次元の狭間

 なるほど、そのページを選ぶとはお目が高いですね。


 普通に読まれてしまうとおそらくあなたの"正気度"に影響を及ぼしてしまうと思うので、できるだけオブラートに包んで書くとしましょうか。


 ええ、あれは確かあの帝国で大きな戦争が始まってから96年ほど経った頃だったでしょうか。火種は帝国の軍資金を盗み出した盗賊が兵士に斬り殺された…という物でした。


 しかし、本当に金を盗んだのは斬り殺されたその人物ではなく、盗んだのは帝国の中の数人の兵士でした。おそらく適当な人に濡れ衣を着せて罪を揉み消すつもりだったのでしょうが、その相手が別の国の者となるとそうは行きません。


 それから濡れ衣を着せられた者が住んでいた国の兵士たちが帝国に宣戦布告をし、140年続く戦争になりました。


 その最中の話です。


 どちらの国もですが醜いことに、兵士達に蹂躙された街に住んでいた美しい女は強姦などの暴行を受けた後、弊社の地下牢などに閉じ込められておぞましい日々を送ることになるんです。


 その被害者の一人、彼女は身分を偽って暮らしていた魔女でした。魔法も未熟ながら少しばかり使うことができたんです。


 ある日魔女は自身の魔術を使い、別の国に転移して地下牢から逃げようとしたんです。


 魔女は自身の体に残された魔力を全て振り絞り、見張りの兵士の目が魔女から逸れたその一瞬のうちに転移魔法を唱えました。


 兵士が慌てて止めようとしたときにはもう遅く、魔女はそこにいませんでした。


 私はその時魔女の所有部でしたので、共に転移しました。正確には"転移できなかった"のですがね。


 魔女は前述の通り魔力の全てを転移魔法に使ってしまったのです。


 普通、魔法を唱える際は無駄遣いをしないようぴったりの魔力しか使いません。魔女は焦っていたんでしょうね、転移魔法の必要量を上回って魔力を使いました。


 そのせいか、転移魔法の性質は"場所を移動する"ものから"次元を移動する"ものに進化しました。


 兵士は気づかなかったでしょうが、私達は瞬きよりも短い一瞬のうち、真紫のモヤに包まれて次元の間に転移しました。


 しかし、それ以上先へは行くことができなかったのです。


 未熟な魔法しか使えない魔女に進化した転移魔法を扱いきれるだけの能力がなかったことが原因だったのでしょう。


 私達は一万七千年ほど、次元の狭間を漂い続けました。魔女は2日ほどで次元の影響を過剰に受け、人の形を失いましたが詳しくは書かないでおきます。


 あとは、そうですね。色々な事がありました。次元を迷っていた別次元の獣に破壊されそうになったところを魔女だったモノに助けられたり、次元の番人を名乗る人物と会話を試みたところ魔女だったモノに妨害され番人を死なせてしまったり…


 そんなこんなで魔女だったなにかと仲良く漂っていたところ、突然転移したのです。


 そう、この世界に。


 え、魔女ですか?


 ふふっ、探してみてはいかがでしょう。この屋敷内の何処かにまだ繋がれているはずですよ。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る