第9話 魔法石を独占せよ!

 この世界に来て掲げた2つの目標は。


 僕の資産を増やすこと。


 僕がこの世界を愛すること。


 だから、このリィルという国と手を取り合いながら国と資産を成長させていく道を選んだ。


 しかし、僕は疑問にも思う。


 このリィルとはそれに値する国なのか?と。


 本当に味方につき繁栄をもたらすべき国なのか、僕は値踏みしているのだ。


 そうやって、僕は異国の書物をいくつか取り寄せ、それを開いてみた。しかし、そこにあるのは意味不明の文字列だけだった。


 つまり、リィル語だけが自動的に日本語に翻訳され理解できるのだが、それ以外の国の言葉は僕には理解不能というわけだ。


「翻訳魔法ですかい?」


 そこで、ティナに異国の言葉を翻訳する方法、またそのコストがどれくらいかを聞いた。


「かなり高くつきますぞ。少なくともあたしは習得しておりません。アイテムは高価で、翻訳を魔法で達成するのも外国語を学び理解するのも大して労力は変わらないと言われてますな」


 そうか、ありがとう、と礼を言って僕は確認を終えた。


 異国を拠点とするには翻訳のコストを引き受けることになる。


 母国は自分では選べないというわけか。


 リィルを栄えさせよ――僕は敷かれた道を進む。






 ならば、僕が広言した「魔法石の独占」に取りかかろう。


 情報では、残る2つの鉱山の所有者はヴァルディ卿とドナルド・エーフィ。2人ともリィルでは名を馳せた資産家らしい。


 この2人から鉱山の所有権を譲り受けること。


 今僕のいるサッハダルムの街にヴァルディ卿は居を構えているとのことだったので、まずはそちらから訪ねることにした。


「やあやあ、リィルの政府から話は聞いているよ」


 丁重に迎え入れられて、応接間とおぼしき室で僕とヴァルディ卿は向かい合って座った。僕の両隣りにはクリスとティナがいる。


 ジャック・ド・ヴァルディ。


 へトロ鉱山の所有者。伯爵位を持ちながら大商人としての顔も持つ、リィル国で5本の指に入る有力者。


「さあ早速商談といこう。まずは君の口から話を聞きたい」


「はい。現在リィルが経営、運営する魔法石鉱山は3つ。これらを統合し、リィル国の管轄で魔法石の流通の制御を行い、富を築く。この案についてどう思われますか」


 ヴァルディ卿は少し考えてから、


「効率化、行政化、収益化、ほとんどの面で見て君の提案は魅力的だ。しかし、寡聞にしてわたしは君という商人のことを知らなかった。ファス鉱山の所有権を持つことは事実のようだが、まずは君の資金についてわたしの信頼を築いてほしいな」


 僕は言葉にはせず隣りのティナに視線を向けてみせた。城での出来事から彼女の名前と性質を利用してしまおう。


「よかろう。ティナ嬢の護衛料はわたしも知っている。だがそうなると、へトロ鉱山を君に売ることは、君が今から成功させる事業の、富を生み出す資産をわたしは手放すことになる。これがまずい手であることは君にもわかるだろう」


 大々的に王さまへ提言したんだ、情報は隠し切れない。


「だから、共同所有ということでどうだろうか。君の話にわたしも乗りたい」


 ヴァルディ卿は一度快諾してから、矢継ぎ早に話を続けた。


「君がソネ鉱山の所有に成功したなら、へトロ鉱山の所有権を共有しよう」


 なるほど、『ソネ鉱山の所有に成功したなら』ね。勝ち馬にだけ乗りたい、おまえが勝ち組になるなら認めてやるってことか。


 商談はすんなり成立した。相手が成功が約束されたなら協力する、との姿勢なのだから当たり前だ。


 ヴァルディ卿の抜け目ない商人である面を僕は見た。彼が実力者なのは間違いない。利害が一致するうちはいいが、彼が敵に回らないことを祈ろう。






 ドナルド・エーフィ。


 一代で莫大な富を築き上げた商人。その合理的手腕は誰に聞いても評価が高かった。その逸話を聞くたび、僕の価値観では商人ではなく経営者という形容がふさわしく思えた。かなりの老齢で、現在は商業を引退し辺境で暮らすという。


「次は、エーフィのじいさんに会いに行くんで?」


 ティナが僕に聞いてきた。


「ああ。ティナはエーフィさんのことを知ってるのかい?」


「一度だけ、仕事をしました」


「共有できる情報があるなら聞きたい」


「そうですな……エーフィのじいさんは優れた商人であるとともに大魔法使いです。じいさんの言語論理魔法は一線を画す」


「商人としてはどういう人なんだ?」


「気持ち悪いくらいに理詰めで物事を推進していくお方で、判断を誤ったという話をまるで聞きません。そりゃ富を積み上げてゆくわけですな」


「ティナの表情と、話す評価が一致しないのだけど」


「……報酬の払いもよかったし、仕事の進行も完璧でした。それでもあたしとは相性が悪いんでしょうなあ。好きにはなれません」


 合理主義で商業と魔法を極めた老境の資産家。今から、どうアプローチすればいいのかと頭を巡らすが、直接会ってみるしかないだろう。


 辺境――森の奥深くに隠遁してしばらくと聞く。


 この世界ではメッセージも魔法でやり取りするらしく、先立ってエーフィさんにそれを送っておいた。現代日本でいえばメールのようなものか。


 旅の準備を済ませ、僕たちはまたサッハダルムを発った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に転生したら貯金が500億パルあった ばろに @baronofslg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ