休暇テイク 其ノ1
という立ち位置を与えられてる。
毎日彼は当然の様に授業中、学校を飛び出しては、近場のカフェにて
甘味を躊躇なく頂き、そしてまるでなんの問題もなかったかのような
澄ました顔をして、夕暮れの差し掛かった6限目終わりに学校に帰ってくるのだ。
私は、小・中・高と彼と同じ学校だけれども、
彼がそのようなスタンスを崩したことは一度も見たことがない。
しかし、そうは言っても、彼にクラスからの浅学非才というイメージは皆無だ。
なぜなら、彼は成績優秀者であり、前回の定期テストに関しては、
全教科90点以上を叩き出し、全校2位。クラスメイトからは晴れて
”不良神童”というあだ名が付けられるまでに至った。
はたして、そのような結果をもたらす勉強時間は
一体どのようにして生み出されているのか、甚だ疑問である。
そのようにして、皆が彼のことを不信に思い、
奇妙だと思い、別の世界の住人だと、
異端な奴だと、そう思っている。
しかし、最近その彼の自ら発生させるタイプの休暇に、
私は、半強制的に付き合わされている。
現に今も彼は昼休みのチャイムが鳴り響く廊下に、足を放り投げる形で
依然棒立ちのまま私を、制服の襟元から引っ張り上げ、
工事業者が重荷を引くような凄い勢いで引きずっている。
教室の窓から覗く生徒の、周りからの視線が痛い。痛すぎる。
やめろ、今にも猛獣に喰われようとしている小動物を見ているかのごとく
憐れんだ目で、私のことを見つめないでくれ。
腕を上下左右に乱雑に振り回している私は、目線を天井に向けたまま、
声を上げ、彼に抵抗した。
「あの、、、明智さん?」
「なんだね篠原君」
「「なんだね」じゃない!放せいい加減!、さっきから廊下に引きずり回して
何が目的だ!」
彼は何を今更という半分わかりきったようなことを言うような口調で
「当たり前じゃないか、デートだよ、甘い物を食べに行こう
俺は今非常に疲れている。」 と言い放つ。
いや、君は疲れているのかも知れないが、
私はそれ以上に学校の単位を落としたくない。
というか、本当に息がしづらい、そろそろ普通に歩かせてくれないか。
君には見えるか、私の足。これは戦国時代の見せしめ処刑法か何かか、
引きずり方が棺桶と一緒なんだよ。私は棺桶なのか、
こいつは、私をこの身ごと棺桶にするつもりなのか。
そう思っているのも束の間、私がようやく地に足を付いて
歩けるようになったのは、彼が学校の裏門前にたどり着いたときだった。
◆◇◆◇
ようやく彼の手から解放された私は、彼の持つスマートフォンに顔を覗き込むような
形をして問う。
「それで、今日はあなたどうして憩い場へ?」
彼は、スマホの地図アプリを器用に使いこなしては、表示された
ルートに沿って歩いている。
「そんな”YOUは何しに日本へ?”みたいなニュアンスで聞かないでくれるかな?
特に理由はないよ、ただ本当に学校がつまらないだけだ。」
唖然とした。学校を抜け出すというくらいなら、それに至る
まともな理由の一つや二つは持ち合わせていると思っていたからだ。
濁ったような表情を浮かべた。
「そんな曖昧な理由で私を連れ出さないでくれるかな?
私までヤバいやつだと思われるじゃん。皆に嫌われる、、、」
「どういった点で?」
「どういった点で、と言われたら、、、そりゃこんな校則違反、
友達からは訝しげに思われるし、先生からも叱られたりして、
せっかく周りに積み上げてきた他者からの
信頼は実体をなくして、今までの私の好感度は
宙へ舞って消えてしまうじゃない。」
「そのまま大気圏まで上がって塵と共に消えるのがお似合いだよ。
っていうかお前に自分の非行を批難してくれる程の友達って居たっけ?」
「君ってたまにひどいこと言うよね。」
私は言うと、彼はそれもまたわかったような口調で
「たまにね」と言い放った。
その時、彼のスマホが表示したある言葉に、私達は、違和感を覚えた。
「圏外、、、?」
確かにそのスマホには圏外と表示されている。
ただここは学校から近場の住宅街に位置する公園の手前。見上げれば電線。
電波が通っていないはずがない。
必死にスマホを振りながら、
「あれ、なんで繋がらないんだ」という彼。
確かに、なんで繋がらないんだ。
ふと電線から目を落としたかと思えば、その眼の前にある
公園に、その真ん中に、大きなブラックホールのような
深い、深い深淵が存在していた。
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