僕が痴漢された日orz

    ◆


 ――僕がアリスに『痴漢』された日の出来事が、とうとう語られることになる……。


 見苦しく読むに耐えない情けない話しだ、とても――。


 本編を見終わった読者のみなさまは、絶対に見ないでくださ――


 ぜひ、見てほしいニャ!


 おい! 見るなァ!


    ◆


 満員で人があふれる電車内で――


「はあ、はあ、はあ」


 フードをかぶった金髪の少女が、息を荒く吐いていた。

 その前には、背中を向けた少年が立っている。


「ぐっ」


 恥ずかしさのあまり少年は顔を真っ赤に染めた。


 後ろにいる少女から、お尻をすりすりと触られているのだ。


 いやらしく、なめかしく、すりすりすりすりと――。


 何故、こんな事態になっているのかという、それは過去の少年が発言が発端である。


『わ、わかった……いいぞ、アリス……。一度だけ、一度だけ僕に痴漢させてやる。だからおまえは、絶対に麗子ちゃんを救え。いいな、絶対にだぞ』


『本当かい、友! ボク、友に痴漢するため頑張る!』


(ぐっ。な、なぜ僕は、あんなことを言ってしまったんだろう。麗子ちゃんを救うためとはいえ、もっとマシな提案があったはず……!)


 過去の後悔がじくじくと心を蝕んでいく。


      ◆


 ――あの日、麗子ちゃんに頼まれ、僕は麗子ちゃんに痴漢をした。


 そして拷問ような時間が終わり、さわやかな笑顔で彼女は――


「先輩、ありがとうございます、痴漢をしていただいて。これで痴漢の人相手に立ち向かえそうです。ありがとうございます、本当に痴漢をしていただいて。先輩に痴漢をされた経験をバネに、わたし克服してみせますから。ありがとうございました、痴漢をしていただいて……!」


「あ、あははっ。僕も痴漢をしたかいがあったよ……」


 がっくりと肩を落とす僕と興奮するアリスに頭を下げ、気合満々に部室から出て行った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 僕が痴漢する光景を、興奮しながら眺めていたアリスが勢いよくつめ寄ってきた。


「友に痴漢したいぃぃ!」


「い、いまからか!」

 

 動揺する僕に、息をはあはあと、身をくねらせる。


「……もう待てないんだぁ! ボクの心のリビドーは限界寸前なんだぁ……ハア、ハア、ハア……」


「ぐっ。わ、わかったよ……」


 これから僕は痴漢される。

 友に痴漢される。

 僕がヒーローと憧れていた者に痴漢される。

 なんて最悪な日だろう。


 いや、一人のいたいけな少女が救われたと考えれば、しかたない犠牲なのかもしれない。(ほんとにそうか?)


「それじゃあ行こうか」


「い、行くってどこに行くんだ? ここでやるんじゃないのか?」


「駅だよ」


「ま、まさか、満員の電車内というありふれたシチュエーションを使って僕に痴漢する気か?」


 その一言で察してしまう自分が嫌になる。

 

「さすが友だね。よくわかったね。普通に痴漢するのもいいけど、やはり良いシチュエーションの中ですることによって、興奮をより高めてくれるだろう……ハア、ハア」


「ひ、人混みの中で本気でする気か?」


「ふふふっ。ありふれたよくある痴漢現場だが、なぜ痴漢が多いと思う? それは、人がたくさんいるからだ。人は服を着込み 自らの体を隠しているが、他の獣といっしょで裸こそ本来の姿。社会的にそれは無理だが。その本来の姿をさらけ出せないストレスを、痴漢によって解消しているのだ」


「ま、まったく意味がわからん……」


「多くの人間に自分の本性がバレるかもしれない。剥き出しの獣のような欲望がバレるかもしれない。そのスリルを楽しんでいるのだよ。嫌がる姿も含めてね」


「露出狂と同レベルだろ……」


「さあ、心の服を脱ぎ去っていこう!」


 アリスは元気ハツラツに、僕の手を引っ張っていく。


     ◆


 ――仕事帰りのサラリーマンがあふれる満員電車内で、フードかぶったアリスと制服を着た僕は、窓際の手すりの側にいた。


 僕は全身をわななかせた。


「ううぅっ。ま、マジで、マジでやる気かなのか? こ、こんな衆目のなかで……?」


 アリスは「はあ、はあ」と大きく息切らせ――


「ううっ!」


 僕のお尻をいやらしく撫でてきた。


「はあ、はあ、はあ、どうだい、友? いまの気分はぁ? はあ、はあ、はあ……」


「さ、最低だ……」


「最高の反応だ……くくくっ」


 さらにいやらしく、なめかしく、すりすりすりすりと触ってきた。

 全身を真っ赤にして過去の発言の後悔が、心をじくじくと蝕んでいく。


 アリスはいったん活発に動かしていた指を止め――


「そういえば、まだ聞いていなかったね」


「へぇあっ?」


「キミはたしか、一度だけボクに痴漢させてやると言ったね。『一度』とは? 次の駅に着くまでかい? それとも1分かい? いつまでボクに痴漢させてくれるんだい? それをキミの口からハッキリと聞きたいな? はあ、はあ、はあ……」


 後ろで興奮するアリスに対し、僕は『男らしく』覚悟を決める。


「好きなだけしろよ」


「――っ!」


「お前の気が済むまでしろよ。そのかわり――ん ぎ ――っ!」


『もう金輪際、痴漢をしないことを誓え』――とかっこよく言う前にアリスは指を激しく動かし、はあはあと囁いた。


「じゃ、じゃあ、1回『イく』まで……」


( 1回イくまでェ……!)


「じゃあ、1回イくまで、友に痴漢させてもらうよォ!」


 本格的に痴漢してきた。


「〜〜〜〜〜〜〜っっ」(ヤバいヤバいヤバい! こんなの耐えられないよぉ、神様ぁたすけてぇ〜〜)


 降臨せず。悪魔だけが残った。

 お尻を股を触られながら、最大級の後悔が僕を襲う。


(――なんでぇ、あんなこと言ってしまったんだぁ……。痴漢されるならせめて『かっこよく男らしくされてやるぜ』と意気込んで……結局 後悔して……。最高にかっこ悪すぎる……。なら、このまま最高にかっこつけてやるぜ! それがヒーローを目指す者の生き様!)


 ぐっとこらえて声を絞り出す。


「へへへっ。そ、その程度か? その程度の痴漢なんて、僕にはまったく効か んんんんんんッッ――ひィィィィィィィッ! ごめんなさい、嘘です、もう許してェェェェ!」


 強がりが一瞬にして崩壊した。

 最高にかっこ悪いヒーローが誕生してしまう。


「ひゃぁっ!」


 さらなら指先の追撃に、さらなる後悔が僕を襲う。


「その程度か?」


「へぇぁ?」


「友のヒーローとしてプライドは、その程度なのかい?」


 その程度だと? ふざけるな! 僕はまだ耐え――

 

「……はい、そのとおりです、ごめんなさい……。もう耐えられません、やめくださいぃ……」


 僕は泣いてしまった。


「はあ、はあ、はあ、ハア……。友、聞きたことがあるのだけど……? 友はさっき部室で、麗子に痴漢したよね?」


「そ、それは麗子ちゃんに頼まれて、しかたなく……!」


「でもしたよね?」


 もぞぞぞ。


「はいぃ……」


「なら、その感想を聞かせてほしいな。僕が満足できる答えなら やめてあげるよ」


「ぼ、僕は、死んでも痴漢なんかしたくなか――」


「え? なに?」


 も ぞ り。


「い、いや、なんでもないですぅ……」


「ぼくが、『満足できる答え』だよ♡」


 も ぞ ぞ ぞ ぞ ぞ ぞ。


「ぐぅ……」(こいつ、体だけじゃなく心まで犯しにきやがった……!)


 涙目で心折られた僕は、従順にアリスに従ってしまう。


「ううぅっ。れ、麗子ちゃんに痴漢できて……す、すごく楽しかったです……えへへっ。涙を浮かべて耐える彼女の涙の雫をぺろりと舐めたかったです……うううぅっ」 (死にたい……でも、これで……)


 ぺろり。


「ひゃああっ!」


「はあ、はあ、はあ……じゃあ、約束どおり全力で痴漢してあげるねぇ♡」


「話が、ちがあああああああんんんっっ!」


 ――今日、僕は死ぬかもしれない。


 この事態は、麗子ちゃんに頼まれたとはいえ、痴漢をした僕への罰なのかもしれない。

 なら耐えるしかない。

 ヒーローとしてヴィランに負けるわけにはいかない。


 もぞぞぞぞぞぞぞぞぞ。


( たすけてぇぇぇ神様ぁぁぁ―――――ッ! )


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」


 アリスは耳元で息を荒く吐いている。その音が遠く感じ、意識が朦朧して、自分が何をされているのか不明瞭なっていく。


「ううっ。も、もう……」


 僕が限界寸前でつぶやくと――


「もうダメぇ……イくぅ……」


 アリスはバタンと倒れこんだ。


(おまえが、先にイくのかよ!)


 ――――――――――。


『友ォ! 何故、そんな格好を……!』


 ボクの目の前に立つ、『ドスケベ衣装』の友の姿に瞳を奪われる。


『はあ、はあ、はあ……。そ、それは、ボクを誘っているのかい?』


 コクリと可愛くうなづいた。


『友ぉ〜〜♡』

 

 嬉しさのあまり、正面から抱きついた。


 ――――――――。


「お、おい、アリス!」


「友? あれ? なんで『ドスケベ衣装』じゃないんだい?」


 ベッドで寝ていたアリスが、いきなり起き上がって抱きついてきた。


(いったい、どんな夢を見てたんだよ……?)


「ここは?」


「病院だよ」


 抱きつかれたまま、アリスにあの後のことを話した。


「そうか。ボクは興奮しすぎて倒れていたのか……。ああ、思い出したよ。目の前が暗くなって自分が死ぬかもしれないと感じたことを……」


「痴漢で興奮しすぎて死にかけた大統領は、100億年先でもおまえだけだろうな……」


「あのとき、昇天して死にかけた時、ボクは思ったことがあるんだ……」


 抱きついたままアリスは慈悲深く微笑む。


「痴漢なんかより、友と一緒にいる時間のほうが、ずっと幸せを感じるとね」


(こ、こいつ……)


 女神のような笑顔に心が侵される。


「友。これから一緒に一生いよう。死ぬまでずっとね……」


 満面の笑顔と台詞に、僕の心臓の鼓動がドクンドクンと高鳴っていく。


「そ、そうだな……。約束しちまったしな……」


 真っ赤な顔で照れまくる僕に、抱きついたままアリスはニヤリと笑う。


「それはそうと、ご主人様ぁ……。 あと一回させてほしいニャ♡」


「………断る」


 こいつは本当に僕のヒーローなのか?


 そうニャ♪

 

 ――!


 心の中まで侵食してきた。もう僕はダメかもしれないorz



 ――――――――。



 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 楽しんで いただけたなら幸いです。

 ぜひぜひ、また会いましょう。

 さようなら。


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ぼくの猫耳ヒロインはここにいた 佐藤ゆう @coco7

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