第11話 哀憐

 あぁ、貴方。愛しかった貴方。さようなら、私は今宵、貴方に見切りをつけようかと思います。

 可哀想な貴方。親に見切りを付けたあの日から、貴方の精神は子供のままよ。思考も行動も大人のフリをしているだけの子供だわ。

 自分の居心地が悪くなったらそうっと離れていって、また新しい居場所を探していくのね。人と真摯に向き合うのが怖いのね。愛情の受け止め方を知らないのね。だから与えられた愛情が大きければ持てずに動けないでいるのね。

 貴方にそうさせてしまった、周囲の環境が悪かったのでしょうけれど、少しでも自分の意思で人付き合いに真摯に向き合っていれば大人になれたでしょう。逃げ出して、逃げ続けてしまったあの日から、心が囚われてしまったのね。

 色々な人に手を出して、駄目になったら手を引いて。そうして、また次に自分を受け入れてくれる人を探して。その繰り返し。

 それで最後に残るものは何かしら。薄っぺらい愛情が沢山あればそれで良いのでしょうね。果たして、それもいつまで享受出来るのか。それに自分で気付いてないのが、また哀れだわ。滑稽だわ。

 そんな幼さの残る貴方も可愛くて好きだったのだけれど、私の愛情は貴方にとって重すぎるものでしょう。最も、愛情でもって貴方を圧殺しても構わなかったのです。魔法が解けてしまえばご破産ですわ。

 私が愛情を注ぐ気力も失せてしまいました。

 さようなら、愛しかった可哀想な貴方。さようなら。どうかお元気で。

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民明書房からの引用シリーズ 水底から斯く語りき @minasoko_774

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