんと一緒なら無敵だから大丈夫だぜ?」

 動揺した声を出すゲームマスター、これには同調してしまっても仕方がないだろう。何やってんだよ。


「あの、答えになってませんが、」

 そうだよな、って何で僕巻き込まれてんの!?


「え、いや、ここに居たら殺されるんだろ?ならぶっ壊して逃げるだけだけど」

 割と正論。


「あ、その手のお客様プレイヤーの方でしたか、まあ邪魔な者には早めに退場してもらうシナリオで死ね、じゃなくてでしてね、それでは」


[ウィーン]


「皆さんも気をつけてくださいね、こうならないように」

 淡々と話を続けてボタンのようなものをカチッと押す。


 すると、白い天井から黒く光る銃が現れる。本当に殺す気だ。


[パンッ!]

 銃から黒い球が弾き出される。


 それに気にする事もないように金髪の男は能天気な声を出す。「あ、開いた」と。

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キミは量産デスゲーム?〜ゲームのルールは"喰らう為"に在る!!〜 玄花 @Y-fuula

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